真っ赤なお鼻のトナカイさんは
今日もみんなの笑い物
全身を覆う、ややだぶついた茶色い毛並み。
黄色の、大体三つくらいに枝分かれした二本の角。
そして、やたら誇張された、赤い丸――もとい、赤い鼻。
白いペンキで塗り潰された上に、派手な蛍光ピンクで『今なら50%引き!』とでかでかと書か
れた看板を持っているのは、この季節ならではの生物、赤鼻のトナカイだ。
本来ならば赤い衣装に身を包んだ白髭――別に髭はなくてもこの際良いのだが――の爺様が、隣
にオプションで付いているはずの彼は、今夜、橇もプレゼントを入れた白い袋もなく、ドラッグス
トアのクリスマス大セールを告知する看板を持って、煌々と輝く件のドラッグストアの店先に、何
故か仁王立ちで行き交う人々を見守っていた。
時刻は深夜10時。
これが昼時ならば、幼稚園児達が『わー!トナカイさんだー!』とか言ってくれたかもしれない
が、生憎と12月の寒空の深夜、我が子をドラッグストアに連れていく親はいなかった。
それどころか、夜更かしの学生や、残業で遅くなったOLや会社員達でさえ、トナカイと彼が店先
に立つドラッグストアには、誰も寄りつこうとしない。いや、むしろ、看板を片手で軽々と抱えた
まま微動だにせず仁王立ちするトナカイを、胡散臭そうな眼で見やってはこそこそと通り過ぎてい
く。
いっそ、そこにいる事自体が営業妨害なのではないかと思うような出で立ちのトナカイは、しか
しそんな事意に介せず、堂々と立ち尽くしている。
「ち………流石にこの体勢を三十分間続けるのは、厳しいぜ………。」
もはや人形か何かと見紛うほどの佇立っぷりを見せていたトナカイは、不意にそう呟いた。そし
て看板を持ち替えると、再び仁王立ちで立ち尽くす。
「だが、これしきの事で根を上げているようじゃ、俺もまだまだだ………。この夜で、この重さに
耐え切れる男になってみせるぜ………!」
片手で抱えるには重い看板を見上げ、トナカイはトナカイにあるまじき台詞を吐いた。偶々その
台詞を耳にした行き交う人々が、怪訝な顔をした事に、筋肉質のトナカイ――もとい、トナカイの
きぐるみを身に着けた、絶賛アルバイト中の日勝は気付かない。
むきっと筋肉に物を言わせ、看板を再び掲げ始める。
看板が高々と掲げられた夜空から、白いものがはらはらと落ちてきた。
雪だ。
しかし、誰にも顧みられる事のない、クリスマスのプレゼント配りでさえトレーニングにしてし
まいそうなトナカイは、ほつほつと降り始めた雪にさえ、びくともしない。茶色の毛並みに白い粉
がどんどん降り積もり、固まっていっても、もはや世俗の事には関心のない仙人のような顔で、立
ち尽くす。
そこへ―――
「おーい!飯にしないかー?」
ドラッグストアの店長が、カップラーメンを見せつけるようにして、日勝を呼んだ。
その瞬間、ぎゅるるんと日勝の腹の虫が鳴り響き、日勝もトナカイの顔を捨てて、眼を輝かせて
振り返る。
「飯?!いる!いますぐ、いる!」
いやー俺腹減ってたんすよー。
おおそうか、こっちにきてあったまれ。
角を外したトナカイと店長の会話が響く中、放り出された看板が雪に埋もれていった。
今宵こそはと喜びました!