荒野で追い縋った影は、その名を叫べば無感情にこちらを振り向いた。
乾いた砂混じりの風に微かに揺れる砂色の髪は、この西部に広がる大地と同じ砂色だ。そしてこ
ちらを振り返った視線は、雨量が少ない荒野では当然のように強く主張する青空と同じ色。
まるで、この不毛の大地の化身のような姿だ。
初めてその姿を見た時、マッドはそう思った。
「いい加減にしろよ!毎回毎回逃げるばっかりで、正々堂々と勝負しやがれ!」
自分の声以外に響き渡るのが、砂塵の微かな音と何処か天高くを飛び交っている鳥の声ばかりで、
マッドは自分の声がちゃんと眼の前の男に届いているのかが不安になってくる。まして、男が先程
から表情を眉一つ動かさずに佇立しているから、尚更だ。
マッドなど見えていないかのよう。
「おい、聞いてんのかよ!」
不安半分苛立ち半分に怒鳴ると、男は少し首を傾げる。その仕草に自分の声は届いているのだと、
マッドは少し安堵した。が、そんなマッドの心境など全く気付いていない男は、やはりいつも通り
マッドに背を向けて馬を走らせる。
「っ!待てよ!」
マッドの事など意に介していないのだと言わんばかりの仕草に、マッドの神経が煽られるのは毎
度の事。
男がマッドに銃口を向けたのは、実は一番最初の一戦のみ。それ以外はずっとこうして興味がな
いと言わんばかりに逃げられる。
最初の一撃で、マッドにどうしようもない熱を与えていった癖に。
その熱がマッドを苛む事は、己の所為ではないと言いたいのか。
その一弾で、マッドをどうしようもない中毒者と同じにしてしまったのに。
あんな弾道を見せつけられて、あんな銃弾に撃ち抜かれたら、これから先、マッドはその姿を追
う事しか出来なくなる。
アヘンやアルコールに依存するよりも、性質が悪い。
そこから抜け出すには、マッドが撃ち殺されるか、それかあの男を撃ち殺すしか方法がないのだ
から。
「くそ、絶対にとっ捕まえてやる………!」
吐き捨てた台詞は、中毒患者がそれを求める仕草と同じ色をなしていた。
02.追いかける