マッドは、家の中の飾りつけに余念がない。
ぽてぽてと歩いては、サンダウンが買ってきたツリー用の飾りを家中に取り付けている。それは
本来、モミの木に付ける用だろう、とサンダウンは少し複雑な気分でマッドの様子を見ていたが、
マッドの機嫌が大いに宜しいので口を出すのは止めておいた。
「………クリスマス会の誘いはどうした?」
「あんなこどもだましみたいなの、いかねぇよ。」
ふんふんと鼻歌を歌っているマッドは、サンダウンの問いかけを一蹴した。どうやら今年も獣人
達は、マッドをクリスマス会に連れ込むという事が出来なかったようである。
獣人の誘いを断ったマッドは、ツリーの飾りであるオーブをトカゲ達に一つ一つ与えている。ト
カゲ達は気に入った色のオーブを受け取ると、鼻先で突いたり、加えてみたり、頭の上に乗せたり
して遊んでいる。
ツリーの飾りをあちこちに吊るす傍らで、マッドはオーブンの中でゆっくりと綺麗に膨らみ始め
たスポンジケーキの様子を眺めては、サンダウンに、はやく生クリームをあわだてろ、と命じる。
今年はクッキーではなくケーキを作るらしい。
例年よりも派手になりつつなる家の中をサンダウンは見回して、やれやれと溜め息を吐いた。
実を言えば、サンダウンはちゃんとモミの木を取ってきている。
飾りを買った以上は、やはりモミの木がないとおかしいだろうと思い、別に良いと言うマッドに
言い聞かせて――というか、マッドも好きにしろと言ったので、サンダウンは雪深い森の奥に分け
入ったのだ。
ただし、マッドもぽてぽてと着いてきた。
あんた一人じゃあぶねぇんだぞ、と、むしろお前が危ないと言い返したくなるような台詞を吐い
て、マッドはサンダウンの後を追いかけてきた。
風邪をひくぞ、と言っても聞かないマッドを無理やり追い払おうとすると、マッドは眼をうるう
るとさせて見上げてくる。おれがじゃまなのか、と聞いてくる子犬に頷く事など勿論できず、結局
サンダウンはマッドが後をついて来る事を許してしまった。
サンダウンの後をついてくるマッドは、ふかふかの赤いコートを着ている。それはサンダウンが
ツリー用の飾りと一緒に買ってきたもので、それもまた、クリスマスを待たずしてマッドの眼に入
る事になったのだ。
うきうきと新しいコートとブーツに身を包んだマッドの周りには、ファー付のフードを被ったト
カゲ達がおり、彼らはマッドの赤いコート姿に、なにやらきゅいきゅいと騒いでいる。何を言って
いるのかは全く分からないが、マッドの服装がトカゲなりに気に入ったようである。
マッドの後を追いかけるようについて来るフード付きのトカゲ達は、雪道も特に気にせずに一列
になって歩いている。彼らが通った後は獣道が出来ている。
ところで、と、赤い犬耳フードのマッドが付いてきている事を確認しながら、サンダウンは思う。
あのトカゲ、もといサラマンダー達は冬眠しないのだろうか。サラマンダーが冬眠するという話は
聞いた事はないが、どう考えても寒さに強い物体ではないと思うのだが。尤も、サラマンダーであ
るかとうかも、その肌触りがふかふかである点で怪しいのだが。
そんな事を考えつつ、サンダウンはモミの木を物色する。
マッドのモミの木になるのだ。出来る事なら、それなりの見栄えのものを選びたい。
モミの木の群生地をのそのそと動き回っている間、マッドはトカゲ達と雪を掘り起こしたりして
遊んでいる。ころころと雪玉を丸めて、小さい雪だるまなどを作っているようだ。
モミの木とモミの木の間に、雪だるまを並べているうちに、サンダウンの気配に怯えていたドリ
アード達もマッドの様子が気になったのか、するりと木陰から出てきた。冬場だと言うのに酷く軽
装なその姿は、見ているだけで寒そうだったが、木々である彼女達には気温の変化など、よほどの
事がない限り大した事ではないのだろう。
彼女達は小さい愛くるしい子犬を構いたがる。それは昔からそうであったし、マッドが同世代の
獣人の子供達と遊ばないのも、こうした別種族からちやほやされる所為だった。同世代の獣人達が、
マッドの気を惹こうと意地悪な事をするのに対し、樹精や水精といった精霊に近い存在は長命であ
る故に、穏やかにマッドを甘やかしてくれる。基本的に甘やかされる事が好きなマッドは、気を惹
く為とはいえ、自分に意地悪をする輩には懐かないのである。
雪だるまを飾る為の落ち葉を持ってきてくれるドリアード達に、マッドはしっぽを振りながら愛
嬌を振りまいている。
その様子を横目で見ながら、サンダウンは一人黙々とモミの木を捜す。
サンダウンは、自分がその輪の中に入るべきではない事を良く知っているのだ。
やがて、良い感じのモミの木を見つけ出し、それを根っこから掘り出して、サンダウンはドリア
ードに囲まれたマッドの元へ、のそのそと歩み寄る。話しかけて良いものか、一瞬だけ躊躇ったが、
サンダウンは雪だるまを並べているマッドに声をかけた。
「………マッド。」
その瞬間、ドリアード達が音もなく立ち上がり、ひらりと姿を消した。
そんなドリアードの態度など一向に気にせず、マッドはくるりとサンダウンを振り返り、立ち上
がる。トカゲ達も伸びをしたりして、帰る準備を見せ始めた。
「みつかったのか?」
振り返ったマッドは、ぽてぽてとサンダウンに近寄ると、サンダウンの後ろにあるモミの木に気
が付いたのか、サンダウンのポンチョの端を握りしめると、じろじろとサンダウンの背後を見つめ
た。
「………これ、もってかえんのか?」
「………気に入らないのか?」
マッドの目線に、サンダウンも声を少しばかり厳しくして問うた。すると、マッドはそうじゃねぇ
よ、と首を振る。
「あんたがはこぶんだろうな?」
「………当たり前だろう。」
どう考えても、マッドには運ぶのは無理だ。
サンダウンが選んだモミの木は、決して大きな木ではない。マッドの木なのだから、まだ小さい
のは当然だ。しかし小さいとは言っても、サンダウンほど大きくはなくても、マッドの身長はゆう
に超えている。そんなものをマッドに運ばせようだなんて、サンダウンは思っていない。
なら良い、と頷いて、マッドはコートに付いた雪を払うと、トカゲの作った獣道をぽてぽてと戻
り始めた。その後をトカゲ達が一列になって追いかける。
それを見送って、取り残されないようにサンダウンもまた、モミの木を担いで来た道を戻り始め
た。
しかし、この時はまだ、マッドがモミの木に飾りを付ける気がないなどとは、考えてもなかった
のだ。採ってきたモミの木を、マッドの作ったカボチャ畑の横に植えた時も、何も考えていなかっ
た。
マッドがモミの木に、全く別の飾りを持ってきた時に、サンダウンはようやくマッドが何を考え
ているのかを悟ったのだ。
「なんだ、それは。」
ピラミッド状に折り重なったトカゲ達を踏み台にして、マッドはモミの木に飾りを付ける。しか
しその飾りはサンダウンが購入した飾りではない。
小さいカボチャを刳り貫いたそれは、今年のハロウィンの時に、サンダウンがマッドに命じられ
て木の上から吊した提灯だった。
「カボチャにきまってんだろ。」
赤いコートを着て、何を言っているんだと言わんばかりに頬を膨らますマッドは、非常に可愛い。
何をしても許されると分かっているのだ、この子犬は。
「何故、」
「なにがわるいっていうんだよ。クリスマスにカボチャをかざったらだめなんてきまりは、どこに
もねぇんだぞ。」
それはそうかもしれないが、よもやカボチャを飾られるだなんて事は、モミの木も思っていなか
っただろう。
トカゲを踏み台にして、マッドは次々にカボチャをモミの木に取り付けていく。
そして最後に。
マッドは、とてとてとサンダウンに近寄ってきた。その手には、豪奢な星が握られている。
サンダウンのポンチョを引っ張り、サンダウンに抱っこをせがむマッドは、だっこしてほしいわ
けじゃねぇんだぞ、と口を尖らせている。
どうやら、流石にトカゲのピラミッドでもモミの木の頂上には手が届かなかったようだ。
無言でマッドを抱き上げ、モミの木のてっぺんが見える位置まで持ち上げてやると、マッドの小
さい手がカボチャに彩られたモミの木の頂上に、星を一つ流れ落とした。