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お化けカボチャのサンダウン・キッドと一緒暮らしている子犬の獣人であるマッドは、木の洞で
出来た家の裏手に、小さな庭を作っていた。庭、というか、マッドが色んな種やらを埋めているう
ちに勝手に芽が出たというのが正しいのだが。
そんな、勝手に芽が出た種の中には、カボチャも含まれていた。
ちょろちょろと蔓が髭のように伸びたかと思えば、あれよあれというまに葉っぱが生い茂り、黄
色い実が生ったのだ。
初めて小さなカボチャの実が生った時、マッドはとても喜んだ。しかしすぐに、あまり大きな実
にはならなかったので、がっかりしていたが。
サンダウンは、別に食べれないわけじゃないから良いだろうとマッドを慰めたのだが、マッドは
お前の着替えにならないじゃないか、と言い返した。マッドとしては、カボチャは大きくあるべき
らしい。
しかしだからと言って、そのカボチャを回収しなかったわけではない。マッドはカボチャをちゃ
んと収穫し、次の年からもカボチャが収穫できるように、せっせと育てている。
ところで、一番最初に収穫した中から、マッドは一番形の良いカボチャを選び、それを今も手元
に置いている。どうやらそれがマッドの理想とするカボチャの形であるらしく、それが大きければ
サンダウンの着替え用にするつもりだったらしい。
その、理想となるカボチャは中身を刳り貫かれて置いてあるわけだが、ただ置いてあるだけでは
ない。マッドはカボチャをお面と同じように刳り貫いた後、トウモロコシの芯と組み合わせて何か
を作っていた。
こそこそと作っていたそれを、後でサンダウンがこっそりと見て、絶句した事をマッドは知って
いるのだろうか。
茶色い帽子をカボチャ頭に乗せて、その頭にくっついたトウモロコシの芯に茶色い布きれを巻き
つけた人形。
マッドの寝床に置いてあるそれが、一体何を示しているのか、同じ形をしているサンダウンには
嫌でも分かる。
そして、ふと思った。
そういえば、サンダウンはマッドに何かを与えた事がない。
勿論、寝床はサンダウンが与えている。小さいマッドを育てるにあたって、最低限の事はしてき
たつもりだ。
しかし、それ以上の事――菓子を与えたり玩具を与えたりという事はしてきていない。そういっ
た事は、サンダウンがするよりも早く、他の獣人達がやっていたし、何よりもマッドがそうした事
を嫌がる素振りを見せたから、サンダウンは敢えてやってこなかったのだ。
だが、例えマッドが嫌がっても、それはやっておくべき事だったのではないかと、自分を模倣し
たらしい人形を見て思った。
しかし、サンダウンにはマッドに何を与えるべきなのかが分からない。
菓子やら服やらは、獣人達が我先にと持ってくるし、かといって花や宝石は、まだ小さいマッド
には早すぎるだろう。それに、マッドは獣特有の清潔さで小奇麗な姿をする事を好んでいるが、華
美な恰好をする事にはさほど興味がないようだ。
マッドはまだ小さいのだ。だから、玩具などはどうかとは思っても、どんな玩具を与えてやれば
良いのか分からない。
マッドが自分で作り上げたカボチャの人形を、寝床に引っ張り上げているところをみると、玩具
に全くの無関心というわけでもなさそうだが。
ううむ、と頭を悩ませたサンダウンは、とりあえず集落に行って、マッドが好きそうなものを探
してこようと考える。集落の連中は、サンダウンがやって来る事に良い顔はしないが、けれどもマ
ッドを育てるようになってからは、邪険に追い払うような事はなくなった。マッドの為に何か買う
と言えば、ぶつぶつ言いながらも商品を見せてくれるだろう。
そう決めたサンダウンは、重いカボチャ頭をガボガボいわせながら立ち上がり、マッドの姿を探
す。
小さい子犬の姿は直ぐに見つかった。
裏庭のカボチャ畑にちょこんと座り、カボチャの人形を抱えて何かしているようだ。手に茶色の
布きれを持っているのを見るに、どうやら人形の服を新しいものに替えているらしい。
サンダウンが一向に小奇麗にならないから、鬱憤でも晴らしているのだろうか、と考えサンダウ
ンはそのアホな考えを打ち払う。
「……マッド。」
低くぼそぼそとした声は聞き取りにくかっただろうが、マッドの耳はすぐにぴくんと反応して、
マッドはくるりと振り返った。
黒い眼をぱちぱちさせているマッドを見下ろし、サンダウンはぼそぼそと続ける。
「私は少し……出かけてくる。遅くなるかもしれないから……戸締りに気を付けて、先に休んでい
ろ。なるべく早く帰れるようにするが……。」
するとマッドは、ふん、と鼻を鳴らした。
「るすばんくらい、おれだってできるんだからな。あんたにしんぱいしてもらうひつようなんてね
ぇんだ。すきなだけ出かけりゃいいじゃねぇか。」
「………戸締りには、十分気を付けるんだぞ。」
「もんだいねぇよ。」
自信満々に言うマッドに、心配が全くなかったと言えば嘘になる。
しかしこれ以上何か口を挟めば、我の強いマッドの事だから機嫌を悪くしてしまうだろう。なの
でサンダウンはこれ以上は何も言わず、小さな子犬を一人残して、集落に向かう事になった。
日はとっぷりと暮れた。
サンダウンは森の中を急いで歩いていた。まさかこんなに遅くなるとは夢にも思っていなかった
のだ。
別に、サンダウンが商品を選ぶのが遅かったため、こんなに帰りがおそくなったわけではない。
玩具を売っている店にサンダウンが顔を覗かせた途端、何をしにやってきたのかが分かった店の主
人が、矢継ぎ早に商品を取り出し、これはあの子犬にどうだ、それともこっちはどうだと進めてき
て、もっと早く来るべきだろう玩具一つ与えられないなんて子犬が可愛そうだとまで言ってきて、
挙句の果てにはそのへんの商品を一まとめにして持って帰れと言い始めたのだ。
それを断るのに、多大な時間を要したのだ。
そういったのは自分達が直接与えてやった方が良い、と言って、サンダウンはそこから逃げ出し
たのだ。
結局、恐ろしく時間がかかったにも拘わらず、サンダウンが手に入れたのは一つのぬいぐるみだ
った。両の掌にすっぽりと収まるような、黒い犬の。ぬいぐるみを見た瞬間、マッドを連想しなか
ったわけがない。
手を伸ばして持って帰ってきたは良いが、果たして自分と同じ黒い犬であるぬいぐるみを、マッ
ドが喜ぶかどうかは微妙なところだ。
微妙だ、と思いつつも、サンダウンは自分の塒である木の洞に潜り込む。大樹の洞は広く、幾つ
もの部屋のように仕切りのようなものまである。
その部屋の中の一つに、マッドの寝床がある。毛布と木の箱で作られた簡素な寝床には、黒い子
犬が丸くなって毛布にくるまっていた。
眠っているのか、それと具合が悪いのか。
そっとサンダウンが手を伸ばすと、すぴすぴと寝息が聞こえたので、ただ眠っているだけだと知
れた。しかし、小さな腕いっぱいにカボチャの人形を抱きしめている。
サンダウンは細い腕の隙間に犬のぬいぐるみを差し入れると、小さい身体を毛布ごと抱え上げ、
自分の寝床に入って行った。
次の日から、カボチャの人形の傍には、黒い犬のぬいぐるみが置かれるようになった。