その夜。
心の迷宮から何とか脱出した、その夜。
青年少年少女は疲れ果て、早々に眠りに落ちた。普段は常に気を張っているおぼろ丸でさえ、正
体なく眠っているのだから、こうした荒事に慣れていないであろうアキラの疲労は、並々ならぬも
のだろう。
静まり返ったそんな中、一人、サンダウンは眠れずにいた。
疲れを覚えているのはサンダウンも同じなのだが、眼を閉じれば心の迷宮で起こった出来事が、
瞼の裏にちらつくのだ。
這い回る蔦が、細い四肢を絡め取り、締め上げて身体の動きを奪っていくその、様が。
要するに、レイの身体に蔦が這い回るのを思い出して、興奮しているのだ、このおっさんは。
ただし、名誉を守る事になるのかどうかは分からないが、別にレイが襲われるのを想像している
わけではない。
細く長い脚に蔦が幾重にも絡みついて、下肢を覆っている物は引き裂かれていく。シャツも引き
裂かれて薄い色をした突起に、細い蔦が巻き付いて、途端に身体が仰け反る。腰にはベルトが巻き
ついているが、既に用を成さず、むしろ白い肌にそれだけが覆う物として存在する事が、余計に官
能的だ。
脚は大胆な角度で開かされ、口には一際太い蔓がねじ込まれる。両手は抵抗できぬように頭上で
一纏めにされている。そんな抵抗できない無防備な身体を、容赦なく蔦が責め立てる。
『や、いやっ!ああっ!キッドっ!』
「…………っ!」
想像の中の声に、サンダウンは頭を抱えて身悶える。
何の事はない。このおっさん、身も蓋もなく言い切ってしまえば、蔦に襲われたレイをマッドに
変換して、行きつくところまで行ってしまうという妄想を繰り広げているのだ。
一人で。
変態である。
しかし、マッドに関しては行き過ぎた視野狭乍のきらいがあるサンダウンにとっては、仕方のな
い事である。何せ、基本的に性に関しては淡白だったサンダウンが、放浪後初めて行った自慰の相
手はマッドだった。それくらい、マッドはサンダウンにクリーン・ヒットした相手なのだ。
しかも、偽物とはいえ、本日はマッドの姿も声も聞いたのだ。久しく見て聞いたマッドに、そそ
られないはずがない。撃ち殺してしまう前に、脅して色々してしまえば良かったと思ってから、は
っと我に返り、なけなしの理性でそれは人としてどうなんだと自分を戒める。
戒めて、ひとまず落ち着いてから、大変な事に気が付いた。
ここしばらくマッドに逢っていないわけだが、マッドは大丈夫だろうか。まさか浮気とか――も
しかして、誰かに襲われたりしていないだろうな。
先程の、救いようのない妄想も相まって、どうやら自分では落ち着いていると思っていたが全く
落ち着いていない想像を再び働かせる。
マッドは普通の男よりも強いから、そんな簡単に襲われたりしないだろう。だが、普通ではない
相手――それこそ、蔓や蔦の化け物に襲われたら。いや、あの世界にそんなおかしな植物はいなか
ったはず。いや、だが、確かタンプル・ウィードが!
その後。
己の閃きが、一瞬で妄想に広がり、マッドがタンプル・ウィードに襲われるのを延々と妄想し、
一晩明かしたおっさんが、此処に一人。
で。
魔王山頂上にて、
「私は(マッドのいる)もとの世界に(マッドが心配だから急いで)戻りたいだけだ!」
と叫んで、ハリケーンショットの一撃で、魔王を倒した男がいたとかいなかったとか。
一方その頃。
「おお、良く燃えるじゃねぇか。」
タンプル・ウィードを焚き火にくべて、マッドは暖をとっていた。
その背後では、主人の身に危険が迫っていないかと、愛馬のディオが険しい眼で周囲を見張って
いる。
サンダウンが心配するような事は、多分、一生来ない。