竜騎士



 シェーダー。
 ランザエダ銀河ムスル系の第三惑星は、つい先頃外帝王により破壊された。結果、EGGは行方不
明、残されたSEEDは宇宙倫理機構に保護されている。SEEDが生きているということは、EG
Gも生きていると思われるが、EGGが外帝王側に寝返ったとの噂もあり、更なる情報収集が求めら
れている。
 これは、シェーダーが外帝王に破壊されるに至った経緯を、簡便にまとめたものである。
 まず最初に語るべきは、シェーダーはこれまでに何度も外帝王を撃退し、また他の惑星へもEGG
が遠征し、外帝王の侵略を退けてきた、いわば外帝王に対してのエキスパートであったという事だ。
 そのシェーダーが、何故破壊されてしまったか。
 原因の一つとして、今代のEGGが選んだSEEDが脆弱であったという点が挙げられる。
 しかし、今代のSEEDについて語る前に、シェーダーの特異な生態を語らなくてはならない。こ
れは、先に述べた、シェーダーが外帝王撃退のエキスパートであったという事実に関係してくる。
 シェーダーは深い森とその森に囲まれた多数の火山が、陸地の大半を占めている。シェーダーの山
のほとんどは火山だ。今はほとんどが活動していないが、過去は激しい噴火を繰り返していた。
 この火山活動によって、シェーダーは深い渓谷とその溪谷を覆いつくす森、そして山々が出来上が
った。
 人々はこの溪谷にしがみつくようにして生きてきた。
 シェーダーにおいて、EGGがいつ発見されたのかは不確かだ。ただ、見出したのはシェーダー人
ではない。
 シェーダーの深い自然の奥底からEGGを見出したのは、シェーダー人以外の知的生命体だ。
 シェーダーには、人間以外にもう一つ、知的生命体が――もしかしたら人間など足元にも及ばない
知的生命体が存在している。
 シェーダーのありとあらゆる神話に現れ、もしかしたらその頻度は、EGGを示す銀髪の者よりも
多いかもしれない。
 EGGを探り出し、それを人間に与えた存在として、神話には竜の姿が描かれる。そして、シェー
ダーの深い渓谷には、竜と呼ばれる知的生命体が存在するのだ。
 実際に、EGGを人間に与えたのが竜であるのかどうかは分からない。しかし、シェーダーの人々
はそれを信じ、頑強な鱗と翼を持つ彼らを、畏れ、敬った。
 その敬いの果てに――或いは竜との共存を夢見たか、竜を従えようという野望を持ったか――シェ
ーダーの中から選ばれたEGGは、竜をSEEDとすることとした。伝説では、一人の乙女が最も勇
壮な竜にその身を捧げ、竜はSEEDとなったと言われている。
 それから、代々、シェーダーのSEEDは竜が務めることとなった。
 EGGは竜にその身全てを捧げ、竜はEGGを守る。竜の頑強な身体は、さしもの外帝王も手つけ
にくかった。竜の炎の一つで、幾多の外帝王が消滅し、無尽を誇る外帝王を追い詰めていった。シェ
ーダーが外帝王に対し、圧倒的な破壊力を持っているのは、SEEDたる竜のおかげだった。
 この、竜とEGGとの契約が、常に続いていれば、シェーダーは破壊されぬまま、外帝王に対して
は無敵のままでいられただろう。しかし、変動せぬことなどないと言わんばかりに、今代、全てが変
わりつくした。
 今代のEGG、エークォ・ナナフィール。二十二歳のこの娘は、竜と契約することを拒み、SEE
Dには、己の恋人を据えた。
 エークォの恋人――ゼフォルドは、確かに一般の人間よりも武器の扱いには長けていたが、その程
度。軍人ではなかったし、戦いそのものを知らない。そもそも、シェーダーはこれまで竜に頼り切っ
ていたため、人間の中に戦い方を知っている者など、一人もいなかった。
 エークォの愚行に、しかし竜は何も言わなかった。竜にしてみれば、EGGと関係なく、シェーダ
ーを外帝王から守るつもりだったようだ。しかし、竜は頑強で外帝王も手をこまねく存在だが、SE
EDでなければその防御は鉄壁ではない。
 故に、外帝王はこの好機を逃さずに、シェーダーに攻め入った。
 戦えぬEGGとSEED、そして人間達と、星を守るために飛び立った竜。
 その中で、いくつかの事件が起こった。
 一匹の子竜が、外帝王に侵された。外帝王を浄化できるのはEGGだけだが、シェーダーのEGG
であるエークォは、竜を恐れ嫌い、疎んじているが故に子竜を助けにはこない。子竜の兄――名を、
ファルザーンという――は、弟を救うため、シェーダーを訪れていた地球のEGGを攫った。
 地球のEGGは子竜を救ったが、一方でシェーダーの人々は竜がとうとう自分達に牙を剥いたと騒
ぎ、竜への信仰は急速に薄れていった。
 己を恐れる人間達に、それでも竜ファルザーンは、弟の快癒を見取った後、星を守るために外帝王
の侵攻に立ち向かった。
 地球のEGGはファルザーンについていこうとしたが、子竜を託されたためできなかった。
 子竜を連れて、宇宙船に戻ろうとした地球のEGGは、もう一つに事件に出くわす。エークォのS
EEDであるゼフォルドが外帝王に浸食されていく瞬間だ。脆弱なSEEDはあっさりと外帝王に屈
した。この時エークォは傍にいたが、泣き叫ぶだけで治癒も何もしなかった。
 結局、地球のEGGがゼフォルドを治癒することで、ゼフォルドは一命を取り留めたが、エークォ
は錯乱状態に陥っており、そのまま森の中に駆け込んだ。
 その時、彼らの上空では竜と外帝王を激しい空中戦が行われていたのだが、エークォはそれに見向 きもしなかった。
 この時のエークォは、確かに精神的におかしくなっていたのだろうが、同時にひどく狡猾でもあっ
た。彼女は、己がEGGとして何もできないという事実を、自分はゼフォルドを救えなかった、しか
し地球のEGGは救ったという事で、否応なく突きつけられた。この事実がシェーダーの人々に知れ
渡れば、竜ではなく恋人をSEEDに選んだということで立場が悪くなっている自分が、より一層白
い目で見られると思ったのだろう。
 エークォは集落に戻ると、地球のEGGが自分のSEEDを洗脳して奪い去ったと叫んだ。また、
頭上で戦う竜を指さし、竜があのように猛っているのも地球のEGGが竜に何かをした為だ、と嘯い
た。
 普段ならば、エークォの言う事など人々は信じなかっただろうが、空を覆いつくす竜と、炎に恐れ
おののく人々は、あっさりとそれを信じた。そして、子竜とゼフォルド二人を異星の地で快癒した事
で、体力が枯渇しかけた地球のEGGを襲った。
 この襲撃は、ずんでのところで地球のEGGの仲間によって阻まれたが、これは同時に、地球から
シェーダーへの救援が断たれた事も意味する。落ち度もない異星のEGGを傷つけることは、許され
る事ではない。
 いや、地球が救援を断たずとも、EGGの力が枯渇した時点で、援助は望めない。
 地球のEGGは子竜とゼフォルドを連れて宇宙船に戻り、シェーダーを後にした。
 それから二日後、シェーダーは破壊された。





 EGG:エークォ・ナナフィール
 年齢:二十二歳
 代々竜をSEEDとするシェーダーのEGGだが、エークォ本人は竜を恐れ、疎んじていた。竜を
傍に置かねばならぬ事に反発し、周囲の反対を振り切り、恋人であるゼフォルドをSEEDとした事
で、結果的にシェーダー壊滅の原因を作る。
 シェーダーのEGGは、基本的にSEEDである竜に頼り切りであり、EGGの使い方を知らぬ者
がほとんどであり、エークォも漏れなくそのうちの一人である。EGGの使い方を知らないという事
は、外帝王に侵された者の癒し方を知らないという事であるため、シェーダーが外帝王に侵略されて
もその力を使うことができなかった。
 目の前でゼフォルドが外帝王に侵されても、見ていることしかできず、その場から逃げ出した。
 一方で非常に自己愛、嫉妬心が強く、ゼフォルドに近づく者には誰彼問わず嫉妬を振りまく。また、
己が貶められることを避けるために、他者を陥れる言動をとることもある。
 シェーダーが破壊された後、行方知れずとなっているが、外帝王の手に落ち、外帝王側に寝返った
との噂もある。




 SEED:ゼフォルド・カーター
 年齢:二十二歳
 エークォの幼馴染であり、恋人。竜を恐れるエークォの、しきたりに嫌われる心を理解し、しきた
りを無視してSEEDとなった。
 しかし、他者よりも少し武器の扱いに長けている程度であり、竜と比べると圧倒的に脆弱である事
は否めず、結局外帝王に侵されてしまう。
 外帝王に侵された際、エークォが治癒を仕方を知らなかったため、そのまま浸食されてしまうはず
だったが、地球のEGGが通りがかったことにより彼の手によって治癒された。
 その後、地球のEGGと共にシェーダーを脱出。
 ゼフォルドが生きているということは、EGGであるエークォも生きているはずであり、エークォ
の行方を案じながらも、自分を救った地球のEGGに恩義を感じ、彼の元に仕えている。