マッドは刳り貫かれたカボチャの中に、一つ一つ蝋燭を灯している。
木の枝に沿うように垂らされたカボチャ達は、一様に笑い顔を作っており、その顔が中の蝋燭に
よって爛々と輝いている。
マッドの脚の周りでは、自分達も何か作業をしているつもりなのか、トカゲ達が意味もなく右往
左往していた。
今宵は万聖節の前夜であり、小さな魔族達は人間の子供に紛れて人里にまで降りる事が許された
日でもある。魔族の家に押しかけてお菓子を簒奪するだけではなく、人間達の家にあるお菓子まで
奪っていく心づもりなのだ。
なので、マッドも前日からうきうきと準備をしていた。
前もって収穫されていたカボチャ達は、既にサンダウンの手によって綺麗に刳り貫かれ、提灯に
されている。その中の大き目の一つを、マッドが妙に大事そうにしまい込んでいたのをサンダウン
も見ていたが、その時は特に言及しなかった。
けれども、今にして思えば、その時にカボチャを取り上げるべきだったと思っている。
これからお菓子を強奪に行こうと考えているマッドは、今は黒いマントを羽織っているだけだ。
その状態でカボチャの提灯を満足そうに見上げている。だが、そんなマッドの脚元に置いてある、
蝋燭の灯っていないカボチャの行く末は、薄らと分かるものであった。
サンダウンが嫌な予感をひしひしと感じている間に、マッドはさっさと嫌な予感を現実のものに
変換する。
即ち、足元にあったカボチャを、かぽりと顔に嵌めたのである。そして右手には、野菜の収穫に
使う小さな鎌が。
何処からどう見ても、立派なお化けカボチャである。
まあ、人間の眼から見れば、マッドのような小さなお化けカボチャは、微笑ましく映る事だろう。
だが、実際のお化けカボチャは、行く末もない愚かで哀れな鬼火であり、魔族の眼から見ればお
ぞましくも恐ろしい存在だ。例え人間がお化けカボチャの事をそうは思っていなくても、サンダウ
ンを見れば人間達も恐れをなして逃げる事だろう。ぬっと背の高い影と、カボチャの奥で揺らめく
青白い炎、馬の首など一刀で切り落とせそうな大鎌。
もしもカボチャがなければ、サンダウンの姿は死神のように思えたかもしれない。死神ほど優し
くも神聖でもないのだが。
そして、マッドは今、そんなおぞましい姿を模している。
小さいから、人間には微笑ましく映るだけで終わるだろう。
だが、魔族の眼からはどう思われる事か。小さな子犬が、黒い耳をパタパタさせるのではなく、
よりにもよってお化けカボチャの姿をしているなんて。
サンダウンは、獣人達の怯えがまざまざと眼に浮かぶ。きっと、マッドが現れた瞬間、その場は
騒然となる事だろう。小さくても鬼火は鬼火だ。子供達は絶叫し、大人達は卒倒するかもしれない。
そしてその正体がマッドであると知れたなら。由々しき事態だと、思うだろう。マッドがサンダ
ウンの傍にいる事について。
だが、当のマッドは己の所業が、実は大変な事であるとは理解していないのか、手にした鎌をぶ
んぶんと振り回している。そしてその周りには、やはりトカゲ達が。
トカゲ達も、今夜は万聖節の前夜であると理解しているのだろうか。なんだか全体的に奇妙な恰
好をしている。丸みを帯びて何もない頭に、一体どこから準備したのか、犬やら猫やらの耳をつけ
ているものもいれば、背中に甲羅を背負ったものもいる。
先日、マッドに捕獲された白いトカゲは、白い兎耳をつけられていた。
どうやら、彼らなりに仮装してみたらしい。
ただ、結果として、これまで以上に謎の生物になっているのだが。
その中で特に謎なのが、少しずつ大きくなり始めた、苦味好きのトカゲである。すっぽりと全体
をタイツのような細長い身体にぴったりとする物で覆っているのだ。勿論、手足もタイツの中に収
納されており、自分の力では動く事が出来ない。なので、別のトカゲの背中に乗せてもらっている。
が、偶に転がり落ちて、仰向けになったところでタイツの下にある手足と思しき突起を、ぱたぱ
たと動かしている事がある。
サンダウンが、それが実はどうやら蛇の仮装のようであると気が付いたのは、タイツに鱗らしき
模様があった為だった。
しかし、トカゲは元の体型が丸みを帯びたぽってりした体型であるので、蛇と言うよりもツチノ
コである。
こうしてきっと、謎の生物の目撃情報が増えるのだな、とサンダウンは世界の真理を垣間見たよ
うな気がした。
さて、準備ができた――というか、奇妙な生物を引き連れたマッドは、カボチャを被って右手に
は鎌を、左手にはカボチャの提灯を持って、ご機嫌そのものであった。お化けカボチャになり切っ
て、ご機嫌そのものの声で、
「がおー!」
と叫んでいる。それに呼応して、トカゲ達もきゅいーと鳴いている。
言っておくが、サンダウンはお化けカボチャになった後もなる前も、がおー、と叫んだ事はない。
「これで、ことしのおやつはぜんぶおれさまのもんだ!あいつらおくびょうだからな!おれのすが
たをみたら、おびえてにげるぜ!」
どうやら、マッドのその姿は故意のものであったらしい。お化けカボチャの姿をしていれば、魔
族の子供達は恐れ怯えるので、その隙にお菓子を一人で強奪しようと考えているようだ。サンダウ
ンとしては、その前に大騒ぎになるだけのような気がするのだが。
けれども、マッドは聞かない。
それはそれで一興、とか思っているらしい。
「どうせきょうはぶれいこうなんだ。だったらおおさわぎしたほうがいいってもんだ!」
再び、がおー、と吠える。犬の獣人は、普通そんなふうに吠えたりしないのだが。
「それにあいつらがおくびょうだってことを、おおいにしらしめるいいきかいだからな!あとでお
もいかえして、さぞかしはずかしいおもいをすりゃあいいんだ!」
カボチャにかそうした犬におびえたってな。
くけけけけ、と笑うマッドは、確かにお化けカボチャよりも悪どい。しかも自分には大人達は手
を出さないと知ってやっているから、猶更である。
「………私は、知らんからな。」
絶対に一悶着あるであろう事を予感して、サンダウンは呟いた。しかし、マッドは何処吹く風で
悪魔的に笑っている。
「あんたのちからなんかかりなくても、おれひとりでじゅうぶんだぜ!」
「……………。」
何故だろうか。マッドの言い分だと、サンダウンもマッドのやろうとしている事に加担している
ようである。サンダウンが――お化けカボチャが万聖節の日に騒ぎを起こす事が恒例化し、それに
初めて参加する小さいカボチャが粋がっているような。
そうでなくとも、サンダウンの所為にされそうなのに。
もはや、サンダウンに出来る事は、マッドが無茶をしないように、遠くから見守るだけである。
トカゲ達は、マッドと一緒に騒ぐつもりらしいので、頼りにはならない。がおーと吠えているマッ
ドに、トカゲ達は呼応している。
サンダウンは、とりあえず無駄な抵抗と知りつつも、マッドに提案をする。
せめて、大人達が卒倒しないように。
「………もう少し、可愛くしておけ。」
「このおれさまの、どこがかわいくねぇっていうんだ!」
これから魔族を怯えさせようというのではなかったのか。己の可愛さを自負する子犬は、しかし
今から可愛さを引っ込めて騒動を起こそうといっていたはずである。
いや、カボチャ姿も確かに可愛いのだが。しかしそれだけではお化けカボチャの意味は掻き消さ
ない。
「……耳を出しておけ、耳を。」
子犬の仮装だと一目見て分かるように。すると、マッドは鼻先で嗤う。
「みみのあるカボチャなんか、みたことねぇぞ。」
それを言うなら、耳のあるトカゲだって見た事がない。マッドの周りにいる謎の生命体と化した
トカゲ達を見ながら、サンダウンは呟く。
「つーかさ、だったらあんたがつけろよ、みみ。カボチャに。みみ。いぬみみ。」
「……………。」
そうだそれがいい、と言うマッドは、今にもサンダウンに耳を付け出しそうな勢いである。カボ
チャの所為で見えないが、今、マッドは非常に悪い笑みを浮かべているに違いない。そうに違いな
い。そしてそうやって笑っている時、マッドは確実に己の欲望を果たすのだ。
今宵、変な生命体が更に生み出されそうである。