さて、マッドの為と思い、意気揚々とオーブンを買いに外に出かけたサンダウンだったが、ちょ
 っと馬を走らせたあたりで心が挫けてきた。
  木枯らしが旋毛を巻いて背丈の短い草を薙ぎ払っている様は、見ているだけで寒々しい。その中
 を馬を走らせて突っ切っているのだ。いくらポンチョを羽織って頬骨まで埋もれさせていると言っ
 ても、寒いものは寒い。大体、サンダウンの来ているポンチョなどは薄っぺらいもので、正直なと
 ころ、さほど雨風を防ぐのに役立っているとは思えない代物である。 
  身を切るような旋風の中、このまま回れ右をして小屋に帰ろうかな、とサンダウンは思うのだが、
 それをしたなら間違いなくマッドが落胆する。いや、マッドの性格からして落胆などはしないだろ
 う。落胆などせず、嬉々としてサンダウンを小屋の中から追い払いにかかるに違いない。
  サンダウンがマッドに小屋から追い出されるなんて事は、寸でのところで止める事が出来るだろ
 うが、しかしマッドがサンダウンを邪魔者扱いする事は図太いサンダウンでも少々堪えるものがあ
 る。それに、オーブンを手に入れられなかった事で、約束したクリスマスケーキが不意になる事も
 癪である。
  なので、サンダウンは己を叱咤し、とにかくオーブンが売っていそうな店のある街を探し始めた。
 マッドはいとも容易く手に入るみたいな事を言っていたが、それはマッドだから手に入るのであっ
 て、もさもさのおっさんが同様にすぐに手に入れられる代物だとは思わないほうが良いだろう。サ
 ンダウンは、己の外見がマッドと大差ないと思うほど自意識過剰でも愚かでもない。
  どうやって店に忍び込むか、とつらつら考えながら、サンダウンは馬を走らせて荒野を急いだ。
  とにかく早くオーブンを買って帰って、ぬくぬくとした小屋でごろごろする為に、馬脚を急がせ
 た。





    急いだ甲斐もあってか、まだ日が傾かないうちに、サンダウンは少しだけ大きな町に辿り着く事
 が出来た。
  鉄道こそ通っていないが、駅馬車が幾つも停車している町は、サンダウンがやって来るにはかな
 り洒落た部類の町なのではないだろうか。野生の動物並みの勘で、そんな街を選んでやって来た自
 分を褒めてやりたい。
  石畳で舗装された大通りには、沿うように街灯が立ち並び、馬車と人が賑やかしく往来している。
 通りに面している店も、店頭にひっそりとお洒落なメニューボートを出したりしている。少し視線
 を巡らせれば、オープン・カフェなどもあるようだ。
  これらの店は既にクリスマスの飾りつけを終わらせており、扉や店先にクリスマスツリーやリー
 スを飾っているところも少なくない。
  そもそも、町全体がクリスマスを待ち侘びているのか、少し忙しない、けれども温かい色合いの
 空気に染まりつつある。特に用事はないが、路地に入れば教会も見つかって、そこでは更なるクリ
 スマスの準備が見られるのかもしれなかった。
  温かみを帯びた聖誕祭の準備で忙しい町は、サンダウンにとってはどうしても相容れない場所だ。
 毎年、そういえばこの時期は町に行くのも避けている。
  マッドはサンダウンが塒に勝手にやってきて入り浸っていると言っているが――確かにそうした
 面もあるのだが――サンダウンとて意味もなく塒に入り浸っているわけではない。この季節、サン
 ダウンには行く宛がない為、ひっそりと塒に忍び込んでいるのだ。
  サンダウンとしては、マッドが塒でクリスマスを過ごそうと決めている事のほうが、想定外だっ
 たのだ。勿論、いたらいいな、とは思っていたりしたわけだが。けれども、マッドが塒にいる可能
 性は低いだろうなと思っていた。
  それが、年明けまで塒で過ごすという事なので、サンダウンとしては諸手を上げて喜んでいる最
 中なのだ。
  サンダウンは、マッドはてっきり、こうしたクリスマス一色の町で誰かと一緒に過ごすつもりな
 のだろうと思っていたのだから。
  事実、クリスマス期間中の町は、サンダウンよりもマッドのほうが良く似合う。いや、普段の町
 もサンダウンなどよりもマッドのほうが似合うものなのだが――サンダウンが似合うのは精々打ち
 捨てられたゴースト・タウンくらいなものだ。夜になっても華やぐ一方で、闇の暗さを忘れてしま
 いそうになるクリスマス期間は、マッドが闊歩するのに相応しい。
  町の中央に大きく聳え立つクリスマスツリーを見つけて、サンダウンはますますそう思った。
  サンダウンはもしかして、此処に一人で来るべきではなかったのではないだろうか。マッドを連
 れてくるべきだったのではないだろうか。
  サンダウンのような小汚いおっさんと肩を並べて歩く事に、恐らくマッドは渋面を作るだろうが、
 多分、サンダウンは此処にマッドを連れてくるべきだった。マッドが寒い寒いと文句を言うのを、
 黙って聞いているべきだったのだ。
  が、今更そんな事を思ってももう遅い。マッドは小屋に残って、サンダウンがオーブンを持って
 帰るのを待っているのだ。此処にはいない。
  雪の降り積もったモミの木を模したのであろう、真っ白なツリーと、それを彩る色とりどりのオ
 ーブ、そして頂点に輝く星を見上げて、サンダウンは小さく溜め息を吐く。
  失敗してしまった事は仕方がない。
  サンダウンに残された選択肢は、せめてマッドが欲しいと言っていた物を、失敗せずに入手する
 事だけだ。
  サンダウンは鮮やかに染まり始めた冬の街並みを、その頭上が暗くなる前に――町がいっそう華
 やぐ前に、サンダウンはのそのそと、現在は全く縁のない場所――クリスマス市場へと重い歩を進
 めていった。