冷たく凍え過ぎた所為で、ひりひりとした痛みまで感じ始めた指先は、ある瞬間にようやく、ふ
っと和らいだ。
此処最近、あのくすんだ光の無い世界にいた時のような凍えを感じ続けて、少しも治まらないそ
の凍えは、一体いつから始まったのだろうかと首を捻っていた。そして思い至ったのは、自分の周
りが妙に静かだという事。その時から、骨が石になってしまったかのような冷えを発している。
自分の周りが静かな理由。
それについては、うすうすとサンダウン自身も気が付いていた。
そしてそれは、ひらりと視界の隅に踊った影を見て、確信へと変わる。
ひらひらと泳ぐその影は、サンダウンになど気付いていないかのよう。魚の泳ぐ影のような姿に
サンダウンがじっと目を細めても、こちらに気付かない。いつもなら、何もしなくとも、サンダウ
ンに気付いて近寄って来るのに。
そう思った瞬間に、今度は別の凍えが、指先ではなく身体の芯まで貫いた。
たった今、その姿を見て凍えが消え失せたと思ったばかりなのに。今度は自分を見てくれないと
言って、氷柱を飲みこんだような気分になるなんて。
見つめる先にいる、まるで子犬のようにあちこちに尻尾を振って寄りついていく姿は、遠目に見
れば微笑ましい。どれだけ若くして賞金稼ぎとして名を馳せているとしても、サンダウンにしてみ
ればまだ幼い。その腕で何度娼婦を抱いて、その手でどれだけ賞金首を屠っていたとしても、荒野
で長く生きたサンダウンの眼には、まだ飛び立ち始めた若鳥にしか映らない。思わず庇護の手を差
し伸べてやりたくなる。
けれども、そんな何処か愛らしい姿を見ていると、何故こちらを振り返らないのかと苛立ってく
る。それは、ふわふわの雛鳥を見て愛らしく思っているうちに、こちらに懐いて欲しいと思う気持
ちよりも、ずっと浅ましい。
今までずっと感じてきた凍えは、不安から来るものだった。自分もあの暗い世界に呑まれてしま
うのではないかと、あの世界の住人なのではないかという不安。
けれども、今感じている凍えは、ただの嫉妬だ。何故こちらを見ないのかという、誰に対すると
いうものでもない、どうしようもない嫉妬だ。
どちらが醜いのかなど、言うまでもない。
きっと、今眼を逸らしたなら、前者の不安なだけの凍えに戻るだろう。その凍えの果てに呑み込
まれたとしても、そこから生み出される魔王など大したものではない。だが、嫉妬から生み出され
た魔王は、間違いなく、彼の命を以てでしか、止まらない。
だが、なのに、サンダウンはその姿から眼を逸らす事は出来ないのだ。