マッドは毛布に包まって、サンダウンの懐に入っていた。サンダウンも方から毛布を被って、マ
ッドを包み込んでいる。マッドの身体の下にはトカゲ達が折り重なって、マッドを受け止めていた。
寒い夜は、こうしてマッドは丸くなる。
小さい身体を丸くして、ますます小さくなったマッドの頭を、サンダウンがゆっくりと撫でる。
それに対して、マッドは耳をパタパタさせて、しかたねぇなでさせてやる、と言っていた。
お化けカボチャであるサンダウンは、他の魔族に言わせれば恐ろしい存在だそうだが、マッドに
とっては恐ろしくもなんともない。
小さい頃から一緒にいた所為かもしれないが、サンダウンはマッドがぜがむ前に抱っこしてくれ
るし、マッドを叱り飛ばしたりもしない。マッドが一人で遊んでいたい時は、放っておいてくれる。
そういった面からも、料理の腕はあんまり宜しくないし、多少物足りないと思う事はあっても、別
に恐ろしいとは思えず、むしろマッドの好きにさせてくれる存在だった。
それに中身が、実はただのおっさんである事も、マッドは知っている。
なので、子供達が騒ぐように、サンダウンと一緒にいるから何か大きな問題が起きている事はな
いのだ。
きっと、クリスマスをマッドが祝いたいと一言でも言えば、のっそりと動いてモミの木を準備し
てくれるだろうし、プレゼントも買ってくれるだろう。クリスマス会だって、別に行く事を禁止さ
れているわけでもない。
ただ、マッドはクリスマスというものを祝っても良いし、祝わなくても良いと思っている。
むしろ、サンダウンが祝えないのなら、祝う必要もないと考えているのだ。
もしもクリスマスの日に、サンダウンと一緒に蝋燭を持って教会に行き、聖母の炎を分けて貰え
ると言うのなら、マッドはそうしただろう。けれど、サンダウンが教会に行かないだろう事は分か
っているし、教会側もサンダウンに炎を与えるとは思えない。
サンダウンはきっと、炎を与えられない事を不満に思ったりはしないだろう。マッド一人だけが
貰ってきても、何も言わないはずだ。
だが、マッドが炎を貰っている間に、ふっとその中に宿っている鬼火が消えてしまうかもしれな
い。そんな、恐れがある。
なのでマッドは、クリスマスはサンダウンと一緒に、家である巨大な木の洞の中で丸くなってい
るのだ。
それは、他の子供達が思うほど、悪い過ごし方ではない。
簡易的な暖炉で暖を取り、毛布に包まって丸くなり、ささやかなお菓子を食べる。モミの木もプ
レゼントも何も関係ない、ひっそりとしたクリスマスだ。
マッドは、それで良いと思っているのだが。
「………お前は、モミの木が欲しくないのか?」
マッドを懐に入れるサンダウンが、そう尋ねた。
実はモミの木は、獣人達の中では子供が生まれると苗木を取ってきて、庭なりに植えて育ててい
く木なのだ。そしてクリスマスの日には、それを飾り立てる。兄弟が多い家庭では、たくさんのモ
ミの木が植えられており、まるで家を取り囲んでいるようなところもある。
だが、親のいないマッドには、そういったモミの木は存在しない。サンダウンが、獣人達の細か
いしきたりを良く知らなかった所為もあり、マッドのモミの木はないのだ。だから、マッドはモミ
の木に飾りを付けた事もない。
「べつに、ほしくなんかねぇよ。」
それは本心だった。
マッドはモミの木なんか、欲しくはない。
モミの木よりも、それにぶら下がっている飾りのほうに興味があった。金銀で作られた葉っぱや
ら、赤い林檎やら、ビーズがたくさん付いた靴下やら、赤いリボンが巻いてある鐘だとか。
そういった細々とした、けれども非常に繊細で綺麗な飾りのほうが、マッドの眼を惹いたのだ。
それに、木の一番上についてある、あの星。
ああいった物のほうが、マッドは欲しい。
マッドがそう言うと、サンダウンは微妙な顔をした。変な物を欲しがっていると思ったのだろう
か。
マッドが耳をパタパタさせていると、サンダウンは怪訝な声で問う。
「………そんな飾り、あったか?」
獣人達の持っているモミの木の飾りは、基本はお手製だ。一番上に付ける星も、お手製で、時々
歪んでいる物があったりする。そしてそれ以外の飾りは、木の実に色を塗ったり、松ぼっくりにビ
ーズを塗したり、もしくはフェルト生地で靴下や鐘やリースのような飾りを作ったりというような
物だ。
マッドが口にしたような物のほとんどを、獣人達は手製で作っている。なので、マッドの言うよ
うに繊細で綺麗な飾りというのは、あまりない。
「にんげんのモミの木のかざりは、そんなだったぞ。」
ぎょうしょうにんとかいうやつが、そういうのを売ってた。
その台詞に、マッドの頭を撫でていたサンダウンの手が止まり、マッドの頭の上でぎゅっと握り
しめられた。
「……お前はまた、人里に降りて行ったのか?」
明らかにむすっとしたサンダウンの声に、マッドは耳をパタパタさせて返事をする。
「にんげんなんか、こわくねぇよ。」
「怖いとか、そういう問題ではない。」
溜め息交じりに苦々しい台詞を吐き出し、サンダウンは懐に埋もれているマッドの両脇に手を差
しこむとそのまま抱き上げ、カボチャのお面とマッドの顔を同じ位置に合わせる。
暖かい場所から引きずり出されたマッドは、むっとする。
「なんだよ。さむいだろ。かぜをひくだろ。おれをそんな目にあわせていいとおもってんのか。」
「お前が人間に捕まるような目に会わせるよりは、ましだ。」
「にんげんになんか、つかまらねぇよ。」
「根拠がないだろう。」
ああ言えばこういうカボチャに、マッドはぷくっと膨れた。
別に、マッドも好き好んで人里に降りているわけではない。ただ、人里に降りなければ手に入ら
ない物もあるのだ。丸々と太ったサツマイモだとか、綺麗に磨かれた石だとか、野花とは違う色と
りどりの花だとか。
何が何でも手に入れたいと思うわけではないが、そういった物は、魔族の里ではまず見かけない。
それに、魔族の里では遠い国の物はなかなか手に入らないが、人里には行商人がいるから、珍しい
異国の品も、高い頻度で入ってくる。
「いぶんかこうりゅうがない、まぞくがわるいんだぞ。」
「………。」
言い募れば、サンダウンは押し黙った。
そもそも誰かと関わる事のないお化けカボチャに、言い返す手立てなどないだろう。
サンダウンを言い負かして、ふん、と自慢げに鼻を鳴らすと、マッドは再びサンダウンの懐に潜
り込んだ。
ぬくぬくと丸まっているうちに、マッドは眠くなってきた。うつらうつらしているうちに、いつ
の間にやら、眠ってしまったようだ。
懐から寝息が聞こえてきて、サンダウンはマッドをゆっくりと取り出した。丸くなっているマッ
ドを起こさずに取り出せた事に安堵し、下で待ち構えているトカゲの上にマッドを乗せる。ふかふ
かのトカゲ達は眠っていたようだが、きゅうと言った以外には、マッドを乗せられても特に文句を
言わずに、再び眠り始めた。
寒くないように、マッドの上に自分が羽織っていた毛布も乗せ、サンダウンはおもむろに立ち上
がる。
別に、獣人達にあれやこれや言われたからではない。
ただ、マッドが少しでもクリスマスに類する何かを欲しいと言うのなら、それを叶えてやりたい
と思うだけだ。例え、それが、モミの木の飾りだけだったとしても。
幸いにして、魔族からは忌み嫌われるサンダウンだが、その身体は人間の中に紛れ込むには都合
が良かった。
マッドのように、人間から危害を加えられる事を恐れる必要は、何処にもない。
黒い三角の耳が見えるマッドの頭を撫で、サンダウンはカボチャのお面を置いて、木の洞から出
て行った。