夢に、誰かが出てくるのは、その相手が自分の事を想っているからだという。
  そんな他愛もない言い伝えを、いつだったか聞いた。
  マッドはぼんやりと脳裏に漂う、小さな夢の断片を想いながら、もしも本当にそうだったら、ど
 んなに良いだろうかと考える。放っておけば切れ切れに飛んで行って、そしていつの日か消え去っ
 てしまう夢の断片に残っているのは、青と砂色の色彩だ。それを忘れてしまわぬようにと手繰り寄
 せながら、忘れるはずもないと苦笑する。
  だって、忘れた事なんか、片時も無い。忘れる事なんかないから、思い出す事もないほどだ。
  むしろ。
  先程視た夢を、脳裏でなぞっていく。
  むしろ、こんなふうに想っているから、夢を見たのだ。忘れる事がないくらいに想っているから、
 夢の中でまで、考えてしまう。
  砂色と、青色。
  いつも見ている荒野の色合い。それを凝縮して人間の型に入れて固めたら、きっとあんな影にな
 るのだろう。
  そして悲しい事に、どれだけマッドが夢見るほど想っても、向こうはマッドの事などなんとも思
 っていない。せいぜい、鬱陶しく追いかけてくる賞金稼ぎ程度の認識が、関の山だ。夢に出てきた
 から、向こうがこちらを想っているだなんて、そんな都合の良い事なんか有りはしない。所詮、そ
 れはやはり、マッドのように想い焦がれている人間が、自らを慰める為に思いついた、憐れな想像
 なのだろう。
  実際に、想っているのはこちらなのだ。
  こんなに、恋い焦がれているのだ、と。夢にまで見るほどに。だから、そちらも夢に出るほど想
 って欲しい。そんな、浅はかな願いに過ぎない。
  そんな願いに疲れてしまって、想う事は止めようと思っているのに。
  そんな自分を嘲笑うかのように、夢に出てくる。
  何度も、何度も。

 「キッド………。」

  名前を呼んだだけで、夢の断片が、鮮やかに踊った。












07.想う