お前に良いものを見せてあげるよ。
己を作った人は、眼鏡の奥の眼を優しそうに細めて、そう言った。
「初めてのクリスマスだものね。」
宇宙船での凄惨な事件も、関係者の事情聴取という非常に事務的なものが終わると、一応の決着
を迎えた。渦中にいたカトゥーやダースの心境が折りあったのかどうかは分からないが、キューブ
の眼から見たカトゥーは、疲れてはいるものの落ち付いていた為、今すぐに精神的な何かを背負い
こむ事はないだろうと感じた。
むろん、これらはキューブの勝手な見立てでしかない。キューブは確かに、その手の情報につい
ては人間に比べれば遥かに膨大な量を入手している。しかしそれはロボットがネットからダウンロ
ードした情報に過ぎず、本当の治療に役立つかどうかは疑わしいものだ。おそらく、キューブより
もカトゥー本人のほうが、自分の精神状態については理解しているだろう。
だからだろうか、カトゥーは自分の気が落ち込まないように、出来るだけキューブと会話する事
で気を紛らわせている節があった。
それが、本当に『治療』として良い事であるのかはキューブには分からない。だが、カトゥーが
良いと思っているのならば、それで良いのだろう。気を紛らわせる為に仕事に打ち込む人間も多い
ようだが、カトゥーは事件後の傷の療養もあって、少しゆっくりと休養する事にしたようだ。その
休養の間に、キューブに色々な事を学ばせる事にしたらしかった。
キューブは、それについてとやかく言う気はない。
そもそもキューブは、確かにロボットであるが故に情報量だけは大量に仕込まれているが、それ
の詳しい理由など知らないのだ。それについては、今から学ぶべき事であって、その教育係が創造
者であるカトゥーである事について、キューブには文句を言うべくもなかった。
「クリスマスは知っているね?」
公園を散歩しながら、カトゥーが問う。
勿論、知っている。その情報は既に知り得ていたし、ここ最近のネットで行き交う情報の中には
それに関する割合が多くなっていた。大体のところはデートスポットやプレゼントに関するものだ
ったが。
それに、今この公園に来るまでの間に、幾つものクリスマスに関する装飾も見た。概ね電飾され
た木のようなものだったが。
「じゃあ、これは知っているかい?」
そう言って、カトゥーは屈みこむと、何かを手の中に拾い上げる。そして拾った何かを、キュー
ブに見せた。
茶色い、木の実、と言ってしまうには硬く、滑稽すぎる形をした物体。
けれども勿論、その物体の情報も、キューブは既に持っていた。
松ぼっくりである。
「うん、そうだね。」
キューブの回答に、カトゥーは微笑んだ。
「じゃあ、これがクリスマスの飾りに使われる事は?」
確か、以前何処かで見たネット情報に、そういった事が書かれていた。そう答えると、カトゥー
は頷いた。
「うん、昔から、これはクリスマスの飾りに使われていてね。僕も小さい頃、沢山拾って、色んな
クリスマスの飾りを作ったよ。」
ツリーに飾るように加工したり、リースに付けてみたり、或いはキャンドルの周りを飾ったり。
「今では、もうそんな事しないんじゃないかと思ってたんだけど。」
何かを懐かしむように、カトゥーが遠くを見る。その何か、をキューブは知らないし、名付ける
術もない。カトゥーの周りをコロコロを歩いていると、カトゥーが我に返ったようで、そして微笑
んだ。
「でも、まだ自分達で作る子供もいるみたいだよ。」
その子達の為に、拾って帰ろうか。
カトゥーの言葉に、キューブは肯定を示す電子音を鳴らした。