もしかしたら自分の人生は、他人から見れば恵まれた人生に見えるのかもしれない。
  
  
  
  ぶらぶらとバントラインを手の中で弄びながら、マッドは思った。ベッドに仰向けに寝転がって、
  
 何をするでもなくぼんやりとしている様子は、烈日の荒野で牛達を追いかけているカウボーイにし
 
 てみれば、さぞかし優雅に見えるだろう。
 
  
  
  それもそのはず、西部一の賞金稼ぎの座にいるマッドは、数日前に1000ドルの賞金首を保安官に
  
 突き出したばかりで、当分は食うにも寝るにも困らない。
 
  そもそも金に困るという事自体――確かに戦争直後は困りもしたがそれはアメリカ全土がそうだ
  
 った――が、二十と数年の生の中で経験した事がない。金に困らぬ身の上は、買えるものはいつで
 
 も買えたし、いらぬものまで手元に近寄る。
 
  まして、マッドは秀麗な部類に属する人間だ。身体を求めてすり寄る人間は幾らでもいて、彼ら
  
 はマッドにいくらでも貢ぎこんだ。
 
  
  
  売り物ならば幾らでも金で手に入り、売り物でなくともマッドがその秀麗な指を一本向けさえす
  
 れば、足元に投げ出される。
 
 
 
  それは傍目から見れば、羨ましい事この上ない状況だろう。
  
  例え、足元に投げ出されるそれらが、マッドの意に沿わぬものであったとしても。マッドがそん
  
 なもの欲しくないのだと首を横に振っても、次々と積み重ねられるそれらは、実を言えば他人の欲
 
 望そのものだというのに。
 
  それに押し潰されないように、身を捩るのさえ一苦労だというのに、それを羨むのか。
    
  
  
  ならば、代わってやろうか、とさえ思う。
  
  
  
  足元に投げ出された欲望の断片は、時に美しいものもあるが、大抵は薄汚れて醜い。そしてその
  
 中には、マッドが本当に欲しいと望んでいるものは混ざっていないのだ。雑多に散らばる人の波に、
 
 青い空と乾いた砂が落ちていた事など、一度もない。
 
 
  
  恵まれている、と、雑多な欲望の中に埋もれた自分を見て、他人は思うかもしれない。
  
  けれど、本当に望んでいるものは、手に入らないのだ。
 
   
  
  
  
  
  
 
  
  
  




  05.望む