クリスマスの賑やかな色に包まれた町を、サンダウンは普段の保護色からは一転して、明らかに
 目立つ服装となってしまった茶色のポンチョのままで移動する。外敵から身を守るものがなくなっ
 た気分になっているサンダウンは、どうにも落ち着かない。
  だが、よもや町がクリスマスシーズンだったので、オーブンを買えませんでした、と言ってマッ
 ドが納得してくれるとも思えない。普通は、思わない。
  なので、サンダウンはマッドの為だけに、どうにも自分の存在が浮くしかない大通りを歩いてい
 る。もぞもぞと茶色のポンチョが、クリスマスツリーの間を歩いている様は、滑稽ではあった。
  いっその事、ポンチョも色を赤くしたら、サンタクロースだと言い張る事が出来たのかもしれな
 いが。
  そんな馬鹿な事を考えているうちに、なるほど、オーブンはマッドへのクリスマスプレゼントに
 なるのか、とようやく思い至った。
  マッドが自分を労われ労われと繰り返すから思い浮かばなかったが、もしかしたらクリスマスプ
 レゼントのお強請りだったのかもしれない。負けん気が強く、意地っ張りなところのあるマッドが、
 素直にクリスマスプレゼントを強請るとも思えない――オーブンを買って来いと言うのは素直を通
 り越して命令だった。
  しかし、それならオーブンでなくとも、もっと良い物を買ってやったのに、とサンダウンは思う。
  マッドはオーブンを所望したのだから、それ以外の物をサンダウンが購入したら、烈火の如く怒
 るのは眼に見えている。だが、せっかくのクリスマスなのだから、もっとロマンチックな物を欲し
 がっても良いのではないか。
  マッドは普段はかなりロマンチストだが、変なところで現実的だ。所謂、所帯じみた部分で。
  一方で、ロマンチックとは対極に位置しているようなサンダウンは、妙なところでロマンを求め
 るきらいがある。概ね、マッドに関する事で、だが。
  クリスマスプレゼントが、鍋型オーブンだなんて、とぶつぶつと零しながら、ひょこひょこと店
 の中を覗いては、頭を引っ込めるサンダウン。サンダウンとしては、マッドへのクリスマスプレゼ
 ントという事実に気分が多少上向いたものの、しかし元が他人と慣れ合う事を厭う性格である為、
 如何にマッドの為と雖も不必要に店の中に入りたくはなかった。
  店と言っても、もしもこれが生活必需品を買う為の店だったなら、まだ入り込む余地はあっただ
 ろうが、マッドが手渡したカタログに載っている鍋型オーブンは、もうワンランク上の店に売られ
 ているようだ。サンダウンはそんな店には、一秒だって長くいたくない。
  これが保安官時代であったなら、また話は別だったのだろうが、生憎とサンダウンは既に銀の星
 を返上しており、今は小汚い放浪者である。従って、胸にはない銀の星に頼る事は出来なかった。
 勿論、この場にいないマッドに頼る事も出来ない。
  ひょこひょこと表から店の中をのぞくサンダウンは、傍目に見れば不審者である。その小汚い姿
 形も相まって、今にも通報されそうなところだった。が、野生の勘が働いたのか、サンダウンは唐
 突に店を覗き見るのを諦めた。
  興味を失ったようにふらりと大通りから外れたサンダウンは、しかしマッドの要求を忘れたわけ
 ではない。
  サンダウンは、大通りの小奇麗な店よりも、ずっと自分がいるのに相応しい場所を見つけたのだ。
  通りから少し離れた場所で、人が集まってちょっとした人だかりを作っている場所がある。よく
 よく見れば、簡易的なものではあるが屋根のようなものが、連なっている。どうやら屋台が出てい
 るらしい。
  人々が色々な物を持ち寄って、それを売りに出しているのだ。
  所謂、蚤の市。
  ただ、この時期の事を考えれば、クリスマス期間中にのみ実施されるバザーのようなものだろう
 か。欧州のほうでは、クリスマス時期の夜ともなれば、毎晩こんな夜市が展開され、クリスマスの
 夜をいっそう盛り立てるのだと言う。その話を聞いたのは遥か昔だったような気もするし、或いは、
 つい最近、黒い賞金稼ぎから聞いたような気もする。
  ただ、アメリカでは――キリスト教圏とはいえ、こと、この西部においてはそこまで信心深い人
 間が多いわけではない事も考えれば――こうしたクリスマスバザーの慣習が、未だ根づいていない。
 この蚤の市も、クリスマスの色よりも、むしろ生活に困窮した人間が、己の持つ物を売りに出し、
 小銭を稼ぐ機会だと考えて集まったのだという様相が強い。
  むろん、そうでない人間もいるのか、家で焼いたらしいクッキーやらマフィンを売りに出してい
 る女もいたりする。
  いずれにせよ、小洒落た店よりも、こうした砂の上で荷物を広げたバザーのほうが、サンダウン
 には馴染みやすかった。
  小腹を満たす為に買ったマフィンを齧りながら――奇妙な事だがサンダウンは、小奇麗な店は厭
 うくせに、こうした菓子類は平然と購入する――サンダウンは運良く、マッドが欲しがっているオ
 ーブンがないかな、と思って見て回る。
  最悪オーブンは諦めるとしても、オーブン以外の、マッドにプレゼントできるような物があれば、
 それはそれで良い。
  もしゃもしゃと、マッドの作ったマフィンが食べたいな、と思いながらマフィンを頬張るサンダ
 ウン。
  別にそんなサンダウンに、神が憐れみを施したわけではないだろうが、ツキが回ってきたようだ
 った。
  即ち、マッドが欲しがっていた鍋型オーブンが売りに出されていたわけである。
  鍋型オーブン――しかもマッドが要求していた通り三つも――を売りに出していたのは、腰の曲
 がった老婆だった。
  サンダウンは、早速、老婆に交渉――というか金を持ちかける。サンダウンに交渉など出来るは
 ずがないのだ。

 「これをくれ。」

  簡潔に要望を伝えると、腰の曲がった老婆は、皺の奥で光る眼をサンダウンに向けた。

 「おやおや。奥さんにプレゼントかい?」
 「そのようなものだ。」

  マッドが聞けば怒り狂いそうな答えを平然としておいたサンダウンに、何も知らない老婆はにこ
 にこと笑う。

 「あたしも、昔、旦那にこういう鍋を買ってきて貰ったもんだよ。この鍋が最後に買って貰った鍋
  になったけどねぇ。」
 「む。」

  ではこの鍋は思い出の品という奴だろうか。
  少し買いづらい、と思っているサンダウンに、しかし老婆はさっさと鍋を渡す。

 「いいよいいよ。持って帰りなさい。そうやって夫婦で使ってくれる人になら、売ってもいいさ。」

  色々と誤解されているが、サンダウンには誤解を解く理由がない。
  有り難く鍋を頂戴し、もりもりとマフィンを食べながら市場を去っていった。