しかし、と若い僧侶との待ち合わせ場所にサンダウンを引き連れて向かいながら、やはりどうにも
よく分からない依頼だ、とマッドは首を傾げる。
サンダウンも奇妙な依頼だ、と言ったが、マッドがそれを引き受けた以上、その奇妙さには追及せ
ずに、いつも通り無口無表情でマッドに付き従っている。依頼によってマッドに何らかの不利益が被
らない限り、おそらく黙々とマッドの周りを警戒し続けるだけだろう。
今回は、マッドの昔の名前を引き摺り出して依頼を仕掛けてきた、という部分があるだけに、その
警戒は生半可なものではないだろうが。
サンダウンが番犬宜しく、周囲の気配を探っている間、マッドはトカゲ型クッションを抱きかかえ
て首を傾げて、かぽかぽと馬を進めている。
依頼は、何度も言うようだが、人捜しである。
依頼人は、若い僧侶――本人曰く、宣教師であるとの事。
そして捜し人は自警団の団長。
「自警団の団長って、普通は保護する側じゃなかったっけ?」
「普通はな。」
マッドが、ぽつりと呟いた言葉に、サンダウンが素っ気なく答えた。
自警団の団長と言えば、保安官だか町長だかが有志を集って掻き集めた自警団の中からまとめ役と
して選ばれる存在である。まとめ役であるから、当然の事ながら町人も保安官もそして自警団を構成
する団員達からも、認められた人物であるわけだ。認められる条件は、様々だろうが、此処は荒れ狂
うアメリカ西部の大地。ある程度の度胸と強さはなくては、誰も従わないだろう。
「それが行方不明?」
一番考えられるのは、恨みを持ったならず者共に攫われたとかそういうのだろうが。
「そんな事をしたらすぐに気づくって言うんだよな。あの神父は。」
他ならぬ自分が気づく、と若い僧侶ウィリアムは、そう主張するのだ。その自信が何処から来るの
か全く分からないが。
因みに、マッドがウィリアムの事を、牧師、と呼ぶと、自分は神父である、と訂正された。神父は
カトリックで、牧師はプロテスタントなので、ウィリアムの訂正は彼の教義に大いに関わる部分であ
ったのだろう。が、マッドにしてみれば、心底どっちでも良い問題である
それよりも、神父の主張が謎である。
「なんで、自分が気づく、なんて言えるんだろうな?」
「……それよりも私は、自警団の団長が若すぎる事が気になったが。」
ウィリアムは、自警団の団長は自分達と齢は変わらない、と言った。確かに、自警団を纏め上げる
人物は、ある程度、年齢を重ねた者がなる事が多い。
だが、とサンダウンはちらりとマッドを見て、
「お前もその年齢で西部一の賞金稼ぎを名乗っているからな。なくはないのだろう。」
マッドは、アメリカ西部の荒くれ男共の眼から見れば、まだまだ若造と言われるような年齢である。
だが、その銃の腕は他の追随を許さぬものであるし、甘く見てかかればとんでもない大怪我をする。
尤も、サンダウンにしてみれば、口を尖らせたり頬を膨らませたりする様子は、どう見ても子供な
のだが。幸いにして、サンダウンの前以外ではそうした行為は控えているようなので、マッドを若造
扱いする輩はいても、マッドを子供扱いする輩はいない。
「その自警団の団長の特徴は?」
捜すとなれば、当然どういう容姿であるのかくらいは知っていて然るべきである。
そうすべきなのだが、
「よく分からん。」
マッドはむっつりとして答えた。
何せ、依頼主である神父は、捜し人の容姿となると、どういうわけだかもじもじし始めて、口籠る
のだ。なんでだ。
そうしてようやく出てきた言葉といえば、
「とても綺麗な人だよ。」
という非常に曖昧すぎる言葉だった。
そうじゃねぇよ、とマッドは咄嗟に突っ込んでしまったが、間違っていないと思う。マッドが欲し
いのは、詳細な外見上の特徴だ。そう言えば、ようやく合点がいったのか、ああ、とウィリアムは頷
いたのだ。
といっても、どうにも主観が入りすぎていて――というか綺麗であるということが大前提に話され
ているので、参考にならなかったのだが。
「不幸中の幸いだったのは、自警団の団長に、はっきりと特徴があった事だな。」
「ほう。」
髪が、銀髪なのだ、という。
白髪か何かか、とマッドが問えば、神父は首を横に勢い良く振って否定し、力いっぱい、銀髪だ、
と言った。
確かに、もしも神父の言葉が本当ならば、この上ない特徴だろう。
銀髪、と言えば、トゥーヘッド、またはプラチナブロンドが一般的だ。ただしこちらは、正確に言
えば白に近い金髪であり、子供の頃は銀色でも、大人になれば色が濃くなって、より濃い目の金色、
または茶色になってしまう事がほとんどだ。
サンダウンなどは、やたらの色の薄い金髪だが、あれは荒野をうろついている事と、手入れの問題
だろう。
「だが、その神父は、何故自警団の団長を捜そうと考えているんだ?宣教師という事は、別に自警団
の団長がいる街に、そう長く居座るわけでもないだろう。」
自警団の団長が行方不明で、何か支障があるというのなら、捜索は自警団がするだろうし、自警団
だけでは心許なく他の誰かに応援を求めるにしても保安官や町長、仮に神父が依頼を出すとしてもそ
の町の司教が行うはずだ。いつ何処に行くとも分からない宣教師がする事ではない。
「ああ、そうなんだけどな。」
マッドはサンダウンからの当然の問いかけに、少しだけ口籠った。
その当然の問いかけは勿論マッドも感じたし、ウィリアムに対して問いかけた。そしてそれに対す
る回答も得た。が、どうにも釈然としないものだった。
「まあ、俺もその辺りは気になっていたからな。もう一度、神父に聞いてみるから、あんたも一緒に
聞いといてくれよ。俺じゃあ気づかなかった事もあるかもしれないし。」
マッドの言葉にサンダウンが頷く。
その頷きが終わり切る前に、遠くに、ぽつんと黒い染みのようなものが見えた。
擦り切れた黒い僧衣を身に纏った、若い男がこちらに手を振っている。待ち合わせの場所に辿り着
いたのだ。