聖しこの夜
星は光り
吐く息は白く、それとは対照的に空はこれ以上ないくらいに高く澄んでいる。
冬とはそういうものだ。
レイは昨夜のうちに積もった雪を見ながら思う。
人も生き物も、皆が怯えて縮こまるような厳しい冬は、同時に何もかもが澄み渡り、非常なほど
清廉な気配を帯びている。それはまるで、遥か頭上高くで人々を見下ろしている天帝の眼差しのよ
う。
しかしこの季節は同時に、とても気忙しい季節でもある。レイ自身はあまり興味がないことなの
だが、一般的には新年の祝い事の準備で忙しい時期だ。孤児であるためそうした知識に乏しい――
老子に出会って多少は礼儀を学んだものの――レイに代わって、弟子達がいそいそと道場の煤払い
や準備をしていることだろう。
レイも彼らの手伝いを多少はしたものの、途中、用事があることを思い出して抜け出してきたの
だ。一応、師範という肩書を持っている以上、近隣の人々との付き合いもあり、その所用の為、雪
の降り積もった道を歩いていた。
道が滑りやすくなっていますから気をつけて、と見送りに出してくれた弟子の言葉が、ほんの少
しばかりくすぐったかった。
山の麓の町での挨拶回りを終え、町の人々に差し出された餅や餡を抱えて再び山道を登る。以前
のレイならば、きっとこんな山道は登る前から諦めていただろうが、今では餅を抱えていても軽々
と登り切ることができる。
けれど、やはり雪も積もった道という、常にない状況の所為だろうか。日が傾く前に町を出たは
ずなのに、もう空には気の早い星が瞬いていた。
それを見上げていると、ふらふらと星に添えるように、木の枝が揺れている。その細い先につい
ているのは、緑のままの光沢のある分厚い葉と、赤い花弁だ。
寒椿。
白い雪を縁に纏ったそれを、レイは三つ、手の中に忍ばせる。
手の中で雪を払い落し、ころころと揺れる三つの花。寒くなって、なかなか手に入ることも叶わ
なくなった花をこうして手に入れることができて、レイは少し微笑んだ。
道場に戻るその前に、と彼女は思う。
雪を掻き分けたものの、何も添えるものがなくて寂しいあの墓前に、この花を添えよう。老師と
ユンは、きっと喜ぶに違いない。サモは………食べ物のほうがいいかねぇ……?
赤い花弁を見て、喜びつつしょんぼりする兄弟弟子の姿を想像し、レイはくくっと笑う。
仕方ないから、今日貰った餅を少しばかり添えてやろう。それても足りないとか言ったら、ユン
が咎めてくれるに違いない。
くすくすと忍び笑いを零す師範は、雪の中をいそいそと足を速めた。
明日の光
輝けり
朗らかに