「とまあ、これがジェームズ・ヤンガー・ギャングの壊滅の真相だ。」

 男は葉巻を軽く叩き、灰を落とす。ゆらり、と独特の香りが立ち込める。

「こうしてギャングの主犯格であったヤンガー兄弟は捕えられた。そしてギャングの幹部であった連
中も撃ち殺された。まあ、ヤンガー兄弟は絞首刑にはならずに、釈放されたがな。」

 ならず者共は、そもそも縛り首ではなく、無期懲役となった。
 それは厳正なる裁判の結果であったし、サンダウン・キッドも口を出しはしなかった。仮に無期懲
役で命が長らえたとしても、彼らがこれから向かう刑務所は、ミネソタ州で最も厳重な刑務所である
事を知っていたからだ。
 過酷な刑務所内で、彼らが生き残れる保証はなかった。事実、末弟ボブ・ヤンガーは過酷な刑務所
生活に耐えられず、肺炎を起こして死亡している。
 それに、残りのヤンガー兄弟は釈放されたと言っても、二十年以上経って恩赦が適用されたからに
すぎないし、残りの二人――コール・ヤンガーとジム・ヤンガーもその後幸福であったとは言い難い。
 ジムは出所後、自殺している。もともと牧場経営という真っ当な仕事をしていたにもかかわらず、
コールに呼び出されて銀行を襲った挙句、二十年以上刑務所に入れられた男は、社会の変化に耐えう
る事ができなかったのだ。
 残るコールも、弟達や部下を死なせてしまった咎を恐れてか、恐ろしい勢いで宗教にのめり込んで
いった。
 ヤンガー兄弟の、無残な結末である。

「けれども、ジェームズ兄弟は逃げおおせたわけでしょう?」

 ウィリアムは、心臓がびくつくのを抑えながら、ゆっくりと問いかける。
 そう。
 ヤンガー兄弟は倒れた。けれどもまだ、ジェームズ兄弟が残っている。西部劇のダークヒーローと
して作られた、あの悲劇の主人公となるジェシー・ジェームズを含むジェームズ兄弟が。
 すると、男はにやりと笑った。いや、嗤った。

「ああ。ジェームズ兄弟は逃げ出した。保身の為なら仲間を見捨てる事も当然のようにする兄弟は、
この時、ギャング団全てを犠牲にして、サンダウン・キッドから逃げ出した。逆に言えば、それくら
いの代償を支払わなければ、サンダウン・キッドからは逃げられなかった。」

 おまけにジェームズ兄弟はその後しばらくは動けなかった。ほとぼりが冷めるのと、何よりも傷が
癒えるのに時間がかかったのだ。
 そしてその間に、

「サンダウン・キッドは保安官を辞任した。」

 男は、再び葉巻を口に持っていく。

「奴らにとっては吉報だ。何せ、自分達にとっての銀の弾丸が、自ら消え失せてくれたんだからな。
再び世に出る時を、ひたすらに待ち侘びていただろうよ。」
「ちょっと待ってください。」

 ウィリアムは慌てて、男の話を遮った。
 先程からずっと気になっていたことがあった。

「その、サンダウン・キッドというのは、やはり。」

 男は、ウィリアムに遮られたことで一瞬無言になり、しかしウィリアムの質問の意味を知って、あ
あ、と鼻先で嗤う。

「お前の、想像しているとおりだ。」

 ひらりと、と懐から取り出される紙切れ――いや、男の顔写真がはっきりと写されたそれは、賞金
首の手配書だ。

「先程から話しているサンダウン・キッドというのは、この手配書に書かれている男と、同一人物だ。」

 この男は、と低い声が秘密めいた事を囁くように告げる。

「ジェームズ兄弟の報復が近しい者に向かわないよう、保安官を辞め、しかも保安官を辞めたことを、
自分が何をしているのかを知らしめるために、わざわざ賞金首に成り下がったんだ。延々と追われ続
ける賞金首に。」

 そうすれば、ジェームズ兄弟はサンダウン・キッドが何者かを暴露して囃し立てる事はあっても、
サンダウンの近しい人物には手を出すまい――いや、サンダウン・キッドが賞金首となった事で、近
しい者にはサンダウン・キッドが接触するかもしれない相手として、保安官の張り込みの眼が付くよ
うになる。だから、ジェームズ兄弟含め、ならず者達は下手に手を出せなくなったのかもしれない。
 貼り込まれているという事は、逆に言えば安全であると同義だからだ。
 実際に、ジェームズ兄弟はサンダウン・キッドが保安官であった頃に築いた関係者には近寄らなか
った。
 いや、近寄る事も出来ないくらいに、恐れていたのかもしれない。
 兄のフランクは息を潜めて真っ当な生活に入ろうとしていたし、ジェシーもまた、悪さからは手を
引いていた。

「だが、そうはならなかった。奴らはノースフィールドでの失敗から三年後、再び強盗の日々に戻る。」

 もちろんそれは、スラムの住人に金をばらまく為なんて、麗しい理由からではない。
 簡単だ。
 金がなくなったのだ。
 主に、ジェシーの。

「ジェシーって奴は、とにかくギャンブルに嵌っていたらしくてな。女に、酒に、とサルーンじゃ良
いカモだった。奴はサルーンで遊んでいるつもりが、サルーンで遊ばれていたのさ。」

 強盗時代、ジェシーは兄とコールの指揮下で動く軍曹に過ぎなかった。それは、サルーンにおいて
も同じだった。ギャンブラーと娼婦に良いように動かされるカモだった。
 そしてそれは、再び強盗生活に戻った時に、彼の破綻を招くことになる。

「まあ、それはおいおい話していくとしよう。」
「けれども、今からの事はジェシーが仲間の裏切りにあって、その仲間に暗殺されるまででしょう?
 誰だって知っている。」
「誰だって知っている、は、誰も知らない、と同義だ。」

 ひやりとした声で、男は返した。ウィリアムを見る眼はひたすらに冷ややか。

「ギャング壊滅に一人の保安官が関わっていることは知らなかっただろう?それと同じで、お前達は
ジェシー暗殺が、実は賞金稼ぎの手によって行われた事を知らない。」
「賞金稼ぎ?」

 ウィリアムは呆気に取られた声を出す。
 ジェシー・ジェームズの殺害は、ジェシーの賞金――史上最高額である一万ドルに眼が眩んだ、ロ
バートの手によるものだと言われている。
 ウィリアムの反応に、男は愉快そうに笑った。
 
「そう。此処からの主人公は、その賞金稼ぎだ。誰もが知る賞金稼ぎマッド・ドッグが、秘密裡に行
った仕事の一つ。」

 その仕事がいつから始まっていたのかは分からない。
 ジェシー・ジェームズに一万ドルの賞金が懸けられたのを聞きつけ、その仕事を練り上げたのか。
 或いは、ジェシーが再び強盗を繰り返し始めた頃、人々が嘆きながらその足元に金を叩きつけた事
が原因だったのか。
 それとも。
 ノースフィールドで、ジェシー・ジェームズが逃げ惑い、保安官が周囲の喧噪とは裏腹に、静寂の
如く彼らを追い詰めていたのが、原初であるのか。
 それは、本人以外には、分からない。
 ただし、本人から話を聞く事は出来る。

「これから語るのは、本人から聞いた話だ。嘘ではない。何せ、マッド・ドッグは嘘は吐かないから
な。」

 だから、黙って聞くといい。
 ジェシー・ジェームズの暗殺を。