「さて、この時実は、ジェシー・ジェームズの強盗団は既に壊滅状態だった。」

 男はウィリアムに、当時のジェシー・ジェームズの実態について語る。

「ジェシーはディック・ライデルやフォード兄弟といった仲間を増やしつつあった。同時にその他の
部下を失いつつもあった。」

 男は台詞の中に、今後重要な立ち位置を占める人物の名をさらりと混ぜながら、けれども今はそれ
は関係ないと言わんばかりに、話を続ける。

「この時、ジェシーは人生を謳歌していた。強盗団としての奴を止める者は、誰もいない。兄である
フランクも、ジェシーの言いなりだった。ジェシーは自分の意に沿わない者は存在しないと勘違いす
るようになっていた。」

 だが、当然の事ながらジェシーはただの人間であり、只の人間である以上、ジェシーの意に添わぬ
存在など無数に存在する。
 けれども己の我儘が常に叶えられ続けてきた人間が往々に陥るように、ジェシーもまた己の我儘が
叶えられぬとなると、癇癪を起すようになっていた。いや、もともとジェシーにはその気質があった。
かつてノースフィールドで、意味のない殺人を起こしてきたことを考えると、ジェシーは気に入らぬ
人間を、すぐに殺す癖があった。
 その、ジェシーの癖の犠牲となったのは、強盗の被害者達だけではない。

「さっきも言ったように、ジェシーの強盗団の壊滅は、中から崩されたと言ったほうが正しい。一番
の原因は、ジェシーが仲間をまるで信じていなかったからだ。」

 かつての強盗団の要であったヤンガー兄弟の長兄コールは、義侠心に溢れ、仲間を信頼していた。
だから最後まで仲間と共に戦い、逮捕された。
 しかしジェシーは仲間の事を微塵も信じていなかった。

「まずは二人。ジェシーは二人の古参の仲間を殺している。そしてジェシーの形ばかりは腹心の部下
であるディック・ライデルも一人殺している。」

 そこで、男は薄く笑った。

「マッドが少し突けば、そうやってぐらつくような仲間関係だったのさ。あいつらは。」





 マッドはひらりと手を挙げ、サルーンの一画で博打を打つ男を呼んだ。
 男の名はジムといい、ジェシーの強盗団の中でも古参の一人だった。ただし、ジェシーとは馬が合
わず、どうも最近一人で働く事が多いと噂になっていた。
 そんな、強盗団の中から少し距離のある男をマッドが眼を付けるのは、当然と言えば当然の事であ
る。
 マッドが賞金稼ぎであり、しかしジェシーを追いかけてはおらず、またジェシーが何者であるかを 
知らないと信じているジムは、マッドの呼びかけにあっさりと答えた。
 マッドはこれまで何度もジェシーの強盗団の連中に、色々と奢っており、ジムもまた、何度かギャ
ンブルで負けが立て込んだ時に金を肩代わりしてもらった口である。なので、マッドの手招きに応じ
たのも、何か奢ってもらえると察したからである。

「よう、景気が悪そうな顔してるな。」 

 上等の葉巻を勧めながら容赦ない言葉を浴びせるマッドに、ジムはけれども気を悪くするでもなく、 
へらへらと笑いながら、葉巻を受け取る。マッドの葉巻は、普段ジムが吸っているものよりも、遥か
に質が良い。 

「いやいや、ちょっと負けてるだけだ。すぐに取り戻せるさ。」 

 うまそうに葉巻を吸い、ジムは答える。 
 そんなアウトローの様子を眺めながら、マッドはそろそろデカい金にでも手を出したらどうだ、と
別に本気で進めているわけでもない口調で忠告する。 

「ギャンブルで作れる金なんぞ、俺の眼から見たらそこまで大きくはねぇ。俺みたいに、賞金首でも
捕まえたらどうだ?」
「けっ、お前みたいにデカい賞金首を捕まえられるほど、俺は銃に覚えがあるわけじゃねぇんでね。
しばらく遊んで暮らせるような賞金首なんぞ、そうそう簡単に捕まえられるわけがねぇ。」

 自分こそが賞金首になっているなどとは欠片も口に出さず、ジムは拗ねたように答える。ジムが賞
金首であると知っているけれども微塵も感じさせない口調で、マッドは言い返す。

「いや。俺の眼から見ても、明らかに分不相応にデカい賞金を懸けられてる、弱そうな賞金首ならい 
るぜ。」

 葉巻をふかし、ぷかあ、と煙を吐き出してマッドは、おもしろくもなさそうに言った。 
 
「ジェシー・ジェームズ。」 

 ひくり、とジムの耳が動いたことにマッドは気が付いたが、もちろん顔色にも仕草にも、気づいた
という色は出さない。 
 
「知ってるか?ミズーリ州知事が、奴に一万ドルの賞金を懸けたんだぜ?その取り巻きにも五千ドル
ずつ。おかげでほとんどの賞金稼ぎは、そちらに眼が向いて、その間に俺は他の賞金首を取り放題さ。
なので俺の懐は向こう一年は何もせずに生きていけるくらいに、温もってる。」

 にんまりと笑うマッドに、ジムはようやく顔を向けた。

「一万ドルだと?」
「ああ。そろそろ西部全体にこの話は行き渡るだろうよ。んでもって、物凄い数の、自称ジェシー・
ジェームズを殺したって野郎が出てくるぜ。」
「一万ドルなんて金、何処から。」
「そりゃあ、幾らでも宛はあるだろうよ。ジェシー・ジェームズの被害者とかからさ。よくもまあ、
それだけの金を懸けようと思ったもんだが、まあこれは、俺が見るに、賞金稼ぎ向けに出した金額じ
ゃねぇよ。」

 これは、強盗団内部向けの賞金さ。
 マッドの言葉に、ジムは首を傾げる。どういうことだ、と。

「簡単な話だ。賞金稼ぎは確かにこの金に眼が眩んでジェシー・ジェームズを追いかけるだろうけど
な、それは一時的なもんだ。すぐに眼が覚めて、これでジェシー・ジェームズを捕まえても失うもん
がでかすぎると気づく。ジェシー・ジェームズには新聞社が味方についてるからな。新聞社っていう
鬱陶しいもんを敵に回しても構わねぇ奴くらいが、この話に残り続ける。」
「そいつら向けの賞金だと?」
「違う。州知事の狙いは、そいつらじゃなくて、強盗団の内部にいる連中さ。州知事は、強盗団の中
の連中が、金に眼が眩んでジェシーを裏切る事を期待してんのさ。」

 それは半ば本当の事だ。ミズーリ州知事クリッテンデンは、一万ドルを新聞社から誹謗中傷に対す
る見舞金と、強盗団の誰かがジェシーを裏切る為の餌として提示しているのだ。

「は、そんなので裏切るかね。」

 ジムは、微かに視線を泳がせながらも、マッドの台詞を笑い飛ばす。しかし、そんなジムに対して、
マッドは笑みも何も浮かべず、黒々とした深い眼でジムを見つめ、

「裏切るさ。ジェシー・ジェームズ自身がそもそも仲間を信じていねぇんだ。信頼されていない仲間
なら、そしてジェシーよりもコール・ヤンガーに忠誠を誓っているなら、裏切る。」

   ヤンガー兄弟は、ジェームズ兄弟の代わりに捕えられ、そして長兄コール以外は悲劇の末路を辿っ
た。コール自身も、その後決して幸せとは言い難い人生を――犯罪者としては当然の結末だが――送
っている。

「俺の勘なら、ヤンガー兄弟に従ってた奴らは、きっと裏切る。そしてその金を引っ提げて、コール
ヤンガーの元に行くね。」

 ジェシーの強盗団で、昔からいる手下はジムともう一人、エド・ミラーがいる。エドはノースフィ
ールドで殺されたクレルの弟であり、ジェームズ兄弟よりも、どちらかと言えばヤンガー兄弟のほう
に傾倒している。
 その事は、ジェシーも気が付いていた。
 だから、1万ドルとヤンガーの名前を出されて、確かに心を乱したジムと、エドの二人はその心の
乱れをジェシーに見破られ、いつの間にか強盗団の中から姿を消した。
 ジェシーに、殺されたのだ。