毎年、この時期になるとカボチャ頭のお化けがあちこちを徘徊する。
人間にとっては非常に愛らしい姿に映り、ジャック・オ・ランタンだとか、パンプキン・キッド
だとか、そんな名前で呼ばれる事になるお化けカボチャ達。
しかし、彼らは人間達にとっては愛らしく見えても、同じお化け仲間達には、非常に厭わしい存
在として忌み嫌われている。
お化けカボチャの中に灯る炎は、天国にも地獄にも属さない魂だ。何処にも行く事が出来ないま
ま地上を彷徨い、虚ろに響く魂は、悪魔から冷笑と共に施された炎だけを手に、来る日も来る日も、
訪れない救済を待ち望んでいる。
そんな愚か者の炎に近づこうとする輩が何処にいようか。
うろつくお化けカボチャ達から、他の妖精や魔物達から遠ざかるのは、必然だった。ふらふらと
彷徨うカボチャ達の炎は、ぽつりぽつりと森の中に灯り、けれども彼らは互いに惹かれ合おうとは
しないのだ。カボチャ達は、互いの炎で互いを温める事は出来ないと知っているのだ。
故に、彼らは一人で地表を彷徨い続ける。
が。
そんな、誰からも見放された汚らわしいお化けカボチャの一つに、ぽてぽてとついていく小さい
影があった。
「キッド!そんなにはやく歩いたら、おれからはなれちまうだろ!道にまよったらどうすんだ!さ
がしに行くこっちの身にもなりやがれ!」
ぽてぽてと追いかける声は、まだ高い子供のものだ。
その声に立ち止まって振り返るお化けカボチャは、他のお化けカボチャよりも遥かに大きく、擦
り切れた茶色のポンチョに身を包んでいる。手に持っている鎌は背の高い自身よりも大きく、先端
についている刃も一狩で十の首を狩れそうなほど巨大だった。
お化けカボチャを恐れず、この時期の主人公として見ている人間達でさえ、その姿に泡を食って
逃げ出すだろう。
しかし、そんな巨大なお化けカボチャに恐れもせずに駆け寄っていくのは、まだ小さな子供――
ただし、頭には黒い三角の耳らしきものと、尻には同じく黒い犬の尻尾らしきものがある――だっ
た。尻尾をふりふりしながら子犬にも見える子供は、立ち止まったお化けカボチャに駆け寄ると、
カボチャの膝までしかない身体を脚にぶつける。
それを見下ろしたお化けカボチャは、黒い子犬のような子供に手を伸ばした。
別に、叩こうだとか、危害を加えるつもりだったわけではない。まだぽてぽてとしか歩けない子
供を、抱きかかえようとしたのだ。
しかし、子供はそれを躱し、ぽてぽてとお化けカボチャを追い越して歩いていく。
「さっさとついてこいよ!」
子供はカボチャに向かって怒鳴ると、再び前を向いてぽてぽてと歩いていく後姿には、やはり尻
尾が機嫌良さそうに揺れている。
お化けカボチャであるサンダウン・キッドが、どういうわけか手に入れてしまったのは、小さな
犬の獣人の子供だった。
よちよち歩きの頃から一緒にいる所為か、この子供はちっともサンダウンを怖がらない。それど
ころか身体をぶつけてきたり、身体によじ登ったりして、サンダウンの気を惹こうと一生懸命だ。
サンダウンと一緒にいる所為で、子供に友人が出来ないのではないかという杞憂があったが、元
来仲間内には甘い獣人達は、自分達の仲間がサンダウンと一緒にいる事について文句を言う事はあ
っても、子供に対して意地悪をしたりする事はなく、むしろお菓子を与えたりと甘やかしている節
がある。
しかし、子供は獣人達と一緒にいるよりも、サンダウンと一緒にいる方が良いらしく、今日もサ
ンダウンを引き連れて、冬場の食糧を捜しに来ていたのだ。
白い袋いっぱいに栗などの木の実を入れた子供は、次は人間の畑を狙っているようだ。しかし袋
を抱えたままでは忍び込むのは無理だろう。
だから、サンダウンは大股で先を歩く子供に追いつくと、その首根っこを掴んだ。
「なにすんだ!はなせ!」
じたばたと脚を暴れさせる子犬の動きなど、サンダウンにはびくともしない。
「人間の畑など狙うのは止せ……。」
「なに言ってんだ!はたけじゃねぇと、カボチャがないじゃねぇか!」
「お前……自分でもカボチャを育てていただろう。」
「あれじゃ小さすぎて、あんたのきがえようのカボチャにならねぇよ!」
「…………。」
小さい犬の言い分に、サンダウンは黙り込んだ。この子犬は、サンダウンが長期間同じカボチャ
を被っている事を不潔だと言い、定期的に変える事を強要しているのだ。そして挙句の果てには着
替え用まで作るつもりだ。
「あんたの服もだけど、ちゃんときがえねぇとだめなんだぞ!」
だから人間の畑を狙おうとする子犬を、サンダウンはもう一度止める。
「だが、人間に見つかると危険だろう。」
「そんなへまはしねぇよ。」
「へまをするしないの問題ではない。危険があるという時点で問題なんだ。」
言い聞かせるサンダウンに対して、子犬はぷくんと頬を膨らまして不満を如実に物語る。その仕
草は非常に可愛らしいのだが、それに負けてはいけない。が、このままサンダウンの意見を押し通
せば、本格的に臍を曲げてしまうだろう。
「……分かった。私が後で取ってこよう。」
「あんたが行ったほうが、めだつじゃねぇか。あんたこそつかまっちまうんじゃねぇのか。」
「……大丈夫だ。」
「なんだよ。おれがへまをしないって言ったらもんくを言うくせに、自分のときはそれかよ。」
子犬は頬を膨らませたままそっぽを向いて、ぽてぽてと歩いて行ってしまう。どっちにしても臍
を曲げてしまったようだ。
そんな様子に、やれやれと溜め息を吐いて、サンダウンは小さな後姿を追いかけた。