宣教師であるウィリアムは、マッドが待ち合わせ場所にサンダウン・キッドという異物を連れてき
ても、何も言わなかった。マッドが、助っ人だと一言言えば、それで納得したようだった。随分と、
あっさりとしている。そう指摘すると、宣教師は、
「人手は多いほうが良い。」
と答える。
思うのだが、行方不明となった自警団の団長を捜すために、他の自警団員を使うことはできなかっ
たのだろうか。或いは、町人から人手を募る事は。
宣教師の案内で、彼が現在逗留しているという、そして行方不明の自警団の団長が守っていたとい
う街に辿り着いた時、その街の賑わいを見て、マッドは人手が足りないというわけではないだろう、
と感じる。これだけ人が居るなら、団長捜しに人を割いても問題ないはずだ。
「先住民族が暮らしているって言ったが、そいつらが人捜しの邪魔でもしてるのか?」
「まさか。」
宣教師は小さく苦笑を浮かべる。
「彼らは協力的だ。でなければ、彼を捜しに行くことさえできない。」
「?」
捜すのを邪魔するのではなく協力的だ、というのは分かる。むしろ、協力がなければ捜しにいけな
い、というのは。
実を言えば、と宣教師は切り出した。
「彼が、エリアスが何処にいるのかは、大体分かっているんだ。」
「何?」
声に微かに棘がこもった。当然と言えば当然だ、何せ、人捜しを目的として此処まで来たというの
に、実は何処にいるのか分かっているとなると、自分を呼びつけた理由を勘繰ってしまう。そして実
際に勘繰っているであろう背後の男から、剣呑な空気が立ち昇ろうとしている。
サンダウンは、宣教師がおかしな真似をしたなら、人目がある町中であろうと撃ち殺すだろう。
「分かっている、と言っても正確な位置までは分からないんだ。彼は、この町の裏手にある森の中に
いる。そこまでしか分かっていないんだ。」
連れてこられた街は、確かに背後に巨大な森を従えている。いや、正確には森の中に囲われるよう
にして、街が造られた、という事だろう。
街を造る時、森を焼き払ってしまえ、という案が持ち上がったという。
「この森はインディアンにとっては聖地でね。その聖地を焼き払う事で教化を進めようという話があ
ったらしいんだ。」
結局、その案は廃案になり、森は今でも健在だ。
しかし、
「待て、インディアンの聖地だと?そんなところに入れるのか。」
「普通は、入れない。」
インディアンが誰一人としていないとか言うのならまだしも、この街には先住民族が数多く住んで
いるという。ならば、入ろうとする者に対して反発があるのは当然だ。
ここで、マッドは先住民族の協力がなければできない、という意味を理解した。だが、そうなると
逆に協力的すぎる。人一人を捜すために、聖地に入ることを許すなど。
「もちろん、特別扱い中の特別扱いだ。許しは得たが、けれども好き勝手していいというわけでもな
い。」
「それは、あんただから特別扱いされたのか?それとも消えたのが、自警団の団長だからか?」
「いや、拝み倒して特別扱いしてもらったのさ。」
条件を一つ出されて、それを呑んだけれども。
その条件というのが、微妙に気になる。馬一頭を差し出せ、なんて手ぬるいものではないような気
がするのだが。
「なに、部族の勇者と戦って勝ったら、と言われたから、そうしただけだ。」
つまり戦って勝ったんかい。
「だって、勝たないと、彼を捜しに行けない。」
分かっとるわい。
マッドは、宣教師が割とガタイが良い事に、今更気が付いた。なるほど、つまり腕っぷしに物を言
わせてインディアンを従わせたわけだ。こう言ってしまうと、紛れもなく典型的なインディアンに対
する白人の横暴行為だが。
「でもそれなら、別に俺に依頼しなくても良くねぇか?聖地に入ることができるんなら、人手を募っ
て人海戦術のほうが良い。」
「聖地を大勢で荒らすわけにはいかない。少人数で、最大の結果を得られるようにしなければ。」
「だが、早めに見つけねぇと、団長の命もまずいだろうが。」
「ああ、それは、きっと大丈夫だ。」
行方不明者に対して、命の心配はない、という宣教師がここに一人。
「インディアン達が言うところによると、森の中には湖があるから水には困らない。食べる事が出来
る木の実も、動物もたくさんいるらしい――だから、時に禁を犯して猟に入る輩もいたそうだけれど。
つまり餓死の危険性はない。それに、彼は強いからね。そう簡単にどうかなったりしないさ。」
「その前に、俺は、それを行方不明というべき状態なのか考えている。」
むしろ、自ら姿を消した、と言ったほうが正しいのではないか。
死の危険のない、誰も追いかけてこないであろう聖地へと。
マッドの指摘に、宣教師は微かに表情を歪めた。
「流石だね……君は、昔から頭が良かったから、それくらい気づいて当然か。」
「どうなんだ。行方不明といっても自らの失踪なら、正直捜し出す事は簡単じゃねぇぞ。相手は逃げ
るだろうからな。」
「だから、君に依頼を出したんだ。」
過去の事を口にする宣教師の言葉を断ち切る為に、マッドはいつもよりも早く口を挟んだ。それに
対して、宣教師はすぐに反論し返す。
逃げられる事を考慮した上での人選だ、と。
逃げる者を追う、賞金稼ぎに依頼を出したのだ。
「エリアスは、今、一人の女性に付き纏われている。それが、彼の失踪の原因の一つだ。」
「痴話喧嘩なら、ますますお断りだぜ。」
「彼と彼女は、そういう関係じゃない。大体、その彼女はシスターだ。」
「尼さんに付き纏われている、と。」
「だから、違うって。」
宣教師は、顔を赤くして、ごにょごにょと反論している。神父だから、つまりはそういった男女間
の事に疎いのだろう。神父の中には、神父になる前に妻帯している者もいるが、眼の前の宣教師はま
だ若い。妻を持ってもいないだろう。
「そうじゃなくて、彼は、彼女に嫌われているから。」
宣教師の言葉に、マッドは眉を顰める。
嫌われている。
なるほど、人の怨恨というのは実に業深い。しかし、嫌いだから嫌がらせをする、ならともなく、
付き纏ったりするだろうか。するにしても、自分ではなく他人に頼んで付き纏って貰いそうなものだ
が。
嫌う、という感情は、そうそう自ら手を出させようとはさせないものだ。
憎しみや恨みなら、もっと直接的に動くのだろうが、嫌う、という表現はなんとも曖昧模糊として
いる。
「本当に、嫌われている、だけか?」
マッドは葉巻を燻らせながら、宣教師を見つめる。宣教師は、背後の賞金首と同じ色合いの眼で此
方を見つめ返した。
「……分からない。私には、彼女の心裡を読む事はできない。ただ、少なくとも、彼女は彼を、好い
てはいないだろう。」
何があったのだ。
マッドが問い返す前に、宣教師はマッドを制した。
「詳細は、教会に着いてから話そう。或いは、君自身に彼女を見てもらったほうが良いかもしれない。
君も、私の口から聞いただけの話では、納得しないだろう?」
勿論だ。宣教師を疑うわけではないが、話の裏取りはする。でなければ、マッドが賞金稼ぎとして
長らく王者に居座る事も出来なかっただろう。
遠くに、酷く簡素な作りの教会と、その屋根に立つ二つの木を組み合わせただけの十字架が見えた。