といっても、ギャング共はしばらくの間は、死に体の状態で生き長らえ続けていた。
というのも、ノースフィールドの住人は即座に彼らを追いかける事が出来なかったのだ。理由の一
つは、ノースフィールドには、所謂、走る為の馬がいなかった事がある。
ノースフィールドにいる馬のほとんどが、農耕馬だった。それらは田畑を耕すには最適だが、より
早く駆ける事には不得手だった。
だから、若者の何人かが逃げた瀕死のギャングを追いかけたが、しかし捕えられずに戻ってきた。
その時、ギャングの馬に追いつけるほどの脚を持つ馬は、保安官サンダウン・キッドの馬しかいな
かったのだ。しかしサンダウンは、銀行強盗未遂の後処理で、すぐに動く事はできなかった。死亡し
た無辜の市民の葬儀の段取りも、ある程度は保安官がしなくてはならなかったし、撃ち落されたギャ
ング二人の検死手続きもしなくてはならなかった。
サンダウンが動き出すには、丸一日の時間が必要だったのだ。
しかし、勿論サンダウンは、彼らをみすみす逃すつもりはなかった。
「レイモンドとかいう新聞記者の記事では、サンダウン・キッドは孤独で味方のいない保安官であっ
たらしいな。だが、実際にはまるで違う。」
男は、手の内を見せるかのように掌を見せた。
その言葉に、ウィリアムも頷く。
「ピンカートン探偵社ですな。」
「それに、エイムズ将軍もいるし、そもそもノースフィールドの住人はサンダウン・キッドの味方だ。」
サンダウン・キッドは北部軍の歩兵隊の隊長で、ノースフィールドにはその部隊に所属していた連
中が何人もいた。
「といっても、当時は農民に戻っていたから、ギャングの追跡には向いていなかった。そこで、ピン
カートン探偵社の出番だ。」
ピンカートンはジェームズ・ヤンガー・ギャングの追跡に長年費やしていた。その追跡の最中、何
十人もの探偵が命を落としている。それら全てがギャングの手に寄るものではなかったのかもしれな
いが、けれどもギャングに何らかの形で関係した――或いは感化された連中の仕業であろう事は疑う
余地もない。
復讐の為に、ジェシー・ジェームズの実家に爆弾を放り込んだ男は、動けぬサンダウン・キッドの
代わりに、即座に追跡隊を結成し、ギャングを追いかけた。
「つかず、離れず、決して逃さず。」
「何故?」
何故、ピンカートンは、彼らを発見してすぐに撃ち殺さなかったのか。ウィリアムの問いかけに、
男の顔に侮るような笑みが浮かぶ。
「銃殺刑なんて事にはしたくなかったんだろう。奴らには絞首刑こそ相応しい。ピンカートンは、そ
う思っていたのさ。」
だから、森の中で濡れ鼠になっているギャングを見つけても、探偵達は何もしなかった。保安官の
登場を待つばかりだった。
一方、人目を避けて森の中を逃げ惑うギャング達は、どうやって生き延びるかに頭を悩ませていた。
「やばい。あれは、まずい。」
ジェームズ兄弟が末弟ジェシーは、頭を抱えて何度も呻いた。此処に来るまで何度も人を脅し、け
れどもその脅しはまるで効かず、彼らはひたすらに追い詰められていた。何よりも彼らの脳裏を駆け
巡るのは、冴え冴えとした真っ青な炎だ。
「あの、保安官がなんだって、こんな所に。奴に狙われて、無事だった奴が何人いる?」
「おそらく、豚箱に放り込まれなかった奴は、撃ち殺された奴だけだろうな。」
呻くように、コールが答えた。重症で歩く事もままならぬギャングの要は、ほとんど諦めにも似た
光のその眼に灯していた。その掌には、しっかりと弟の手を握り込んで。
歩くこともままならぬ弟のボブは、皆が完全に足手まといであると認識していた。しかしそれでも、
ヤンガー兄弟は弟を見捨てる事はしなかった。
それは、兄弟の絆ではあったかもしれない。
しかし、血の繋がりなどないジェームズ兄弟にとっては、同じ仲間であるはずのヤンガー兄弟は既
に見捨てるに値するものだと結論付けていた。
ジェシーは、兄のフランクに目配せした。それに、フランクも目配せで答える。兄弟の心の裡は既
に決まっていた。彼ら兄弟の中に、以前からの盟友と人生を共にするという選択肢は欠けていた。
「あーっとだな。とりあえず、これからの事を考えよう。」
フランクの言葉に、コールはやはり諦観の念の深い視線のままで、頷く。
「とにかく、このままだとあの保安官共に捕まるのは眼に見えている。なんとかして逃げなきゃなら
ん。が、このままだらだらと逃げていても仕方がない。だから。」
二手に分かれよう。
これが、ジェームズ・ヤンガー・ギャングの別離であり、破滅だった。
フランクの言葉を最初から予想していたのだろう。コールは静かに頷いた。彼の諦めは、己が捕ま
る事ではなく、ジェームズ兄弟に見捨てられる事に起因していたのだ。
こうして、ヤンガー兄弟とジェームズ兄弟の道は分かたれた。
ただ、奇妙なのは、唯一兄弟達とは血の繋がりのない、そして比較的継承のチャーリー・ピットが、
重症のヤンガー兄弟と行くと決めたことだ。これは、おそらくチャーリーがジェームズ兄弟の中にあ
る白状さを見抜き、同時にコールに深い忠誠を誓っていたからだろう。
いずれにせよ、二手に分かれたギャング達は、それぞれが死に物狂いで逃げ始めた。道行く人を脅
し、馬を脅し取り、民家に押しかけては銃で脅して食い物を漁り、
「けれどもその一つ一つが、サンダウン・キッドにとっては奴らに近づく道しるべになっていた。」
ギャング達は此処でも勘違いをしていたのだ。銃で脅し、一言でも自分達の事を話せば殺すと言え
ば、人は従順になると。けれどもそんな事にはならなかった。脅された人々は彼らが立ち去るとすぐ
に保安官に通報した。
だから、サンダウンの足音は、既にヤンガー兄弟の影に差し掛かっていたのだ。
それは、彼らが農民の家に押し入り、銃で脅しつけ食事を持って来させている時に決定打となった。
「いいか、俺らがいる事を、他の誰にもいうんじゃねぇぞ。」
チャーリーがそう言って脅しつけている間に、ジムは兄弟の手当てを行い、そして食事にありつい
た。農夫とその妻に食事の準備をさせる事で頭が一杯の彼らは、そこから走り去る小さな影に気が付
かなかったのだ。
それは、農夫の、まだ八歳にしかならない子供だった。オスカーという名の少年は、両親に命じら
れるわけでもなく、こっそりと馬小屋に向かい、馬に乗り、保安官達の元に向かったのだ。
「保安官、子供が!」
夜の闇に紛れて、ゆっくりと後進していたサンダウンに、付き従う自警団の一人が飛んできた。彼
に支えられるようにしてやってきたのが、オスカーだ。
少年を無言で見下ろすサンダウンに、そっと自警団が耳打ちする。
「武装したならず者共に、家を占拠されたそうです。」
そして続く言葉に。
「そのならず者共は四人いて、うち二人が重傷を負っているそうです。解くに一人は瀕死に近い。そ
してその瀕死の輩を、コール、と仲間が呼んでいたらしい。」
サンダウンは、きらり、と青い眼を獣の光らせ、静かに頷く。
吐いた言葉は短く。
「行くぞ。」
その言葉に自警団は頷き、しかし首を傾げる。
「しかし、奴らはあと六人いたのでは?残りの二人は?」
「見捨てたのだろう。」
サンダウンの言葉はやはり短い。サンダウンは既に理解していた。ジェームズ兄弟が、素晴らしく
薄情である事を。あの兄弟は、残りの怪我人を置き去りに逃げ去ったのだ。オスカーの家にいる四人
は、ジェームズ兄弟に見捨てられたのだ。
だが。
「それで、命拾いしたな。」
ジェームズ兄弟と共にいても、向かう先は破滅だったのだから。
サンダウンは己が駿馬を軽く叩くと、先陣切って夜の闇を駆け抜けた。サンダウンの青い夜目には、
遠くでぎらつく、農家の灯りがある。
あの灯りの中で、いるべきではない存在が息を殺して逃げ惑っている。
だが、その逃亡生活も終わりだ。彼らは、農家の灯りの中にいて良い存在ではない。即座に引き摺
り出し、白日の下で罪を吐き出させるべきだ。
逃げ出してきた――いや、事実を告げた勇気ある子供が、白い息を吐いて両親の無事を祈っている。
一人で、此処まで馬を駆けさせた少年だ。不安は決して口に出すまい。むしろ、ならず者共への悪態
を吐くだろう。
サンダウンは、それに応えて彼らを裁きの場に引き摺り出すだけだ。
胸の上で、一つ、銀の星が瞬いた。