「さあ、これがジェシー・ジェームズの顛末だ。」
男は葉巻を灰皿に押し付け、舞台役者のように両腕を広げた。
「ジェシーはこうして殺された。マッド・ドッグの声に夢中になっている間に、有りもしない義憤に
駆られたボブ・フォードに背中を撃たれて殺された。その後、ボブと、マーサとディックの二人がど
うなったかって?」
葉巻の煙が静かに薄れ始める中、男は残された者達の顛末を低く低く告げた。
「ジェシーが死んだ後、ジェシーを裏切った連中には、約束通り賞金が支払われた。だが、裏切り行
為の果てに金を手に入れたという事実は、未だ義を重んじる南部の人間には受け入れられなかった。
ついでに、ジェシーを持ち上げ続けた新聞各社は、次のネタとして裏切り者を糾弾する事を選んだ。」
相次ぐバッシングに、まず、ディックが折れた。そもそも、ジェシーがいて強盗としてやっていけ
た男だ。元々は馬を扱う朴訥な男でしかなかった。バッシングの波を泳ぎ切れず、ディックは小屋に
閉じこもり、腑抜けたようになっていた。
そんな男に、女傑マーサがついていくはずもなく。マーサはあっさりとディックを捨てて、一人ど
こかに行ってしまった。彼女が今、どうしているのかは誰も知らない。
マーサに捨てられたディックは、世間から身を隠すように、本来の馬を育てる生活へと戻った。む
しろこちらこそが彼の本分であり、元の場所に戻る事で彼はようやくにして心の底から落ち着ける場
所を得る事が出来たのだ。
そしてボブもまた、ジェシーを裏切ったことで人生が狂っていた。彼はマーサと同じく、腑抜けた
ディックの元には行かなかった。もしかしたら、あまりにもバッシングが酷く、身動きが取れないだ
けだったのかもしれないが。
いずれにせよ、彼は兄貴と慕ったディックの前には姿を現さなかった。
ジェシーを売った事で得た賞金を腕に抱え、背中を世間の冷ややかな眼で突き刺されながら、何処
かの町で起業したらしい。それはそこそこ上手くいったらしいが、その命の果ては、結局ごろつきら
しい終わり方だった。
「ならず者に撃ち殺されたのさ。ならず者が、ならず者に。」
ジェシーを裏切った人間でなければ、その死は何処にでもある事として埋もれてしまっただろう。
「こうして、ジェシー一派はジェシー一人が死んだ事で、あっという間に壊滅した。まあ、元々繋が
りのある連中じゃなかったしな。ジェシーへの忠誠がそれぞれになかった事もあって、誰一人として
ジェシーの仇を討とうとは思わなかった。ただ、これ幸いにとばかりに、ばらけてしまった。」
ジェシーの兄であるフランクでさえそうだった。
強盗団としての最後のほうは、ジェシーに主導権を奪われてしまい、ただただ言いなりになってい
たフランクは、ジェシーが死んだと知るやすぐさまに自首して、己の命を確保した。
「これが、ジェシーが作ろうとした王国の終わりさ。結局、ジェシーの死を心底から悲しむ者は誰も
いなかった。悉くが保身と金の為に立ち回った。ジェシーの強盗としての命は、あの、ノースフィー
ルドで終わってたのさ。」
サンダウン・キッドが、保安官であった事に止めを刺されていたのだ。ヤンガー兄弟が死に、捕え
られた時点で、ジェシーも終わりを告げていた。
ただ、本人が気づかなかっただけ。生ける屍のように延々動き続けていただけ。
「マッド・ドッグは、レヴァナントを銀の弾丸で貫いただけ。」
本当は全ては、あのノースフィールドで終わっていた。それを、新聞各社と南部のくだらない矜持
が持ち上げて無理やり死人を祭り上げていただけ。
きっと、それを終わらせたのが北部の人間だったなら、やはり終わらなかっただろう。ジェシーは
今も、今度は魂だけでうろついていたに違いない。それとも、まだ動いているのだろうか。
「マッド・ドッグが、そう言っていた。ジェシーなんぞ、撃ち殺した時は既に死人だった、と。」
葉巻の煙は完全に消え失せていた。
煙に巻かれてばかりの男の顔が、はっきりと見える。その顔は、ウィリアムが思っていた以上に若
く見えた。
「ああ、そうかい。だが、あんたの言う事を疑うわけじゃあないが、あんたがなんでそんな事を知っ
てるんだ?サンダウン・キッドと、マッド・ドッグの両方から、その話を聞いたってのか?」
「ああ、そうだよ。」
男は、次の葉巻には手を付けず、代わりに懐から手紙を差し出した。
「僕は、その二人から話を聞いた。正確には、マッド・ドッグがほとんどを話したんだけどな。」
懐かしい、と笑いながら賞金稼ぎは言い、そして思い出したように手紙を書いた。
「そして僕はマッド・ドッグから手紙を預かった。此処で働いている、フランク・ジェームズに。」
ウィリアムがぎょっとした。
確かに、此処にはフランク・ジェームズがいる。その糊口をしのぐ為に、フランクはジェシーの兄
というネームバリューを背負い、誇張された己の人生を面白くもなさそうに演じている。
手紙なんか読まなくてもマッドは伝言も残してるんだけどな、と男は笑う。
そして、手紙の封を勝手に開け、そこから出てきたのは鉛玉一つだった。
「自分の人生くらい、さっさと自分で蹴りを着けろ、だってさ。」
笑ったその顔は、信じられないくらい幼かった。
それじゃあ、と帽子を被り、男は立ち上がる。翻るその背中に、ウィリアムは慌てて問いかける。
「待て、お前は、」
何者だ。
サンダウン・キッドでも、マッド・ドッグでもない。
「マッドが、」
男は振り返りもせずに言う。
「フランク・ジェームズの雇い主は、お前と同じ名前だ、なんて言うからさ。ちょっと興味があって、
そう言ったら、だったら伝言を、ってさ。葉巻一本くれてやるからって。」
扉の前で男は立ち止まって、けれどもやはり振り返らない。すっきりとした背中は、まじまじと見
れば、男と言うよりもまだ少年に近く。
マッドから貰ったという葉巻の香りが、彼を酷く大人びて見せていただけか。
「僕は、サンダウン・キッドとマッド・ドッグに助けて貰った町の子供さ。それ以上でもそれ以下で
もない。」
男は――いや、少年はひらりとジャケットの裾を翻し、
「じゃあ、伝言は頼んだ。」
先程までの語りよりも遥かに幼い声を言い残し、舞台裏から消え去った。