Report 4.

 ――男の声。
 
 あー、あー、あー。マイクのテス、テス、テス。
 ん?これ、ちゃんと電源入ってる?んん?入ってる?
 
 ――ぽんぽんと何かを叩く音。
 
 ああ、入ってるな。
 録音の準備は?もう始まってる?さっきのマイクのテストも?あらら、まあいいか。後でトリミン
グしといてよ。
 ああ、はいはい。始めますよ、始めますー。
 えーと、それじゃあ、今から『EGG』の守護者である『SEED』の説明をしようと思いまーす。
 いやいや、ふざけてなんかないって。
 というかね、『SEED』の存在自体がふざけてるようなもんなんだから、仕方ないでしょ。いや、ふ
ざけた存在じゃないってったって、名称からしてふざけてるじゃん。『EGG』に対して『SEED』だなん
て。下ネタかってーの。 
 確かに両方とも、生命の根源を示す言葉ではあるけれど、対にした時点でもうダメじゃん。
 だいたいさあ、『EGG』はともかく、『SEED』って微妙な存在なのよね。ああ、もう、分かってるか
ら。基本、守られる側である『EGG』にとっては、生命線と言われるぐらい重要であるってことは、重
々承知してるから。
 でもね、やっぱり微妙なわけよ、『SEED』って。

 その命を懸けて『EGG』を護る存在。

 はっきり言ってしまって、『SEED』の存在価値はそれ以上でもそれ以下でもない。
『SEED』というのはね、『EGG』を守る為だけに生み出され、『EGG』が死ねば自らに一切の瑕疵がな
くとも殉ずる存在だ。逆に、『SEED』が如何に傷付いて死に至ろうが、『EGG』には傷一つつかない。
 とは言っても、『EGG』の最も身近にいる存在ではあるからね。その座に着こうと志願する者は少
なくないよ。まあ、志願したところで、簡単に『SEED』になれるかっていうと、そういうわけでもな
いって事が多い。
 まあ、まずは『SEED』に如何にしてなるか、から始めようか。

『SEED』になる条件というのは、実際のところ存在しない。誰だって『SEED』になろうと思えばなれ
る。
 ただし、選ばれるのは一人だけだ。一人の『EGG』に対して一人の『SEED』。二人目の『SEED』とい
うのは存在しない。
 存在したとすれば、それは一人目の『SEED』が死んでしまった時だ。二人の『SEED』が同時に存在
することはない。
『SEED』になる方法は二つあるんだけれども、その両方ともが、『SEED』になる条件なんてものは明
確に提示してはいない。 
 ただ、二つの方法というのは、非常に極端だ。片方は信じられないほどに『SEED』になる者を厳選
し、片やもう片方は、あまりにも呆気なく、それこそ誰でも『SEED』にしてしまう。
 二つの方法がどんなのか?
 両方とも、それなりにえぐい。あー、えぐいっていうか、生々しい?
 と言っても、ここでそれを言うのを躊躇ってたら記録にならないから、すぱっと言おう。
 まずは、信じられないくらいに厳選される側のほう。これはさ、『EGG』に心臓を貫かれるの。貫
くものは何だって良い。『EGG』の手によって生み出されたもの――要するに、バチルス・フロリア
に満たされたものであるならば、心臓を貫くものは何であっても構いやしない。『SEED』候補者の心
臓にバチルスが到達すれば良いんだから。
 まあ、そうやって、心臓がバチルスで満たされて、バチルスが適合すれば、晴れて『SEED』になれ
るってわけ。
 うん?ああ、気になるよねー、適合しなかった場合。
 そりゃあもちろん、死ぬよ。
 だって、心臓を貫くんだもん。普通は死ぬでしょ、普通は。バチルスが適合すれば、バチルスによ
る再生能力であっという間に傷は塞がるんだけどね、適合しなければその恩恵はないから、死ぬ。
 その適合する、しないの境目がさー、分からないんだよねー。
『EGG』は、フロルの血を色濃く受け継いだ者って縛りがあるのに、『SEED』にはそれがない。だか
ら、誰が『SEED』になれるのかは、それこそ心臓を貫かれないと分からない。
 まあ、ただ、どうやら『EGG』には、なんとなくだけれども、それが分かるらしい。誰が心臓を貫
かれても生き残れるのか。尤も、『EGG』にも、どうしてそう思うのか、は分からないらしいから、
結局は博打なんだよね。それで上手くいってるから、良いみたいだけど。
 けどね、やっぱりね、上手くいくばっかりじゃないんだよ。
 過去には何十人と心臓を貫いたけれども、誰一人として『SEED』になれなかった、なんて例もある
んだから。
 それの救済措置なのかどうなのか知らないけれど、もう一つの方法は、とにかく緩い。
 方法は簡単。
 セックス。
 ん?何?え、直球過ぎ?
 いやいや、何が直球なのさ。言っておくけど、生殖行為とか言い換えたって、それはそれで直球じ
ゃないのさ。それとも何、雌しべと雄しべがどうたらこうたら、とか言ったほうが良かったっての?
むしろそっちのほうが、如何わしいよ。
 えーと、それで何の話だっけ?
 そうそう、『SEED』になる、緩い方法ね。うん、セックス。あ、別に同性でも問題ないから。要す
るに、性行為さえすれば、別に男同士でも女同士でも、問題なし。まあ『EGG』は性転換できるんだ
から、そうしても良いけど。あ、でもその場合、女役は90%の確率で妊娠しちゃうか。『EGG』の性
転換は、基本、次代を残す為だからね。
 いずれにせよ、『EGG』とセックスさえすれば、誰だって『SEED』になれる。
 ああ、言い忘れてたけど、『SEED』は『EGG』と同じ惑星の生命体じゃないとダメだからね。これ
が唯一の制約かなあ。『EGG』と違って、年齢も問わないんだよね。
 あー、うん。
 二つの方法の間に、差がありすぎるんじゃないかって思うよね。普通、そう。
 実際に、手軽なのはセックスのほうだよ。後々の事も考えれば、セックスの最中に加護まで与えら
れるんだから、ある意味即戦力になるよね。
 あ、加護っていうのは『EGG』から『SEED』に追加して与える、バチルスの事ね。『SEED』は『EGG』
みたいに、バチルスを増殖させたりする事はできない。与えられたバチルスの範囲内で、バチルスを
元とした武器を作り上げ、殻を纏い、戦うんだ。
 当然の事ながら、与えられるバチルスは多ければ多いほど良い。
 バチルスというのは『EGG』の体液に含まれるからね。セックスが都合が良いってのは、お察しの
通りの意味だよ。セックスの最中には、唾液も、涙も、それこそ行為の最中の液体も、出るだろう?
 ………なんだい、その眼は?
 いや、事実なんだから。
 まあ、全ての『EGG』がセックスで加護を与えているわけじゃないよ。心臓を貫くほうは、まあ、
キスによる唾液の交換か、涙を与えてるかな。
 ただ、実を言えば体液によって、バチルスの存在する量は異なってね。汗や唾液や涙は、少ないほ
うさ。
 多いのは、それこそ精液だの愛液だのだよ。
 うるさいなあ。事実なんだから、騒がないでよ。
 まあ、一番バチルスが多いのは、血液なんだけどね。両手首、両足首を流れる動脈、頸動脈なんか
は特に多い。
 ああ、そうそう。妙なんだけどね、一度与えられた体液を、もう一度貰っても、バチルスは増えな
いらしいよ。なんでだろうね?血液は、動脈によって異なるらしいけど。
 うん?一番バチルスが多い血液は何なのかって?
 心臓から溢れたものに決まってるじゃない。まあ、これは『EGG』側の負担も大きいから、今まで
誰も与えた事がないらしいけど。
 ここまで聞いて、だったら、セックスで『SEED』を選んじゃえよって思うよね?
 でもね、そうやって『SEED』を選んだ『EGG』は、『SEED』の言いなりになる事が多い。または、
感情に翻弄されて自滅するパターンがね。
 そりゃあそうさ。セックスっていうのは、ある種の情の交換だからね。恋人どうしが『EGG』と『SEED』
になれば、自分達の感情を優先させてしまう。または『SEED』側が『EGG』を襲って、それで『SEED』
になった、という事だってある。その場合『EGG』は『SEED』に虐げられる。または『EGG』側が『SEED』
になる事を強要する場合も。
 いずれにせよ、これらの場合は『EGG』と『SEED』の関係は、あまり褒められたものにはならない。
『EGG』という巨大な力を、『SEED』が勝手に行使してしまう。または『EGG』が『SEED』を奴隷のよ
うに扱ってしまう可能性があるからね。
 ただし、『SEED』は決して『EGG』を殺すことはできない。
 力の差の話じゃない。
 最初に話した通り、『EGG』が死ねば『SEED』に与えられたバチルスは必然的に活動を停止し、バチ
ルスによって生かされていた『SEED』もまた、死を迎える。
 それでも、『SEED』になりたがる生命体は多い。
 その力に魅せられているのか、『EGG』を愛しているのか、はたまた自分の星を守る為なのか、それ
は様々だろうけれど。
 それでも、外帝王に立ち向かう兵器として、一人の『EGG』と、その『EGG』によって一人の『SEED』
が選ばれるのは、紛れもない事実だ。
 尤も。
 尤も、『SEED』などいらない、と言って意地を張っていた『EGG』もいるにはいるんだけど。