ちびっこハウスでは、全てが平等である。
美醜も、年齢も関係なく、ひたすらに平等に、アキラ扮するサンタクロースが皆に同じプレゼン
トを配り、そうしてちびっこハウスのクリスマスは終わるのである。
誰か一人を特別扱いする事はあっちゃならねぇ。
そう言っていたのは、亡き無法松だ。そう言っていた男は、確かにアキラにも、その他の面々と
全く同一のクリスマスプレゼント――いや、俺に駄菓子を贈られても困るんですけど――を渡して
いた。
おそらく、そういう観点から、妙子にも同じプレゼントを贈っていたらしい。
どこまでも不器用な男である。
しかしそれが無法松にとっての正義であり、筋であったのだろう。
それを長年呆れたように――彼の真実を知ってからは幾分かの憐れみを持って――見るアキラは、
しかしよもや自分も同じ葛藤を味わう羽目になるとは思ってもみなかった。
アキラには、妹がいる。
文字通り、血を分けた、たった一人の肉親である。
不甲斐ない自分と比べると、これが良くできた妹で、間違いなく将来は美人になり、街ゆく男共
の視線を一身に集めるだろうが、そんな不埒な眼で見る事はこの兄であるアキラが決して許さねぇ
ぞこんにゃろう……と思うくらい、良くできた妹である。そしてお分かりだろうが、アキラにとっ
ての一番の琴線でもある。要するにシスコンである。
そのシスコン、ではなく妹思いのアキラとしては、妹――カオリというのだが、良い名前だろう
ふふん――に、年に一度のクリスマスくらいは、兄として他のチビッコ共に負けないプレゼントを
やりたい気分でいっぱいである。
アキラは貧乏ではあるが、しかし妹の為に一肌脱いで金を稼ぐなど大した事ではない。
だが、先程も言った通り、ちびっこハウスには全人民平等宣言が敷かれている。誰が敷いたのか
は知らないが、誰か一人が良い思いをするなどは有り得ないのだ。だから、アキラがカオリにプレ
ゼントを渡す事は、今のところは金銭面での問題ではなく、ちびっこハウスのシステムの問題の所
為になっている。そういう事にアキラはしている。
しかし、無法松の後を継いで、タイ焼き屋さんになったアキラには、幾分かの自由に使える金が
ある。
それを使って妹であるカオリに何かを買ってやりたいと思う事は何か間違っているだろうか。い
や間違ってなどいない。
妙子がどれだけ非難しようとも、ワタナベが泣き叫ぼうとも、アキラにはカオリにプレゼントを
買ってやる強い意志がある。
しかし、問題は、カオリが何を欲しがっているか、である。
もし、お兄ちゃんと結婚したい、とな言ったらどうしよう、とかアキラはいらぬ心配をしている。
因みに、カオリはそんな事を言うような幼児ではない。むしろ、自分の生死についても論じる事が
出来るくらいに成長している。
だが、そんなアキラの頭の湧いた妄想を一蹴したとしても、カオリの欲しいものというのは、非
常に難題であった。思いあぐねた挙句、アキラはタロイモに聞いてみたところ――亀に救いを求め
る時点で如何にアキラが切羽詰まっているのかが良く分かる――カオリは特に何も欲しがっていな
いというのである。
あまり身体の丈夫でないカオリには、何かプレゼントを貰うよりも、皆と楽しくしているのが一
番良いというのである。
なんという出来た妹。
それに対して兄といえば、髪を染めて腹を出した恰好で、ハーレーを乗りまわしているのである。
「待て、亀!その最後の一言は余計だろうが!」
タロイモの心の声を呼んだアキラは、ミドリガメのアンドロイドにローキックをかます。尤も、
タロイモの硬い外殻に弾き返され、逆に自分が痛みのあまり脚を押さえて蹲る事になるのだが。
「じゃあ、今、カオリが好きな物とか、好きな事ってなんだよ。」
不肖の兄は、ひとまず気を取り直して問うた。すると、亀は、そんな事も知らないのか、と非常
に呆れたような心うちを見せてくれた。
それに、アキラはカチン、ときたものの、再びローキックをかますような愚行はしなかった。タ
ロイモも、アキラにそんな事を言っても無駄だと思ったのか、自分の知っている事を洗いざらい教
えてくれた。
そして、兄はクリスマスの後、こっそりと妹に生まれて初めてのプレゼントを贈った。
それは、子供が持つには少しばかり上等な、絵の具セットだった。