Sky Diving




  サンダウンに抱きこまれたマッドは、いやいやと首を横に振った。
  これから起こる事は、明らかにこれまでとは一線を画す事だ。それを今からサンダウンは、自分
 に対して行おうとしている。首筋に吸い付く唇の行き先も、腰を捉える手の動きも、今からマッド
 の身体が知らない動きを取ろうとしている。
  その動きを否定しようと身を捩っても、熱が籠った身体には力が入らず、もとよりサンダウンに
 敵うはずもない。サンダウンが、マッドの身に纏うシャツのボタンを一つ一つ丁寧に外す事さえ止
 められずにいる。

 「……キッド。」

  自分でもはっきりと分かるくらい情けない弱々しい声で、マッドはサンダウンに制止を求めた。
 けれどもサンダウンはそれを無視して、シャツの前を広げ、そこから覗く肌に口付けていく。熱で
 汗ばんだ身体に、まるで壊れ物のように口付けを落とされたマッドは、ふるふると身を震わせた。
  こんなふうに愛撫を受ける事は、初めての事ではない。だが、それの相手は必ず女性だった。客
 を喜ばせるのが仕事である娼婦達は、こんなふうにしてマッドに、射精時以外の快感を与えてくれ
 るのだが。
  けれども、その時の愛撫に比べて、今のサンダウンの愛撫のほうが、より肌に深い痺れを与えて
 いる。娼婦達が下手だったわけではない。サンダウンが上手いのか、それとも熱の所為で身体が敏
 感になっているのか。いずれにせよ、マッドは女の時は緩く笑っていられたはずの愛撫を、今は必
 死になって歯を食いしばり堪えなくてはならなかった。 

 「……あっ。」

  そして、サンダウンの舌先が、胸の先端に絡みついてきた時、マッドは思わず噛み締めた歯の間
 から声を漏らしてしまっていた。
  自分でも思いもかけなかった、か細く高い声に、しかしマッドが戸惑っている暇はない。サンダ
 ウンは一度底から離れると、すぐに突起を口に含み、熱いぬめりで覆ってしまった。そして舌と歯
 で、本格的な愛撫を始める。

 「くっ……ふぅん…っ!」

  最初はむず痒いような刺激が、電流を流されたような痺れへと変化していく。それが乳首から流
 される度に、マッドの身体はひくりと震え、マッドは声を上げてしまいそうになる。なんとか声を
 押え込もうとするものの、けれども所々でくぐもった声が零れてしまう。
  男の乳首なんかに触れて何が楽しいのか、と思うのだが、サンダウンは飽きもせず、執拗に片方
 は舌先で、もう片方は指で弄んでいる。舌先でやわやわと嬲られたかと思えば、もう片方は指先で
 きゅっと摘ままれ、歯でそっと甘噛みされたかと思えば、もう一方は指で乳輪の周辺を弧を描くよ
 うに撫でられる。
  別々の異なる責め方に、マッドは、嫌だ、と声を上げようにもそれさえ言葉にならない。まるで、
 その二箇所だけが自分とは別の生き物になったかのように、熱を持っている。

 「やめろ……っ。」

  今までとは違う、性欲を伴う触れ方に、マッドは怯えた。胸に吸い付くサンダウンの髪を引っ張
 って、どうにかして止めようとする。けれども力の入っていないそれは、サンダウンを引き剥がす
 事などできず、むしろ傍から見れば強請っているようにも見えた。
  が、それでもマッドの声に怯えを聞き付けたのか、サンダウンは顔を上げてマッドから少し身を
 離す。
  マッドはサンダウンが離れた事に安堵して、乱されそうになった息を溜め息に誤魔化して整えよ
 うとした。そんなマッドをサンダウンは見下ろし、僅かに焦燥の籠った眼で呟いた。

 「……駄目だ、マッド。」

  もう、待てない。
  熱の籠った声は、マッドが聞いたどんな睦言よりも、甘ったるかった。その声のまま、サンダウ
 ンは、欲しい、と囁き続ける。

 「お前が、欲しいんだ。」

  囁くなり再びマッドの肌に顔を埋め、舌で唇で全身に触れていく。鎖骨に歯を立てたかと思えば
 再び先程まで弄っていた乳首に舌を滑らせる。そして二、三度、舌で突起を薙ぎ倒してマッドに小
 さな悲鳴を上げさせた。内腿をそろそろと撫で上げられながら、上半身は舌で愛撫され続けるマッ
 ドの身体は、跳ねる事を抑える事が出来ない。

 「あぅ!」

  臍に舌先を入れられ、マッドは咄嗟に身体に力を込める。その身体を宥めるようにサンダウンの
 腕は腰や太腿といった、皮膚が薄く敏感な所をなぞり続ける。
  そしてその手が足の付け根へと向かう。けれども、マッドは再び乳首を舌で転がされる感触を味
 あわされており、それを止める事にまで意識を向ける事は出来なかった。

 「は!んっ!」

  交替に舌でねぶられる乳首は、唾液でてらてらと濡れてツンと立ち上がっている。サンダウンに
 責められているほうは常に刺激を与えられ続け、責められていないほうはひんやりとした外気に曝
 されて、また別の刺激を感じていた。
  こんなふうに胸だけを責められた事がないマッドは、胸から全身に流れる刺激をどうすれば良い
 のかなど分かるはずもない。それ故、その刺激が下半身に熱を持って行く事をどうする事も出来ず、
 ただただ喘ぐしかなかった。

 「ん、ぁあ……んやぁっ!」

  乳首にばかり集中していたマッドは、唐突に下半身に添えられた熱に、いつも以上に反応してし
 まった。折りしも、ちょうど胸からの刺激が耐えがたい物になりつつあるところに、一番直接的な
 快が与えられた為、マッドへの刺激がいつもの処理以上の鋭さを伴うのは当然の事だった。

 「あっ、ああっ、キッド……。」

  優しく中心を握り込んだサンダウンは、ゆるゆると指先で刺激を与え続けながら、胸を啄ばんで
 いた唇を徐々に下へと降ろしていく。脇腹を吸い上げ、臍に舌を差し込んで、そのままマッドの下
 生えまで。
  大きく足の開いたマッドの間で、一体何をしようというのか。それは、一度似たような事をされ
 ているにも拘わらず、マッドは問わずにはいられなかった。

 「いやぁっ……!」

    ねっとりとしたサンダウンの口腔に含まれて、マッドは膝と腰をがくがくと震わせた。
  以前もこうして、口で愛撫された事はある。けれども、愛撫がその時とは違い、与えられる快感
 はその時の比ではない。

 「んぁっ!あっ!」

  裏筋に沿って根元から先端まで舐め上げられ、繊細に先端の割れ目に歯を立てられる。男同士だ
 から、当然、女にして貰う時よりもずっと良い。胸への愛撫で昂ぶっていたそこは、あっと言う間
 に先走りを液を零し始め、卑猥な音を立てる。サンダウンが舐め上げ、咥える度に、その音はマッ
 ドの耳を犯し続けた。

 「いやだ、いやぁっ……ああっ!」

  太腿をしっかりと武骨な手で掴まれ、脚を閉じる事も叶わず、マッドはひたすらにサンダウンか
 らの愛撫を受け続ける。茎だけでなく、袋も、会陰も全て舐められ、全てを見られ、マッドは羞恥
 と快感で身体をひくつかせた。  

 「や、はなせっ……ん、はぁあんっ!」

  サンダウンに掴まれている太腿がぴくぴくと震え、マッドは身体を仰け反らせた。自分で放った
 とは思えないくらい高い声が耳に届いたかと思うと、眼の前が真っ白になった。
  呆然として、がくんと全身を弛緩させたマッドの耳に、サンダウンがそれを飲みこんだ音が聞こ
 えた。その音につられてそちらを見れば、ちょうどサンダウンがマッドの顔に近付いてくるところ
 だった。
  サンダウンは、ほとんど朦朧としているマッドの頭を抱き寄せると、米神に口付けを一つ落とす。
 そして、マッドも気付かぬ内に濡れていた目尻に親指を這わせると、かさついた指の腹で優しく拭
 った。先程までの強引さとは打って変わった優しい素振りに、マッドは安堵した。そして小さく懇
 願する。

 「も、いや……。」
 「駄目だ。もう少し、我慢してくれ。」

  けれども、サンダウンはマッドの願いを切り捨てると、再び覆い被さってきた。 

 「いやっ……やっ……。」

  逃げようとするマッドの身体の弱い部分を弄ぶ事で、サンダウンはマッドの動きを封じ、再びマ
 ッドの脚の間に顔を埋める。先程の快感にマッドが怯える暇もなく、すぐさま突き抜けるような刺
 激がマッドを襲った。

 「ひぁあっ!」

  今度は、先端ばかりを集中的に舌で弄られる。それ以外にも太腿を指先で撫でられ、袋を揉みし
 だかれるなど、様々な場所から快感が襲ってくる。その所為で、たった今達したばかりだというの
 に、マッドの雄は既に立ち上がって先走りを零している。

 「やぁ……いやぁっ!」

  先端が何度も何度も歯で甘噛みされる。その度に、痺れを伴う刺激が広がり、マッドは身体を跳
 ね上げた。これ以上され続けたら、また、すぐにでも達してしまうだろう。実際、マッドは背筋を
 駆けあがる、ぞくぞくとした感覚に自分がもう限界に近付いている事が分かっていた。
  だが、身体をしならせ、今にも絶頂を迎えると思ったその瞬間、マッドの身体を探っていたサン
 ダウンの手が、根元をきつく握り締めたのだ。

 「ああぁっ!」

  絶頂の寸前までつれていかされた快感と、それを堰き止められた苦しさで、マッドは切ない声を
 上げる。
  だが、苦しげに息を吐くマッドを分かっているだろうに、サンダウンは根元は堰きとめたまま、
 愛撫の手を休めない。きゅっとマッドの雄を握り、舌ではなく今度は指先で先端をくるくると弄る。
 時折爪を立てては、マッドを絶頂に向かわせ、けれども射精できない苦しみを与え続ける。だが、
 苦しいはずなのに、マッドの口から零れるのは、悦楽に身を落とした人間が上げる嬌声だった。
  マッドは拘束するものは既にないのに、脚を大きく広げたまま身体を何度も弓なりにして、まる
 で身体を見せつけるようにして嬌声を上げ続ける。時には腰を持ち上げる仕草までするその身体に、
 サンダウンは容赦なく愛撫を加えていく。マッドからの抵抗が弱くなったのを良い事に、徹底的に
 マッドの雄の部分を弄ぶ。握りこんでいる部分を少しずらして、そこにも舌先を潜り込ませて舐め
 上げ、先端を弄ったまま舐め上げる部分は下へ下へと下っていく。会陰をすっと降りて、そして、
 まだ何も知らない蕾へと。

 「なっ!?やめっ!」

  その時、快感に翻弄されて蕩けていたマッドが、はっとして身を起こそうとした。開いた脚の間
 の一番奥まった部分に感じる柔らかな湿り気。自分でもほとんど触れない部分に、サンダウンの舌
 が到達したのだと瞬時に理解し身を起こしたものの、すぐさま先端に痛いくらいの刺激を与えられ、
 再び倒れてしまう。
  その間も、サンダウンはマッドの秘部を舌で犯し続けている。くちゅくちゅと何度も押されて、
 それを嫌がっても抵抗できない。それどころか、舐められている内に、マッドのそこはサンダウン
 の舌をより奥に入れる事が出来るようになり始めている。

 「いやっ、やだぁっ……んああっ!」

  柔らかな粘膜を舌で蹂躙される。知らない感覚に、マッドの肌は鳥肌を立てた。けれども、それ
 は痛みによってではない。しかし、それに名前をつける前に、マッドが感じた声を上げたのを聞い
 たサンダウンが舌を離してしまう。無くなった感触にマッドが身を震わせていると、すぐに別のも
 のが添えられた。それは、先程までマッドの先端を蹂躙していた、指だ。

 「マッド……。」

  何をされるのかを理解したマッドが身を強張らせると、サンダウンが身を寄せてきた。そして鼻
 先に小さく口付けられる。

 「マッド……受け入れてくれ。」

  青い眼が眼の前に大きく広がって、焦がれたような声が降って来る。それと同時に、後孔の周り
 をなぞっていた指先が、中に押し入ってきた。

 「ぅあ……ああ……。」

  痛みこそないけれど、しかし異物感だけはどうしようもない。マッドは自分の中に入りこまれる
 感覚に、眉を顰めて呻いた。だが、抜いてと懇願しても、サンダウンに受け入れてと懇願され返す。
 青い双眸は、今まで見た事がないくらい熱っぽくて、マッドはその眼に射抜かれて絶句する。

 「マッド……マッド……。」

  すぐ近くで感じる呼気も、信じられないくらい熱い。青い眼を見上げれば、優しく口付けされた。
 身体の中を何かが這いまわる気持ち悪さを何とか逸らそうと、マッドは与えられる口付けに夢中に
 なる。
  だが、それも短い時間の事だった。

 「や、んああああっ!」

  何が起きたのか分からないまま、マッドは甲高い声を上げた。身体はびくんと跳ね上がり、眼の
 前に白い稲妻が走る。

 「あ、何?!なんだよ、これ、あぅ!」
 「……此処、か。」

  突然閃いた純度の高い快感に、マッドが混乱するのを余所に、サンダウンは安堵したように頷く
 と、ゆっくりと指を動かし始めた。マッドが跳ね上がった場所を重点的に。

 「ひゃぅ!いや、あああっ!やめっ……!」

  脳髄が焼き切れるほどの快感が、そこに触れられるたびに何度も何度も襲ってくる。女を抱いた
 時には感じた事のない快楽に、どれだけ堪えようとしても声は高く高く上がる。

 「い、ぃああっ……、んぁ、あっ、あっ……ぁああっん!」

  一度引き抜かれ、けれども今度は二本になった指に掻き混ぜられる。量を増した快感の楔に、マ
 ッドは泣きじゃくった。身体の中を弄る指の動きは激し過ぎ、それによって生み出される快感も、
 マッドの知る範疇から超えたところにある。なのに、サンダウンは容赦なく指を三本に増やして、
 マッドの内部をばらばらに蹂躙する。自分さえ知らぬ部分を、他人に全て明け渡し、マッドは身体
 をびくつかせた。マッドの脚の間でそそり立つ若い雄も、既に何度も絶頂をはぐらかされた所為で、
 赤く染まって震えている。

 「あっ……あっ…も、いやぁっ、ああっ……!」

  サンダウンに根元を握り込まれているマッドは、先端を責められるよりも鋭い悦楽に、何度も何
 度も身を逸らせて全身を震わせる。白い波はマッドを飲みこみ続け、なのに引く気配は何処にもな
 い。視界は既に白く霞み、そこに薄っすらとサンダウンの青い眼だけが煌めいているのが分かる。

 「キッド、もぅ、もぅっ……は、ああぁ、あ、あっ!」
 
  自分ではどうする事も出来ず、眼の前にいる男に必死になって覚束ない手を伸ばす。すると、伸
 ばした手の中にサンダウンはそっと擦り寄った。サンダウンはマッドの額と自分の額を合わせると、
 真っ青な瞳でマッドを見つめる。その眼に惹かれるように、マッドも自分の身体をサンダウンに擦
 り寄せ、解放して欲しいと懇願した。これ以上は苦しくて、身体がついていかない。

 「マッド。」

  サンダウンは低い声で、懇願をうわ言のように口にするマッドの名前を呼び、軽く耳を噛む。そ
 れが了承の合図だと分かったのは、サンダウンの手がマッドの雄から離れてからだった。だが、そ
 うだと理解する前に、サンダウンはマッドの秘所を殊更強く抉った。

 「ひ……っ、ぃああああっ!」

  戒めを解かれたマッドは、強すぎる快感を叩きこまれ、激しい嬌声を上げると共に勢い良く白い
 飛沫を噴き上げていた。同時にマッドの意識は白く歪んで、崩れ落ちて行った。