Report 3.

 ――いくつかの資料からの転載。
 
『白金卵』とは。
 通称『EGG』と呼ばれる、対外帝王兵器である。
 その形状は、成人男性の拳大ほどの玉子型であり、外殻は銀色である事から、上記の名称が付けら
れたと思われる。
 兵器と言っても、その大半を占めるのはバチルス・フロリアであり、機械的な部分はそれを制御す
る為に取り付けられたごく僅かな部分でしかない。従って『EGG』は生物兵器という言葉通りの存在
である。
 しかし『EGG』それ自体は外帝王に対して強い毒性を持つが、単体においては効果は局所的であり、
また、自ら外帝王に働きかけるものではない。『EGG』はバチルス・フロリアの生命活動において不
可欠な宇宙エネルギーを取り込み、その際に外帝王に対してのみ毒性を持つエネルギー線を放つので
ある。従って、『EGG』単体ではバチルス・フロリアの生命活動以上の効果は見込めない。
 ただし、『EGG』を別生命体――即ち、外帝王と敵対関係にある知的生命体に組み込む事が出来れ
ば、『EGG』は兵器としての性質を強く引き出す。
『EGG』を取り込んだ、外帝王に敵対する知的生命体――以降、『EGG』適合者と呼ぶ――は、バチル
ス・フロリアと共生関係となり、フロル人同様、『EGG』を構成するバチルス・フロリアを自在に操
る事が出来るようになる。

『EGG』は、外帝王の侵食を防ぐためにフロル人達が作り上げ、そしてあらゆる銀河の惑星に持ち込
んだものである。
 外帝王は宇宙にあるありとあらゆるものを食い潰す。何も知らぬ別惑星の生命体は、成す術なく外
帝王に喰らい尽くされてしまうだろう。
 それを防ぐために、あらゆる惑星の生命体が外帝王に対抗する手段として、フロル人は自身の力の
源であるバチルス・フロリアを、自分達の技術の結晶体である玉子に閉じ込め、惑星に産み付けた。
そして、『EGG』を産み付け終えると、フロル人は自らのバチルス・フロリアによって、惑星生命体に
外帝王への耐性を付ける為、別惑星の生命体と交わり、淘汰されていった。
 このようにしてフロル人が淘汰されていった後、しかし稀にフロル人とよく似た特性を持つ存在が
現れた。
 このような存在が、『EGG』適合者であり、彼らは、おそらくはフロル人の直系の子孫であろうと思
われる。

『EGG』適合者。
 文字通り、『EGG』を体内に取り込む事が可能な生命体である。その多くは、知的生命体である。こ
れは、外帝王に対抗する為にある程度の知性が必要であるからだと思われる。
『EGG』適合者の絶対条件として挙げられるのは、前述したフロル人の特性がある事と、『EGG』が産
み付けられた惑星由来の生物である事である。とある惑星の『EGG』に対して、別惑星の生命体が適合
する事は決してない。
 なお、フロル人の特性として見た目で判断できるのは体毛であり、その色は銀色である。また、前
述したように、フロル人の直系子孫ではないかという推論は、『EGG』適合者同士の間には血の繋がり
がある事が多いためである。つまり、『EGG』の宿主である生命体が死亡した場合、その親類が新たに
『EGG』の宿主となることが多い。
 なお、『EGG』は惑星一つに対し、一つしか存在しない。従って、『EGG』適合者が数名いた場合、
その中から誰か一人が『EGG』の宿主となる。
 適合者が数名いた場合、『EGG』は宿主の選択を行っていると思われる。何故ならば、『EGG』の宿
主となった過去の例を見るに、特定の年齢、性別に宿主が偏っているからである。
 まず、圧倒的に子供が宿主に選ばれやすい。
 次に、若い女性――生殖適齢期までの女性が選ばれる。
 成人男性が選ばれた例はない。
 これは恐らく『EGG』を次代に引き継ぐための生殖行為が大きく関係している。まず、生殖可能年
齢から大きく外れる年齢は除外されるのだ。
 また『EGG』の宿主となった者は、次代を産む為の保険として、フロル人と同じく発情期になると
両性状態となる。周りに同性体しかいなくても、生殖行為を可能とする為である。こうした状態に自
分がなると受け入れられるのは、子供が最も適しており、次に女性である。男性はその社会的立場か
らも、受け入れにくい。
 故に、『EGG』を宿す者は総じて幼い子供、または若い女性であり、彼らが成長して生殖可能時期
になった場合は、両方の性を行き来する事に何ら戸惑いを覚えない。
 なお、宿主となった場合も、ある一定時期までは宿主も成長する。ただし、ある時期――生殖適齢
期になると、身体の老化は止まる。これもまた、次代を産む為の手段であろう。
 また、適合者は総じてその惑星の美的感覚の上位に位置する身体をしている。これもまた、生殖行
為に及びやすくするためであろう。

『EGG』の宿主となった場合。
『EGG』の宿主は、総じて『EGG』と呼ばれる。彼らはその心臓に『EGG』を宿し、その死を迎える際
まで、外帝王の対抗手段として生きる。
 途中で『EGG』を放棄する場合、その際、宿主には死が訪れる。

 『EGG』となった場合、以下の特徴が現れる。
@ある一定時期(生殖適齢期)になると成長が止まる。
 上述の通り。
A両性状態となる。
 上述の通り。
B病気をしにくい、怪我をしにくい。
 『EGG』に求められる最大のものは、何よりも無事に存在し、惑星を守護することである。『EGG』
 そのものに力はなくとも、そこから生み出されるエネルギーは計り知れない。故に、『EGG』の自
 己防衛手段として、圧倒的治癒能力がある。
C武装。
 如何に『EGG』本人に戦う力がなくとも、対外帝王兵器としての能力は否応なしに存在する。
 ●治癒:外帝王の侵食を封じ込める、浄化する。
 ●防御:宇宙エネルギー変換による、惑星を覆うほどの防御壁の作成。
 ●武器:通称『玉子の殻』と呼ばれる装身具。
     自己防衛の一種であるが、『EGG』自体と言うよりも、他の存在から得たカルシウム等を
     バチルスにより装身具として身体に纏いつかせる。
     このカルシウムは死者由来である事から、この事実を嫌悪する者からは『骨と灰』と言
     われることもある。
 ●羽根:『EGG』は肩から腰に掛けて、翼を持つ。この翼は治癒機構を司り、外帝王からのあらゆ
     る侵食を防ぐ。

『EGG』当人は、何よりも最優先されて、生き残る事が求められるため、時には他者を踏み台にして
でも、窮地から脱する事がある。また、『EGG』について知識がある惑星である場合、周囲が率先し
てそれを行う事もある。
 過保護とさえ見られがちな行為に対して、嫌悪感を示す『EGG』もいるが、『EGG』は基本保護され
る側である為、戦い慣れしている『EGG』は多くはない。従って、ほとんどの『EGG』が周囲の意見に
流されるがままに、守られている。
 そのため、結果として戦えない『EGG』が継続する、という悪循環にもなっている。
 このような戦う事ができない『EGG』は、往々にしてその惑星の利権争いに巻き込まれる事が多く、
問題になっている。

『EGG』の護衛者について。
 何度も述べるように、対外帝王兵器である『EGG』の生命は、全てにおいて最優先される。その為、
大抵の惑星には、『EGG』を守る為の『騎士団』が存在する。この騎士団はその惑星生命体から構成
される集団であり、基本的には何らかの国家機関により作られたものである。
 こうした騎士団によって、『EGG』が利害関係に巻き込まれる事もしばしばである。
 しかし、『EGG』を純粋に守る存在として、『EGG』から殻を分け与えられたものとして『SEED』が
存在する。『SEED』は『EGG』自身により任命され、その命が果てるのは『EGG』が死した時であり、
故に、『EGG』を優先して守る存在である。


『SEED』に関しては、次のレポートに記載する。