何故か、指先が冷えているような感覚が、此処最近ずっと続いている。
サンダウンは自分のかさついて節くれだった指をなぞりながら、ひとまずそれがただの思い込み
である事に安堵した。触れれば、まだ指先には熱が籠っている。しかし、掌を合わせなければ、自
分の指の熱が分からないというのは、酷く気分を落ち着かせなくさせる。
それは、おそらくこの感覚が、あのくすんだ世界に似ているからだろうと思う。
突然吹き飛ばされた、色という色が抜け落ちた世界は、同時に妙に冷たい空気が淀んだ世界だっ
た。冬の特有の澄み切った冷たさではなく、ねっとりと覆いかぶさるような凍えは、今でもサンダ
ウンの腹の底に蟠っている。
何かの拍子に、じっとりと感じるそれは、最近サンダウンの肌の上に噴き上げる事が多い。
その原因は何か。
此処最近、ルクレチアの汚水のような冷たさが指先に籠るのは。この数週間の間に、何か、あっ
ただろうか。
今や何も生み出す事のない自分の指先を見詰め、サンダウンは記憶の糸を手繰る。死しか齎さぬ
単調な自分の道に、何か大きな変化があっただろうか。
「…………マッド?」
ふっと瞼の裏を、突き抜けて黒い影が掠め去るように横切った。その影に思わず口をついて出た
名前に、ふわっと指先が温かくなる気がする。
自分を執拗に追いかける若い賞金稼ぎ。同時に唯一サンダウンに人の匂いを零していく存在。確
かに彼を最後に見たのは、指先に凍えが灯るようになった時期と一致する。
まさか、と思っているうちに、名前を呼んだ瞬間に温まった指先は、再び凍えの中に沈んでしま
う。それだけでは足りないというように。
まるで、気づきもしない願いを露呈するように。