あなたからメリークリスマス
   私からメリークリスマス




  「おんし、知っちょるか?」
  「何をでごるか?」

   今現在の守るべき主の問い掛けに、おぼろ丸は問い掛けで返した。
   主に対して非常に失礼なのかもしれないが、質問の内容が分からない以上、仕方がない。それ
  に幸いと言うべきか生憎と言うべきか、おぼろ丸の主である坂本竜馬は、そのような事を非とは
  思わぬ人間だった。

  「今日は亜米利加や英吉利では、基督っちゅう偉い神様が産まれた日じゃき、家族が皆集まって
   ぱーっとお祝いをするんじゃあ。」
  「はあ、そうでござるか………。基督は知っているでござるが、産まれた日は拙者、初耳でござ
   る。」

   坂本殿は博識でござるな、と呟いたが、そんな賛美は坂本には興味がなかったようで、彼は更
  に説明を加えていく。

  「それで、じゃ。その日にはな、夜になるとええ子にしとる子供のところには、さんたくろうす
   っちゅう爺様が祝い品を持ってきて、足袋の中に入れておくそうじゃ。」
  「足袋の中に、でござるか………。」

   おぼろ丸の頭の中に思い浮かぶのは、鯛の尾頭付きや一升瓶が足袋の中に無理やり詰め込まれ
  ている状態であり、あんまり欲しいものではないなと頭の中で呟いた。鯛の尾頭付きや一升瓶は、
  足袋に突っ込まずに普通に配膳して欲しい。

  「しかし、その『さんたくろうす』なる人物は何者なのでござるか?先程、偉い神様の生まれた
   日の夜にやって来ると申されたが、それと、何か関係が?」
  「知らん。」

   日本の夜明けを担う男は、きっぱりと知らぬ事は知らぬと言える男でもあった。
   肩すかしを喰らったような気がしたおぼろ丸は、少しがくっと肩を落とす。そんな忍びの様子
  に気付いているのかいないのか――十中八九気付いていない――坂本は楽しそうに言った。

  「しかし、あれじゃ。もしかしたら、おんしも足袋を用意しとけば、『さんたくろうす』が何か
   くれるかもしれんぞ。」
  「………いりませぬ。」
  「なんじゃ、遠慮せんでもええきに。どうせ駄目もとじゃ。儂は準備したぞ。」
  「駄目もとって………ってか準備したんでござるか、足袋を!」
  「おう。この日の為に新調したぜよ!」

 一応新しいものを用意したんだああ良かった。
   じゃなくて。

  「き、基督教は禁止では!」
  「足袋を用意しただけじゃ。基督は関係ない。」

   変な所で狡賢い主は、からからと笑っている。
   そんな主を呆れたように眺めやりながら、忍びはふと思う。
   もしも、主の言うように、『さんたくろうす』が夜にやってきた場合。
   夜に忍び込んでくる『さんたくろうす』を、曲者と間違えずに、自分は斬らずにいられるだろ
  うか、と。




   Santa Claus Is Coming to Town!