「ああ、もうっ!」

 

   三日月が天上から吊り下げられた夜、マッドはホテルのベッドから跳ね起きた。
 
   時計を見るともう午前の三時を回っている。そろそろ睡眠に落ちなくては明日に響くと言うの
   
  に、眠りは一向に訪れない。それどころかますます冴えている。

   身体は疲れて休息を求めているというのに。

 
 
   ああ、でも身体も、心臓の裏側からはっきりと熱を帯び始めている。

  
  
   頭の中を巡るのは昼間の事ばかり。

   乾いた砂の合間合間で轟いた銃声と、向けられた銃口と。

   弾け飛んだのは自分の手の中にあったバントライン。

   でも身体はしっかりと銃弾の熱を感じている。


  
   今まで何人もの賞金首と対峙してきたけれど、こんなにもその一瞬を引き摺る事はなかった。

   狙点を合わせてから引き金を引くまでのその間と、引き金を引いた後のその直後に押し寄せる
   
 波は何よりも緊張感を孕んで、そこに蟠る熱も何にも代えがたい。

  けれど、それは本当に一瞬の事だ。終わってしまえば、後は雑多な事務処理があるばかりで、後
  
 は酒でも飲んで終わり。

  なのに、今、マッドの身体は全身が粟立って、しかし身体の奥底は溶岩の様に沸き立っている。


 
  それは相手を仕留められなかった悔しさなのか、それとも他に理由があるのか。

  
  
 「なんだよ、これ。」



  一向に冷めない熱に、マッドは呟く。

  心臓は平静で、なのにそのまま燃え立ってしまいそうなくらい、痛い。

  変だ、おかしい。そう思ってみても、理由は結局分からず、分かっている事は、確実に自分は興
  
 奮状態にあるという事。

  

 「ああ、くそっ!」



  悪態を吐いて、もう一度ベッドに倒れ込む。ベッドは、ふかっとマッドの身体を受け止めてくれ
  
 たけれど、その平穏さが今夜は煩わしい。

  もっともっとぎりぎりの縁で、そう例えばあの銃口を向けられた時のような、その瞬間が今は欲
  
 しい。

  そう思って、マッドはぎりっと歯噛みした。
  
  

  きっと、夜が明けないうちに、自分はこんなホテル出ていってしまうだろう。そして、枯れそう
  
 な草木しかない不毛の大地に安堵するのだ。それが、あの男と同じ匂いをしているから。 

  そんな自分にもう一度罵りの言葉を吐いて、マッドは最後の抵抗とばかりに枕に顔を埋めた。
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
 
 01.焦がれる