あわてんぼうのサンタクロース
クリスマス前にやってきた
今月、チビッコハウスの中と外は、赤と緑と金と銀で彩られる。
玄関と皆が集まるホールには大きなモミの木が飾られ、昨日までチビッコどもが一生懸命になっ
てモールを巻きつけたり、木や紙で出来た蝋燭や林檎を取りつけていた。毎年、誰が一番てっぺん
のお星様をつけるのかで喧嘩になるのはお約束だ。
外壁にはクリスマス会のポスターが所狭しと貼られ、そのポスターは町の至る所に張り付けられ
ている。勿論、アキラのタイ焼き屋にも貼りつけられている。
タイ焼きを買っていく人々に対する、クリスマス会の告知も抜かりなく行っているアキラは、そ
のタイ焼き屋を今日は一時休業し、クリスマス会当日の準備に追われていた。
今、アキラの前には角をつけた赤鼻のトナカイならぬ、赤い布生地を貼り付けたハーレー(クリ
スマス仕様)がある。
先程、ようやくハーレーの飾りつけを終えたばかりのアキラは、妙子から預かったチビッコハウ
スの面々からの『サンタさんへのお手紙』を眺めて、唸り声を上げた。
毎年恒例の、クリスマス会で行われる、サンタさんからのクリスマスプレゼントの手渡し。
去年までは無法松がしていたそれを、今年はアキラがしなくてはならない。
何処からどう見ても無法松だと分かるサンタクロースは、それでも精一杯のサンタの格好をして、
妙子が毎年預かってくる手紙を読んで、チビッコどもが欲しいというプレゼントを用意して、白い
袋に詰め、ハーレーに乗せてやって来る。
チビッコどもも、勿論それが無法松だという事は分かっている。けれども、それには何も言わず、
差し出されるプレゼントを大いに喜ぶのだ。
無法松が用意するプレゼントは、決して高価なものではない。彼が用意できるプレゼントなど、
彼の収入を考えれば高が知れている。
サンタが無法松だという事を知っている子供達も、決して高価なものは望まない。彼らが望む
ことは、サンタの肩に乗ってクリスマスツリーのてっぺんに、星を飾ることくらいだ。
かつてその願いを聞き入れて貰った事があるアキラは、今年、彼の代わりにサンタとなる。
そして、新人のサンタクロースは、子供達の手紙を前に立ち尽くしていた。
子供達が望むのは、やはり些細なお願い。欲しいものはそのへんのコンビニで帰るようなお菓子
や玩具。きっと、妙子が準備した白い縁の赤い靴下の中に、すっぽりと収まってしまうような、小
さなものばかり。
けれども、自分は知っている。
彼らが何を願っているのか。
彼らが、誰の嘆きを見て、それを願っているのか。
そして、それはサンタクロースでも叶える事はできないのだ。
『どうかどうか、神様。』
『お姉ちゃんがずっと泣いています。』
『お願いです。』
『あの人を、』
――――生き返らせて下さい。
それには、過去を遡らなければ。
そしてそれは、今現在にいるサンタクロースでは、出来っこないのだ。
あの時、あの瞬間に、いなければ。
いそいでリンリンリン!
いそいでリンリンリン!
鳴らしておくれよ鐘を!