マッドは、サンダウンがもそもそとシチューを食べている間――鍋ごと持ってきて食べているの
 が気にならない事はないが――サンダウンが、どうにか苦手スキルを発動して買ってきたオーブン
 を袋から取り出していた。
  マッドが袋からオーブンを取り出している間中、サンダウンがシチューを食べる手を止めて、こ
 ちらの様子を窺っている気配がしたが、それについては放置しておく。どうせ、オーブンを見たマ
 ッドの反応を確認して、あわよくばマッドに褒めてもらえるかもしれないとか思っているだけだろ
 う。
  正直、子供買い物レベルの事を大人のおっさんであるサンダウンが行って、褒めてもらえると思
 える時点で意味が分からないのだが。
  なので、マッドはサンダウンの期待に満ちた目を無視して、オーブンを袋から取り出して、テー
 ブルの上に並べる。
  サンダウンは、マッドの言いつけ通りダッチオーブンを、確かに予備も含めて三つ購入してきた。
  ひとまず、サンダウンには子供のお遣いレベルの事をするだけの力が残されていたという事が、
 これで確認できた。
  だが、そんな事は、本当にどうでも良い。
  そもそも、このダッチオーブンをサンダウンがマッドの為に買ってきたところで、これを使って
 出来た料理を食べるのはサンダウンなのだ。サンダウンはおいしい思いをするだけで、悪い思いを
 する事はなにもない。
  期待に満ちたサンダウンの視線をひしひしと感じながら、マッドは、そういえばクリスマスケー
 キを作れとか何とか言っていたな、と思い出す。
  そんなもん何処かで買って来いよ、と思うのだが、サンダウンは奇妙にマッドの料理に固執する。
 マッドの作った物は、全部自分の胃袋に入っていないと気が済まない、とまでは行かないものの、
 しかしマッドがサンダウンに食わせた事のない物を、サンダウン以外の誰かに食わせていると、か
 なりの勢いで自分にもそれを寄越せと言い始める。
  だったら、ディオに与えている飼葉だとか人参も食えよ、と思うのだが、サンダウン曰く、あれ
 はマッドが作った物ではないから良いのだそうだ。
  マッドの手が、たとえ火を通すだけでも加えられているものは、とにかく一口めは自分が食わな
 いと気が済まないおっさんなのだ。
  なんて面倒なおっさんだ。
  マッドはオーブンの様子を確かめつつ溜め息を吐く。
  巷では、マッドがサンダウンを追いかけている所為か、マッドのほうがサンダウンに執着してい
 ると思われている。確かに、マッドとてそれを否定するつもりはない。
  マッドは名実共に西部一の賞金稼ぎだ。故に、賞金稼ぎとして荒野を歩き回るだけではなく、並
 の賞金稼ぎでは手出しが出来ないような連中も撃ち落して、その首に縄をかけねばならない。まし
 て、直にマッドの脚元に身体を投げ出して金を投げつけられた依頼ならば猶更。
  マッドはこの世のあらゆるならず者の首に、縄をかけられる人間でなくてはならないのだ。そう
 でなければ、法の秩序が未だ成らない荒野において、銀の星でさえ零れ落とした嘆きを止める事が
 出来ない。
  サンダウンに関しては、特に誰かが撃ち取れと依頼してきたわけではないが――依頼してくる輩
 もいるが、そういう人間は何故か大抵、そちらも賞金首になっていそうな人間だ――誰も止める事
 が出来ない銃の腕を持っているのなら、マッドが討伐対象とするには十分だった。 
  故に、誰もサンダウンを止められないが故に、マッドはサンダウンを追いかける。
  マッドにしてみれば、己が責務に等しいそれ、執着だ何だという言葉で片付けられてしまうのは、
 甚だ心外だった。
  というか、それを言うならサンダウンのほうがおかしいのだ。自分を撃ち取ろうとしている賞金
 稼ぎの周りをうろうろして、今もシチューを鍋ごと抱え込んで食べている時点で、賞金首としての
 自覚がまるでないとしか言いようがない。
  しかも、さっきからちらちらとこちらを見てくるサンダウンの視線が、徐々にマッドの様子を窺
 うものから、マッドがもこもこの白いガウンとスリッパを履いている方向に向かい始めているよう
 な気がする。
  サンダウンが、可愛いな、とか呟き始める前に、マッドは先手を打っておく事にする。

 「それであんた、クリスマスケーキの材料買ってきたのかよ。」
 「む。」

  髭にシチューを付けて、もこもこのマッドを舐めるように見ていたサンダウンが、言葉に詰まっ
 た。帰ってきた時のサンダウンの出で立ちを見ているマッドには分かっている。このおっさんはケ
 ーキの材料など持って帰ってこなかった。
  ふふん、と勝ち誇ったように笑い、マッドは言い捨てる。

 「俺は買って来いって言ったよな。」 

  オーブンの事で忘れていただろうが、マッドはケーキの材料も買って来いと確かに言った。
  ぬぐ、と黙り込んだサンダウンは、しかし腹が立つ事に頭の回転は速いので、こう言い返す。い
 や、言い返したとは言い難い台詞だが。

 「………一緒に、ケーキの材料を、クリスマスの夜市に買いに行こう。」

  ただのデートの誘いである。
  しかし、マッドには何の旨みもないデートである。どうせ、ケーキの材料を勘定するのはマッド
 になるだけである。そもそも、何が悲しくてサンダウンと一緒に、クリスマスの夜市に行かなくて
 はならないのか。

 「あんたな。俺とあんたがクリスマスの夜市になんか行ってみろ。寒々しすぎて絵にならんわ。」
 「………お前は似合うと思うぞ。」
 「俺は似合うのは分かってる。あんたが似合わねぇんだよ。そこから眼を逸らすんじゃねぇ。」

     クリスマスの色はマッドには似合うと呟く男に、マッドは冷たく切り返しながら、オーブンの
 蓋を開いて中を確かめる。
  ぱかりと蓋を開いたところで、マッドの動きが止まった。
  サンダウンも怪訝に思うほど、ぴたりと。もこもこのガウンの毛でさえ、動かない。心配にな
 ったサンダウンが、どうした、と聞こうとしたところで、マッドの声がおどろおどろしく這い寄
 って来た。 

 「おい、キッド。てめぇ、こりゃなんだ?」 

  くるりと振り返ったマッドは、オーブンの取っ手を持って、その中をサンダウンに見せている。
 そして、その中をみたサンダウンは、今度こそ本気で絶句した。
  オーブンの中には、干からびた人間の手首が転がっていたのだ。