雷帝



 地球。
 天の川銀河太陽系第三惑星のことを、我々はそう呼んでいる。
 地表の80%近くを海で覆われ、動植物の多彩な惑星であり、極は寒冷、赤道は熱帯と気候も地域に
よって様々だ。
 現状の知的生命体は、地球人一種に絞られており、その他の知的生命体の発現は確認されていない。
 地球人における肌の色は三種。濃い薄いはあれど、黒色、白色、黄色の三種に分けられる。ただし、
この三種それぞれに対して体系や紙質の差はあれど、それ以外の性質に大きな違いは見られない。
 地球において特筆すべき点は、つい先頃、宇宙倫理機構に同盟入りを果たした惑星という事だろう
か。
 これまで地球は、宇宙倫理機構の存在を知らなかった。そして、フロル人や外帝王という存在につ
いてさえ、よく理解していなかった。
 地球が、これまで外帝王の侵略を受けてこなかったのか、といえばそれは違う。約四十年前から、
地球は外帝王に操られているとみられる異星人からの侵略行為を受けていた。普通、外帝王の侵略が
あったなら、宇宙倫理機構からなんらかのアプローチがあるはずだが、地球に対しては何もなかった。
 宇宙倫理機構が、惑星の独立性を保つために、不必要に干渉しないことは知っているが、しかし地
球はこの時、EGGがいなかった。いや、それ以前に地球人はこの時、誰一人としてEGGというも
の自体を知らなかった。
 宇宙倫理機構はEGGを介して惑星に接触する。しかしEGGが存在しない場合は、そしてその惑
星が外帝王に侵略されている場合は、特例として軍事介入することができる。
 しかし、地球に対してはその特例措置は行われず、四十年間、地球は放置され続けていた。
 そこには様々な思惑があったのだろうが、一番の理由は地球を襲っているのが外帝王と判断しきれ
なかったというところだろう、
 地球を襲っているのは、とある異星人達の連合軍だった。おそらく、外帝王に屈した人々だったの
だろうが、彼らが外帝王と繋がっているという証拠は何処にもなかった。だから、宇宙倫理機構は地
球に手を出すのを先延ばしにしていたのだろう。
 事実、この侵略者に対して、地球は犠牲を払いつつもどうにか退けることに成功していた。
 おそらく、この時点ではまだ、外帝王そのものは地球にはやってきていなかったのだと思う。また、
侵略してきた異星人達も、まだ本気で地球を破壊しようとは考えていなかったのだろう。
 彼らが地球を破壊しなかった理由。
 それは、地球に埋もれているEGGにあったのだと思う。
 地球では、つい先頃までEGG自体が知られていなかった。いや、ごく一部の地球人のみが知って
いた。
 EGGの存在を知っていた地球人、彼らがどのような経緯でEGGの事を知ったのかは不明だ。地
球にはEGGの伝説もフロル人の痕跡も残っていなかった。だが、おそらく彼らは、外帝王に組する
異星人から、その存在を知らされていたのだと思う。
 そう、地球人の中には、外帝王に地球を売り払おうとする人々が、各国の政府中枢に存在していた
のだ。
 彼らは、異星人に対抗する地球連合軍の奮闘を横目に、密かに異星人と通じ合い、こちらの情報を
異星人達に流していたのだ。その傍らで、未だ見つかっていないEGGを血眼で探し――そして見つ
け出していた。
 銀に輝く卵。
 地球のそれは、実はあと一歩のところで外帝王の手に堕ちるところだった。
 外帝王にとって、EGGは限りない毒。だが、出に入れることができれば、その毒を克服する術を
見出せるかもしれない。もし、そうなれば宇宙は外帝王に完全に食い潰される事となっていただろう。
 けれども、それがあと一歩のところで阻止できたのは、やはりというべきか、異星人と通じ合って
いた人々の愚かさによるものだった。
 彼らは、EGGを手に入れたものの、それを丸ごと外帝王に手渡すのが惜しくなった。だから、外
帝王と交渉できる手段としてEGGを手元に置き、EGGの宿主となる存在を探し始めた。
 その手段として、子供達の誘拐、人身売買を行ってきた。秘密裏に行われてきたそれは、しかし、
EGGの宿主を選ぶために、誰でも誘拐、売買すれば良いというわけではない。EGGの宿主は、銀
髪である必要がある。銀髪の子供すべてが、親に売り飛ばされるわけもなければ、紛争地帯で行く当
てがなくなっているわけでもない。ごくごく普通に暮らしている子供まで、彼らは誘拐した。故に、
その所業は、足が付いた。
 その足に、一人の男が気が付いた。
 地球連合軍に属していた、若い男だ。彼は刑事としての肩書も持っていたから、その行方不明事件
を追いかけ、そしてEGGに行きついた。
 彼は、家族全員を異星人の侵略攻撃で亡くしていて、親族も彼の知る限りでは一人も残っていない。
だからだろうか、どこかひどく、自分の命を蔑ろにしているようなところがあった。だから刑事にな
ったのだろうし、地球連合軍にも属していたのだろうし、そしてその本分として、EGGを無理やり
埋め込まれようとしている子供達を庇って、EGGの前に飛び出した。
 彼の髪が、銀髪だったのは、何の巡り合わせだったのだろう。
 彼の家系の最後の一人である彼は、その場でEGGに選ばれた。
 彼は、自分がEGGになったことは難なく受け入れた。歳を取ることなく、ただただ外帝王から惑
星を守るために存在することについて、特に異論はないようだった。けれど、EGGという己の存在
を、特別視し、強固に守られる事についてはひどく疎んじた。特に、SEEDの存在を作る事につい
ては頑なに嫌がって、未だに彼は一人で誰にも届かない場所に向かっている。
 EGGが本気を出せば、普通の人間は追いかけることなどできはしない。
 他の惑星のEGGにしてみれば、それはとにかく異常な事であるらしい。皆に守られていないEG
Gなど、他にはいない、と。けれども彼は、誰かに守られることを良しとしない。それどころか、E
GGの存在自体を公にしようとしない。
 守ることが、彼の本分だ。
 けれども、正直、気が気ではない。彼の一族は、皆、早逝している。皆が皆、守ることを本分と考
えていたからだ。もしも、彼もそうなってしまえば。
 せめて、彼と並び立つ存在――SEEDを選んでくれたなら。彼さえ良いのなら、私で良いのなら、
心臓を貫いてくれれば良いのに。



 ―――そんなこと、俺は死んだって、ごめんだぜ。



 EGG:エリアス・アーサー
 年齢:二十七歳。
 地球を異星人、及び外帝王の侵略から守る地球連合軍の一人であり、刑事としての肩書も持ってい
る。親族悉くが早逝し、親兄弟は異星人に殺されており、彼の家系の実質、最後の一人である。外帝
王が彼の一族がフロルの系譜に当たると分かって、彼の家族を殺したのかどうかは不明。
 こうした経歴のため、外帝王への憎しみは人一倍強いが、守ることが己の本分であることは重々承
知しており、憎しみが誰かの命よりも前に出ることはない。
 EGGに選ばれてからも、その本分は変わることがなく、EGGだからといって特別扱いされる事
を心底嫌っている。特に、自分を守るためだけに生きるSEEDの存在は絶対に作らないと公言して
いる。
 こうした彼の言動や、他の地球人の彼への態度――遠慮も容赦もない態度――は、他の惑星の者か
らしてみれば異常であり、特にEGGを蔑ろにしているようなエリアスの同僚の言動には眉を顰める
者もいる。
 なお、守る者としてのエリアスの技量は地球連合軍でも一、二を争う。また、EGGに選ばれた後
は圧倒的な電撃を操ることもできる。この電撃については、エリアスの感情に由来するところもある
ため、エリアスの感情が昂っているいる場合は、惑星全体を雷雲で覆いつくすこともあり、また、人
を一瞬で蒸発させるほどの熱量を誇る。
 一方で、地球にEGGについて詳しい者がいない、成人後にEGGになった等のことから、EGG
の能力を理解しきっていない、或いはどういうわけか使えない能力がある。
 なお、守る者、としての彼の本分は地球以外にも適用され、他の惑星の者でさえ助けようと赴く。
彼に触れた者は何かしら感化されることがあるが、しかし彼を守るには至らない。




 SEED:不在  エリアスのSEEDになろうとする者は、大勢いるのだが、彼がすべて断っている。