明かりが一つか二つしか灯っていない町の宿は、どうしようもなく寂れていた。
  それでも、二人で夜を明かすには十分だった。
  その事が分かっていたから、サンダウンはマッドの手を引いてベッドしかない部屋の中に入り込
 んだ。硬いベッドは、けれどもやはり、二人で身を寄せ合うには十分な機能を果たした。



  雪明りの中にぼんやりと浮かび上がった町の中で見つけたマッドは、抱き竦めると、冷たいと言
 ってサンダウンから身を離そうとした。その様子に、一瞬ぎくりとしたが、マッドの指先がサンダ
 ウンから離れていない事に、心底安堵した。
  少しだけ身体を離したマッドを見ると、マッドは口を尖らせているが、本気で怒っていない事が
 分かる。そして、その白い頬は、寒さの為かほんのりと赤くなっている。サンダウンの肩に掛かる
 指先も、いつもよりもずっと白い。
  氷のようだ、と思ってその手をとり、そっと指先を口に含むと、やはり冷たくなっていた。
  これはいけない、と思うが、良く良く考えてみれば自分も雨に降り込められて冷たくなっている。
 抱き締めて温めてやるという事は不可能だ。
  だから、マッドの手をとり、引いて、雪明り以外にはほとんど明かりのない町の、小さな小さな
 宿に滑り込んだ。
  宿の主人でさえ酒に溺れてほとんど動かない、誰も泊まっていないような宿の中は、簡素、質素
 という言葉を通り越して、貧相だった。酒に溺れて眠った宿の主人の横を黙って通り過ぎ、見つけ
 た部屋の中も、ベッド以外は何もないという有様だった。
  明かりさえ、灯らない。
  ただ、雪明りが、埃が溜まり曇った窓ガラスから差し込んで、完全な暗闇には閉ざされていなか
 った。
  その雪明りを頼りに、サンダウンは部屋の隅に蹲っていた毛布を見つけ出す。その間、マッドは
 無言で、何か途方に暮れたように立ち尽くしていた。分厚いコートを着たマッドは、サンダウン程
 ではないが、それでも少し湿気ている。
  サンダウンは既に襤褸雑巾と化している自分のポンチョを床に抜き捨て、床に黒い水溜まりが出
 来ている事も気にせずに、それの上を通り越してマッドに近付く。
  部屋に入ったマッドは、少しだけ指先に赤味を取り戻している。それでも、まだ寒いはずだった。
  だから、濡れたコートをマッドの身体から削ぎ落し、濡れていないマッドの身体だけを先程見つ
 け出した毛布で包んだ。今はまだ寒いだろうが、しばらくすればその身体は温まるはず。
  そう思っていると、毛布に包まれたマッドは上目遣いでサンダウンを見上げてきた。

 「……あんたは?」

    その言葉の意味に首を傾げていると、マッドは焦れたような声を出す。

 「あんたはどうするのかって聞いてんだよ。その濡れた格好のまんまで一晩明かすつもりかよ。」

  凍死するか、良くても肺炎になるぜ。
  毛布に包まれたマッドの頬は、徐々に温もり始めたのか、先程よりもずっと赤味が濃くなってい
 る。鼻先まで赤いマッドは、少し子供っぽく見える。
  その鼻先に顔を近付けると、マッドが顔を顰めた。なんだよ、とむくれたような声を出すマッド
 の真意は、良く分からないが。けれども望んで良いのなら。

 「温めて貰っても良いのか………?」

  マッドの鼻先に自分の鼻先を当てると、そこは赤味に反してまだ冷たかった。もしかしたら、自
 分の鼻先も冷たくなっているのかもしれない。けれども、マッドはその行為から逃げようとはしな
 かった。

 「マッド………?」

  黙っているマッドに問い掛けると、ようやくマッドが身じろぎし、サンダウンの鼻先から逃げる
 ように眼を逸らす。

 「………好きにしたらいいじゃねぇか。」

  呟いたマッドの声は、まるで吐息のようだった。白い息が消えてしまうように震える声が、消え
 てしまう前にサンダウンはマッドの身体をベッドに引き寄せた。突然引き寄せられたマッドは、足
 元をよろめかせたが、けれどサンダウンが上手にベッドへと導いた為、マッドが傷つく事はなかっ
 た。
  ベッドに倒れ込んだマッドは、一度毛布から身体を引き出され、身に纏う乾いた着衣を全て剥ぎ
 取られる。そして現れた身体は白く、けれどもサンダウンには十分温かそうに見えた。
  その身体の上に滑り込み、そうして再び毛布で身体を閉じ込める。今度は、サンダウンの身体ご
 と。

 「あんた、やっぱり冷てぇぞ。」
 「……お前が温めてくれるんだろう。」

  ぶつぶつと文句を言う賞金稼ぎに、サンダウンはそう耳に吹き込んで、首筋に顔を埋めた。途端
 に、マッドが、う、と言葉を詰まらせる。そっと痕を付けていくと、小さく身を捩り始めた。体温
 も少し、上がっているような気がする。
  マッド、マッド、と名前を何度も繰り返すと、うるせぇ、と小さく悪態が返ってきた。それに構
 わず身体を抱き寄せ、頬ずりする。馴染んだ肌は、やはり温かくなっている。その温かさが心地良
 くて、何度も何度も撫でているうちに、どんどんマッドの体温は上がっていくようで。
  小さく、か細い吐息がマッドの口から零れた。
  その吐息に惹かれて、優しく柔らかい唇に口付けた。