もそもそと、ディオは栗毛の毛並みに鼻先を近付ける。
たらふく牧草を胃の中に収め、思う存分駆け回った後の一時、馬二頭は毛繕いをしあって過ごし
ていた。なんだかんだ言いつつ、何気に仲良く寄り添っている姿は、番に見えなくもない。
だが、そんな静かな様子とは対照的に、二頭の会話は非常にふてぶてしいものだった。
『ああ、畜生。どっかに美人な白馬はいねぇかなぁ。』
白馬が好みだと公言して憚らないディオは、サンダウンの馬の毛繕いをしながら何度も同じ事を
言っている。
『なんで俺が、てめぇみたいな薄汚い茶色の馬の毛繕いなんかしねぇとなんねぇんだが。俺は白馬
が好みなんだ。』
『ふん……毛繕いは我々にとっては重要な社交性だ。それを放棄するという事は馬の社会から出て
いく事を意味するが。』
『分かってるよ!んな事は!』
ディオは体格も見た目も能力も、通常の馬としては申し分ない。しかし数年間馬ではなく人間と
して暮らしていた為、馬の社会ではブランクがある。初めてマッドに連れられて入った馬小屋では、
他の馬達に胡散臭い眼で見られたものだ。そしてそうした警戒心を解くのに必要なのが、毛繕いだ。
敵意はない事を示す為に、相手に毛繕いをして友好的な態度をとる必要がある。
だが、何分馬としてはブランクのあったディオは、毛繕いも最初のうちは上手くいかなかった。
『ふむ、しかし大分上手くなったものだ。』
散々練習に付き合わされた栗毛の馬は、首筋をコリコリと毛繕いするディオに頷く。それに対し
てディオは、ふん、と鼻を鳴らす。
『当たり前だろ。俺を一体誰だと思ってんだ。』
『以前は毛と一緒に肉を噛んで、厩の中で他の馬と喧嘩しそうになっていたが。』
『うるせぇ!』
余計な事まで思い出させる馬に、ディオは激昂する。それを宥める為に、栗毛は先程のお返しと
してディオの首筋の毛繕いを始めた。コリコリと甘噛みしながら、ディオに問う。
『お前は、ここが好きだろう?』
『………お前、サンダウンのおっさんに似てるって言われた事ないか?』
『……?いや、ないが。』
『あ、そう。』
自覚のない馬に、ディオはやれやれと肩を竦めた。
服を脱がす間、マッドは一つとして抵抗しなかった。
ジャケットを脱がしベルトを引き抜いて、シャツを剥ぎ取りズボンを下着ごと引き摺り降ろし、
アルコールで上気した肌を見下ろす。そうすれば、普段ならば圧倒的な力の差を見せつけられて、
悔しそうに唇を噛み締めサンダウンから眼を逸らす。しかし、今日のマッドは生まれたままの姿に
されても唇を噛み締めるどころか、潤んだ眼でサンダウンを見上げてくる。
恥ずかしがる事のないマッドは、サンダウンがその肌に余すところなく口付けても、微かに身を
捩るだけで、その身体を隠そうとはしなかった。
「ん………。」
代わりに、いつもよりもずっと素直に身を捩り、形の良い脚で地面を蹴って、首を振る。普段よ
りも漏らす声の量も多い。酔っているので、唇を噛み締めたり手で口を覆ったりと、普段は出来て
いる制御が出来ないらしい。
「あっ、キッドっ………そこ、イイっ………。」
乳首を摘まんだ瞬間に、マッドは身を逸らせて、喘ぐ。その喘ぎ声は、今までサンダウンがマッ
ドの口から聞いた事もない言葉を作っている。
胸を責められたら悶えて逃れようとするのに、今日はイイ、と何度も口にする。
む………素直なのも、良いかもしれない。
マッドを追い詰めて陥落する様を見る為に胸を責め、その度にマッドが嫌がり泣き叫ぶ姿を楽し
みにしている男は、今夜の素直に感じるマッドを見て、いける、と思った。
何せ、マッドが自分から脚を開いて、もっと、と強請る姿など、想像も出来なかった。けれど、
アルコールで理性がすっ飛んでいるマッドは、腰を振って脚を大胆に開き、触ってとサンダウン
を誘っている。
けしからん、もっとやれ。
「キッド………。」
責められた胸を赤く尖らせたマッドの脚の間では、彼の若い塔が瑞々しくそそり立っている。そ
こには触れずに太腿を撫でると、マッドは、ああ、と感じ入った声を上げる。
「触って欲しいか?」
サンダウンが、わくわくとして問い掛けると、マッドは蕩けた眼差しでサンダウンを見つめて、
こっくりと頷く。
ああ、可愛い。
あどけない表情を見せて、しかし妖艶に脚を開いたマッドに覆い被さると、サンダウンはマッド
の欲望を強く扱いた。
「あっ!あっ!」
背中を撓らせて喘ぐマッドの声は、いつもよりも高い。縋るようにサンダウンの肩を掴み、その
手を引き寄せてサンダウンはマッドの口を塞ぐ。すると、マッドはサンダウンの首に腕を回して舌
を絡めてきた。
本当に素直だ。いつもなら、こんな事しないのに。実に、宜しい。
既にサンダウンの中からは、理性のあるマッドを堕とすのが楽しいのだという考えは、すっぽり
と抜け落ちている。
要するにこのおっさん、何だかんだ言いつつ、結局、マッドだったら何でもいけるのだ。
サンダウンはマッドの身体を裏返しにすると、そのまま腰を高く持ち上げ、桃のような双丘を左
右に押し開く。そして現れた、濃い色に染まった秘部を指先でなぞると、そこは何かを期待するよ
うに、きゅっと締まる。それと同時に、マッドの口から強請るような声が上がる。そこには屈辱の
色も恥辱の色もなく、ただ快感を求めるだけの色があった。
「キッド……もう、早く……。」
そして甘い、少し舌足らずな声で囁かれる言葉。
舌舐めずりする勢いで、サンダウンは甘えた声で自分の名を呼ぶ賞金稼ぎを、おいしく頂戴する
事にした。
しかし良い夜だ。
ディオは欠伸をしながら、ひらひらと漂っていく蝶を視線だけで追いかける。今宵は満月。星の
影さえ掻き消えて、銀色の光ばかりが零れ落ちてくる。
平和そのものの様子に、ディオはいつもこんなだったら良いのに、と思う。
いつも、ならず者の襲撃や、馬泥棒の忍び足や、どっかのおっさんの性欲から己が主を守る事に
手がいっぱいで、月の光の色など感じている暇がない。
久しぶりに、そうか月はあんなに遠いのか、としみじみと感じた。
普段もこんなに平和だったら良いのに。せめて、どっかのおっさんが主人に手を出さなければ、
ディオの心労の五分の四は掻き消えるだろう。
『でも、そういうわけにはいかねぇんだよなぁ。』
あの、ふてぶてしいおっさんは、明日からまたマッドに身の程知らずな欲を抱いて襲いかかるに
違いない。本当に、お前は自分とマッドが吊り合うと思っているのかと小一時間問い詰めたい。薄
汚れたヒゲのおっさんの癖に。
そのおっさんの魔の手を逃れる為にも、ディオは今宵、英気を養う必要があるのだ。だから、
『俺は、寝るぜ。』
『良いのか?』
宣言したディオに、栗毛は少し驚いたふうに見えた。
『ああ、どうせ明日から、またてめぇの主人から御主人を守らなきゃならねぇ。それなら、今のう
ちに寝たほうが賢いだろうが。』
あ、お前見張りね。
そう告げて、ディオは黒い瞼を閉じる。
あっさりと眠りの世界に旅立った黒い馬を見て、栗毛の馬は遥か遠くにいる主人達を、見えはし
ないが一瞥し、そしてディオを再び見て、呟く。
『お前は、本当に、それで良いのか。』
「ふあぁあっ!ああっ!」
中を掻き混ぜていると、マッドが普段は出さないような声を出した。驚いて顔を上げると、マッ
ドは強請るように腰を揺らめかせる。
「キッド、もぅ……っ!」
入れて。
さっきから信じられないような言葉のオンパレードが続いて、サンダウンはこれはもしや死亡フ
ラグだろうかと真剣に思った。もしや、自分は不治の病にかかっていて、これは最期の一時の夢で
はなかろうか。
が、そんなアホな考えは、眼の前で身悶えするマッドの痴態によってあっと言う間に流される。
不治の病だろうがなんだろうが、マッドがいたら何でも良いのだ。サンダウンの頭の中は、基本的
にそういうおめでたい考えで構成されている。
「あっ……!ああっ、んあっ!」
サンダウンの怒張に貫かれたマッドは、耐え切れないと言うように首を振る。その耳元で、どき
どきしながら聞いてみる。
「良いのか?」
すると、マッドはこくこくと何度も頷く。非常に、可愛らしい。普段の恥ずかしがる素振りも良
いが、これはこれで別な趣があって宜しい。
「キッド、ぉ願いっ、からぁ!もっと、奥にっ………!」
サンダウンが暴走しても文句は言えない台詞を吐くマッドに、サンダウンは半分以上我を忘れて、
マッドの望み通り奥を責め立てる。途端に、マッドから零れる高い嬌声。
「ああああっ!……イイっ!イイっ!」
むぅ、しかし、もう少し慎みというものがあっても良いのではないのか。大体、他の人間はマッ
ドが泥酔するたびにこんな姿を見ているとでも言うのか、許せん。
「マッド……私がいなくて、寂しかったのか?」
「んっ、寂し、ったぁ……!」
「それで、他の男達とも、こんな事をしていたのか?」
「し、てなぃっ!あぅ!」
「………本当か?」
「ほ、ほんと、っ……キッド、だけしかっ………ぃらないっ!」
本当に、素直だ。
あまりの可愛さに、一瞬、いや、五秒ほど、理性がすっ飛んだ。
サンダウンの前で痴態を繰り広げるマッドは、快感に涙を零しながら、更なる快感を求めて腰を
振る。その上で、普段は絶対に口にしないであろう言葉を――しかもアルコールで理性がないから
間違いなく真実だ――を零し続ける。
「キッドぉっ!も、イイ、イイからぁっ!めちゃくちゃにしてぇっ!」
そして、今度こそサンダウンの理性は木っ端微塵に砕け散った。
跡形もないほどに。
次の日。
『ごっ、ごごごご、ごしゅじーん!』
すっきり艶々のディオが、サンダウンにおいしく頂かれてぐったりとしたマッドを見て、塩の柱
にでもなりそうな悲鳴を上げた。
マッドの横では、ディオよりもさらに艶々としたおっさんが、満足そうに葉巻をふかしている。
それを見て、サンダウンの馬は、小さく呟く。
『だから、良いのか、と聞いただろう………。』