クリスマスなんだから、これくらいするべきだろう、とサンダウンは思った。
小屋を立ち去ったマッドが、再び戻ってくるまで、サンダウンには何もする事がない。
仕事のない、要するに住所不定無職のおっさんは、基本的に時間だけは有り余っている。だから、
マッドがいない間にする事といえば、酒を飲んだりゴロゴロしたり馬の世話をするくらいしかない
のである。
掃除とかそういう方向に思考が動かない辺りが、マッドを怒らせる理由の一つなのだが、生憎と
そういった思考回路は、よほどの事がない限り――マッドが別居を申しつける事がない限り――働
かない。
錆びついた思考回路は、そんなわけで、クリスマス目前のマッドのいない小屋の中の有り余る時
間を前にしても、働かなかった。
代わりに、サンダウンはのそのそと出かける準備をする。
出かけている間に、マッドが帰ってくるんじゃないか、という不安もないわけではない。が、さ
っき出ていったばかりのマッドが、そんなにすぐ戻って来るなんていう、サンダウンにしか旨みの
ない話は、そうそう転がっていない。
だから、サンダウンは、もぞもぞと出発の準備をする。と言っても、薄汚いポンチョを羽織るだ
けなのだが。
そんな薄汚い茶色いおっさんは、自分と同じくらい茶色い馬に跨って、ぱかぱかと荒野を横切っ
ていく。自分と同じくらい茶色い砂だらけの地面を横切っている間、ちらりとマッドに出会ったり
しないだろうかと淡い期待を抱いたが、所詮は期待は期待である。何度も言うようだが、そんな、
サンダウンにだけしか旨みのないような話は、この世の何処にも転がってはいない。運命の女神が
この世にいるのなら、さっきまで一緒にいたじゃない、というところである。
そんな、運命の女神でさえ呆れるような幻想を抱いて、それを打ち砕かれたおっさんは、若干し
ょんぼりとして、荒野を横切っていく。
しかし、そこは根本的に神経の図太いおっさんである。
長年、賞金首としてだらだらと荒野を生き延びてきた図太さは、伊達ではない。
すぐに気を取り直して、こそこそと街を探し始める。クリスマスを彩る物というものは、残念な
がら、だだっ広い砂だらけの乾いた荒野には転がっていないのだ。
勿論、このクリスマスの華やかさに彩られた街に向かうのは、人目を避けて生きるサンダウンに
は苦痛だ。クリスマス時期の温かくも賑やかしい、穏やかな人々の生活を見るのは、サンダウンに
とっては古傷を抉られるようなものだ。かつて守り切れなかった、そして過去に置き去りにした全
てが、そこに凝集されているようで。
しかし、今はそんな郷愁に浸っている場合ではない。
今現在のサンダウンにとって一番重要なのは、マッドだ。時に鬱陶しく、けれども愛さずにはい
られない賞金稼ぎ。
保安官を止めた時に全てを吐き捨てて空っぽになったサンダウンに、再び何かを注ぎ込んで満た
した張本人。
マッドが注ぎ込んだ何かは、未だに完全な形を成していないが、その顔ははっきりと欲望を示し
ている。
そのマッドの為に、何かを買っても、別に罰は当たらないだろう。
思えばこれまで、サンダウンがマッドの為に何かを与える事はなかった。いつもマッドから何か
を与えられるばかりだった。だから、クリスマスの彩りに紛れてプレゼントの一つや二つくらい買
っても良いんじゃないか、と思う。
その為に、古傷を抉るような温かな光の灯る街へとやってきたのだ。
まあ、もしかしたら、賑やかな街の何処かに、マッドがいるんじゃないかという期待がなかった
わけではない。勿論、くどいようだが、そんなサンダウンにしか特にならないような話は落ちてい
ないのだが。
そもそも、サンダウンの頭の中からは、クリスマスまでにマッドが戻って来ない可能性というも
のが、すっぽりと抜け落ちている。
その事にサンダウンが気付いたのは、こそこそと明らかに不審者っぽく、マッドが好きそうな酒
と、もう一つ何かプレゼントとなる物を購入した後だった。
そうだった。
買ったは良いが、クリスマスに――最悪クリスマス前であっても構わないが――マッドに渡せな
ければ、意味がない。クリスマスが終わってしまえば、プレゼントを渡す口実さえなくなってしま
う。何もないのにプレゼントを贈っても、マッドが警戒するだけだ――また何かやらかしたのか酒
を勝手に飲んだのか、とか。
クリスマスに渡しても、同じような警戒をされる可能性というのは大いに残っているわけなのだ
が、サンダウンは気付かない。
どうしたらマッドに逢えるのだろう、と、買ったばかりのプレゼントを持って、うろうろし始め
る。その姿は、どこからどう見ても不審者である。
そして、こんな事ならいっその事、監禁しておけば良かった、と考え始めたおっさんは、完全に
変態である。
そもそも、クリスマス前にマッドを取り逃してしまっては、マッドを再び捕まえられる可能性は
非常に低い。それはサンダウンが一番良く知っていたはずだ。マッドの競争率は高い。誰しも、こ
の時期、マッドと過ごす事を考えるはずだ。一度でも機会を取り逃してしまえば、次の瞬間、別の
誰かの物になってしまっている可能性があるのだ。
そんな事は断じて許せない。
やはり、次に逢った時は、そのまま閉じ込めて押し倒して、全身に痕を付けてしまおう。
どう考えても変態じみた事を考えるサンダウンは、しかし、至って大真面目である。大真面目に、
賞金稼ぎマッド・ドッグ監禁事件を起こそうと考えているおっさんは、それでもマッドへのプレゼ
ントは大事そうに抱きかかえ、いそいそと馬のいるところに戻った。
マッドが小屋に戻って来なかったらどうするんだ、という問題については、遥か後方に追いやっ
て、マッドが小屋に戻ってくるのを待つという選択肢をとった辺り、どこまで本気で考えているの
かは、全く不明だが。
結局のところ、マッドが帰って来ないかもしれないという事については些かの解決もしないまま、
サンダウンは、いそいそとプレゼントを抱えて小屋に戻った。