やっぱり、あのおっさんの為に、プレゼントというものを買っておくべきだろうか。
  下手をしたら、塒をクリスマス仕様にリフォームしている可能性のある賞金首の事を考えて、マ
 ッドは非常に面倒臭くそう思った。




  普段はごろごろして役立たずな癖に、どうでも良いところで変に力を発揮するおっさんは、放っ
 ておくとマッドのお気に入りの塒を、クリスマス色で染め上げるかもしれない。
  玄関の両脇にクリスマスツリーを飾りたてるだけでは飽き足らず、廊下という廊下にポインセチ
 アを並木のように並べ、壁という壁にクリスマスリースをぶら下げるなんて事を仕出かすかもしれ
 ない。風呂場に蝋燭を突き立てるという、何処の世界を想像しているのか小一時間問い詰めたくな
 るような事もやらかすかもしれない。
  帰ったら、電飾で飾られたトナカイの飾りやらが外一面に置いてあったら、マッドは二度とその
 塒を使えない。
  いくらサンダウンでもそんな事は、と思っている輩は認識が甘い。あのおっさんは、荒野のど真
 ん中にある小屋に、平気でダブルベッドを運んでくるようなスキルを持ったおっさんなのだ。
  荒野のど真ん中で、電飾飾りを付けるなんて事、朝飯前かもしれない。
  しかし、例えサンダウンと雖も、何の準備もなくしてクリスマスに変貌する事はできないだろう。
 少なくとも、マッドが知る限り、サンダウンが電飾やモミの木や松ぼっくりを準備している様子は
 なかった。あのポンチョの中にも、入っていないだろう。入っていたら、既にあのおっさんは、人
 間ではない。
  だから、サンダウンだって、それらを準備するだけの時間は必要になるはずだ。いつも何処でリ
 フォーム用品を手に入れてくるのかは知らないが、少なくとも電飾は荒野のど真ん中には転がって
 いない。街に行く必要があるはずだ。
  その時間を考慮すれば、今すぐにマッドが小屋に向かって折り返す必要はないはずだ。
  マッドだって、せっかく街に来たのだから、多少は遊びたいのだ。サンダウンのクリスマス色の
 脅威に怯えて、来たばかりなのにすぐに小屋に逆戻りするなんて、味気なさすぎる。買物だってし
 たいし、おいしいものだって食べたい。
  だから、マッドはサンダウンがクリスマスの準備を今すぐに始める事は出来ないと踏んで、今日
 は馴染みの娼婦のいる酒場にいる事にした。
  とは言っても、娼婦のいる売春宿も、今の季節はクリスマスに染まっている。神の教えに背いて
 姦淫をする娼婦と雖も、それでも店先には密やかにクリスマスツリーが飾られ、金の文字で聖書の
 言葉が囁くように描かれている。
  他の店と違って、ひっそりとクリスマスを主張する酒場は、代わりに酷く賑やかだった。そこが
 神にそっぽを向かれた場所である事を忘れ去ろうとするかのような喧騒が、小さく嘆きを孕んでい
 る事にマッドが知らぬはずもない。
  罪深いとされる女達は、皆が家族と過ごす夜でさえ、時に見知らぬ男と過ごさねばならないのだ。
 それが良であるのか悪であるのか、マッドには分からないし、その判断を付けようとも思わない。
 ただ、そこに慰めが必要であるのならば、それを満たすだけの何かを贈る事に、マッドが戸惑う事
 はなかった。

  女が好むものは、基本的に決まっている。
  花か、服か、はたまた化粧道具か。稀に本が良いと言う変わり種もいるが、基本的には最初に上
 げた三つが好まれる。
  特に、服と化粧道具に関しては、娼婦ならば仕事道具としても仕えるので、非常に重宝されるの
 だ。
  しかし、化粧道具は、ちゃんとしたものを揃えようとすれば非常に金が掛かる。しかし、娼婦で
 ある以上飾り立てる必要はどうしてもある。それ故、新参の娼婦などは、古参の娼婦のお下がりな
 どで顔を作るのだが、古いそれは時として時代遅れであったりもするのだ。
  そのあたりの事を理解しているマッドは、クリスマスプレゼントに何が一番適切であるのか、理
 解していた。
  プライドの高い娼婦の中には、高価な贈り物を受け取らない者もいる。しかし、クリスマスとい
 う特別な日には、そのプライドのハードルも下がっている。
  だから、マッドはその時期には化粧品をプレゼントとして準備する事にしているのだ。
  女達が噂をしていた新しい化粧道具を店で念入りにチェックし、問題なさそうならば購入して、
 馴染みの娼婦達に渡していく。それが、マッドのクリスマスのプレゼントだ。
  そういった実務的なプレゼントは、非常に喜ばれる事が多い。娼婦達は、世知辛い暮らしをして
 いる者がほとんどだ。中途半端に花を贈るよりも、何か実益に直結しているものを喜ぶ。
  それを知らぬ貴族のボンボンなどは、趣味の悪い、ごてごてとしたアクセサリを贈って一人喜ぶ
 のだが、趣味の悪いものなど、例え服であろうとアクセサリであろうと、いくら高価な品であって
 も、仕事に仕えねば意味がないのだ。むろん、娼婦達はそんな事おくびにもださないだろうが。
  だから、マッドは娼婦達には実益に叶うものを贈る事にしているし、それは喜ばれるのだが。
  それは、娼婦に対しての事である。
  マッドは、生憎と男にプレゼントなんかした事はないのだ。いや、酒の一つや二つくらい渡した
 事はあるが、クリスマスプレゼントなんて大それた言葉を付けた事はない。
  が、娼婦へのプレゼントを購入しているうちに、ふと思ったのだ。
  サンダウンは、もしかしなくても自分からのプレゼントを期待したりなんかしていないだろうか、
 と。
  いや、その可能性は大いにある。変なところでロマンチックな事を考えるおっさんは、マッドか
 らのクリスマスプレゼントを期待している可能性が、大いにあり得る。別れ際の、物言いたげな視
 線は、その期待も孕んでいたのかもしれない。
  もしもそうだとしたら、クリスマスリフォームを阻止する為に帰った時に手ぶらで帰ったら、な
 んだかとっても非常に面倒臭い事になりそうな気がする。これまでの経験から言って、確実に面倒
 な事になる。
  かといって、適当に酒とかを選んだら、もっと面倒な事になる。勘の良いおっさんは、それが適
 当かどうかの違いを的確に判断する。そして絶対に、拗ねる。拗ねたおっさんほど、面倒なものは
 ない。
  先程まで娼婦へのプレゼントを考えていた時とは打って変わって、暗澹たる気分になったマッド
 は、何故自分が髭のおっさんの為にクリスマスプレゼントを真剣に考えねばならないのかを、真面
 目に考えたくなった。
  が、真面目に考えたところで、行きつくのは最初にあのヒゲを獲物と定めた自分の責任であると
 いう真理だけなので、深く考え着る前に不毛な思考回路を止めた。
  とにかくあのおっさんの事を考えるのは後にしよう。先に、プレゼントを配ってしまおう。
  どう考えても、単に結論を先延ばしにしたにすぎない自分の状況に眼を瞑り、マッドは仄かに香
 水の匂いのする化粧道具を抱えて売春宿に向かった。