ジェームズ・ヤンガー・ギャングと言えば、西部開拓時代の無法者の中で尤も有名な連中だろう。
有名の中のほとんどは悪名であるのだが、一方で彼らを指示する民衆も多かった。
 まずは、誰もが知っているとは思う彼らの起こりから話そう。
 この無法者集団の起こりは、そもそもは南北戦争に由来する。
 そう、アメリカの奴隷社会に一つの楔を打ち込み、貴族というものが失われ、そして後々にまで暗
い影を落とす、最大の内戦だ。
 南北戦争が否が応にもアメリカに与えた影響の事を考えれば、ジェームズ・ヤンガー・ギャングも
その被害者であると言えなくもない。彼らは、南北戦争でゲリラ戦を行った南部軍であったからだ。
 南部軍のゲリラと、北部軍の州兵の争いは激しく――何よりも凄惨だった。
 南部軍は家から家を渡り歩き、北部軍に与する農夫を次々と処刑していき、北部軍は裁判もなく、
ゲリラを匿ったとされる容疑者を処刑した。
 血で血を洗う戦争は、リッチモンド陥落のその日まで続いた。
 このような日々を送ったからだろうか。そして戦争の敗北者であったという事も輪をかけたのかも
しれない。ゲリラ達は戦争が終わった後も徒党を解体することなく、そしてそのまま犯罪行為に走る
事となった。
 このゲリラ達こそが、ジェームズ・ヤンガー・ギャングの先駆けだった。
 ゲリラ達のトップは何度も代替わりをしながら、そしてやがて、ヤンガー兄弟と、そしてやがてそ
の賞金額で一躍有名となるジェシー・ジェームズ有するジェームズ兄弟が台頭する。
 そして、1969年。
 全ての悪評の始まった事件が起こる。
 デイビース郡貯蓄協会強盗事件である。
 新聞に載った内容としては、極めて簡単な事件だろう。文字通り、デイビースにある貯蓄教会を、
ヤンガー兄弟とジェームズ兄弟が襲ったのだ。そして新聞には大々的に、彼らが警察の包囲網を鮮や
かに抜け出し、逃げおおせたと書き立てられた。

「しかし、それは事実ではない。」

 彼らは実は、這う這うの体で逃げ出したのだ。
 男は語る。

「その時、町には偶々、別用でやって来ていた保安官がいた。その保安官は、銃声を聞きつけ、無法
者共が強盗を仕出かしている現場に急いで駆け付けた。」

 新聞ではジェームズ・ヤンガー兄弟が警察の包囲網を突破した事ばかりを書き立てて、被害の事は
さほど大きくは書かなかった。
 そこには、民衆に娯楽を与えるために――ひいては新聞の売り上げの為に――ならず者をダークヒ
ーローのように祭り上げる意図があったのかもしれない。事実その思惑は上手くいったわけだが。
 けれども、ならず者は所詮ならず者だ。
 ならず者の活躍の裏には、確実に血が流れている。この時も、そうだった。
 現金出納係のジョン・W・シーツ。この事件の裏側では、確実に一人が撃ち殺されていた。撃ち殺
した相手は、ヒーローに祭り上げられ、今後も人気を博するジェシー・ジェームズだった。この事実
は新聞には書かれなかったが、ジェシー・ジェームズがこの事件で殺人を犯している事は紛れもない
事実だ。

「なにせ、保安官が見ていたからな。」

 偶然町にやって来た保安官は、事件の現場に駆け付けた。そして、駆けつける寸前、遠目にその光
景を目撃したのだ。
 ジェシー・ジェームズが現金出納係を撃ち殺す瞬間と、現金を奪っていく瞬間を。

「その時の保安官とジェシー・ジェームズの距離は、かなり離れていた。それでもその保安官は銃を
構え、撃った。」

 そして真鍮の咢から放たれた鉛玉は、ジェシー・ジェームズの肩を撃ち抜いた。

「そんな話は聞いたことがない?それはそうだ。ヒーローがまさか怪我をしただなんて新聞は書かな
いだろう。だが、実際にジェームズ・ヤンガー・ギャングは、これからもこの保安官によって何度も
傷を負わされる事になる。」

 ジェームズ・ヤンガー・ギャングは立て続けに事件を起こさない。一つの事件を起こした後、数か
月の期間を置いて、再び事件を起こす。
 銀行強盗や列車強盗など、大掛かりな犯罪を起こすが故に、準備期間が必要だからだろうと思われ
ていたのだが、

「実際は、傷を癒す時間が必要だっただけだ。」

 その時も、ジェシー・ジェームズは仲間の手を借りて、どうにかして馬に乗って逃げ出した。駆け
去る彼らを撃ち殺しても良かったが、それよりも先に、撃たれた現金出納係の容態を見ることを優先
させた。
 彼は、先程も述べたように、死んでしまうわけだが。

「新聞はこの辺りの事実を完全に伏せて、ただ、ジェシー・ジェームズが逃げたことを書いた。もし
も真実を書いていれば、ジェシー・ジェームズは民衆からの支持を得られなかっただろうからな。奴
らが、何の躊躇いもなく、現金出納係を撃ち殺した事は、保安官と警察を除いては誰も知らない。奴
が、そういう人間だということは、隠された。」

 こうして、警察を手玉に取るジェームズ・ヤンガー・ギャングというアウトローのヒーローが生み
出された。
 そして以降10年以上、彼らによる犯罪が行われる事になる。
 民衆達の支持を受けて。

「何故、」

 男が灰皿に、葉巻の灰を落とす。

「何故、奴らが、民衆の支持を得たのか、分かるか?」

 男の問いかけに、ウィリアムは慌てて口を開く。 

「そりゃあ、金持ちからしか金を奪わなかったからでしょう。そしてその金を貧乏人に分け与えてい
た。あと、弱い者には手を上げなかった。彼らが、彼らの名を使って行われた犯罪で、少女が殺され
た時に激怒したのは有名な話でしょう。」

 しかし、その言葉を聞いた瞬間に、男が浮かべたのははっきりと侮蔑と嘲笑だった。

「彼らは貧乏人と金持ちから奪い、我々は金持ちから奪って貧乏人に分け与えている……ジェシー・
ジェームズが新聞社に送り付けたとされる一文だな。しかし奴らが本当に貧乏人に金を分け与えてい
ると、誰が証明できる?」

 事実、彼らがそのようなことをしているとは、言われているだけであって、嘘八百の可能性である
ほうが高い。

「そして、少女が誤って殺された強盗……あれは、間違いなく奴らが関わっている。奴らの顔を見た
という人間が、大勢いたからな。」

 自らに不利な出来事を認める犯罪者はいない。
 けれどもそれは新聞社によって事実は捻じ曲げられ、彼らは騎士道ある犯罪者と称されるようにな
った。
 こうした情報戦――正確には新聞社による情報操作のおかけで、彼らを匿う民衆は増え、彼らを捕
えることは困難になっていった。

「しかし、それでも。」

 彼らを捕えようとする人間はいた。
 彼らの被害にあった金持ち、彼らに殺された人々の遺族、警察。
 そして、

「奴らに一撃を与えた保安官が。」

 新聞社がどれだけ事実を捻じ曲げ、民衆を扇動し、行く手を阻んでも、ジェームズ・ヤンガー・ギ
ャングに痛恨の一撃を与えた保安官がいた。

「この話の、最初の主人公は、その保安官だ。ならず者どもに確実に一撃を与えた男。如何なる圧力
も無意味にし、正義の御旗を静かに掲げる男。誰よりも銃に長け、それ故に歴史の影に隠れるしかな
かった男。」

 その時は、まだ、胸に銀の星を付けて。

「サンダウン・キッド。一度、奴らを壊滅に追いやった保安官だ。」