z-Ori-gncm.jpg(7043 byte) 蒼の一閃



 フルド。
 第五百二十二番オテティウス銀河のシュトルルーヌ系第八惑星である。
 南北の極は寒冷地帯であり、赤道は熱帯という、多様な気候を持つ。八つの大陸には多数の人々が
棲み、人種も様々だ。
 それぞれの地域、人種について述べていると、多大な時間を要するので、ここでは割愛させてもら
おう。知りたい者は神殿が擁する図書館で、それらに関する書物を探すと良い。この図書館では、フ
ルドにおけるEGGの伝承についても、調べることができるだろう。
 フルドにおいても、他の多くの惑星と同様に、EGGが古来より存在している。いつ頃EGGが訪
れたのかは定かではないが、伝承を見る限り、かなりの昔よりEGGは存在したのであろうと考えて
いる。
 フルドにおいても、EGGの存在は他の惑星と、ほぼ同じだ。銀の髪を持ち、齢を取らぬ存在。
 銀の髪を持つ無数の人々から、EGGは選ばれる。フルドではEGGの候補たる人々は、明確に他
の人々から分けておかれるのだが、それは他の幾つかの惑星でも行われていることだから、さほど珍
しくはないだろう。  
 EGGの候補達は、若い時分から神殿で生活し、そこでEGGとしての生き方を学び取るのだ。た
だし、神殿に入るのは強制ではない。EGGの候補となりたくない者達は、神殿には入らなくても良
いのだ。 
 EGGの候補は多い、とまではいかないが、決して少なくない。仮にEGGになりたくないという
銀髪の者がいたとしても、他のEGG候補がEGGになる。それだけの事だからな。
 そして一人のEGGが選ばれた後は、残りのEGG候補達は余程の事――EGGになったばかりの
EGGが、すぐに死を迎えるということがない限りは――神殿から解放される。または、EGGを守
る騎士団になる。
 騎士団は別にEGG候補でなくとも入団できる組織だ。如何なる人種であろうとも、EGGを守る
という意志さえあるのならば、試験にさえ合格すれば誰であろうとも騎士になれる。
 おそらく、フルドは他の惑星よりもEGGを守る騎士団の規模は大きいだろう。
 ただ、巨大な組織には、往々にして問題が生じる。フルドの騎士団の場合はEGG候補であった者
達と、そうでない者達の対立が激しいのだ。
 EGG候補であった者達は、己らはEGGの傍に近い者であるという自負がある。
 しかしEGG候補ではない者達にしてみれば、EGGでなければ所詮は只人だ。EGG候補達の自
負などまるで意味をなさない。ただただ実力のみがものをいうのだ。
 実際、騎士団の長たるものは、EGGとは無縁の者だ。EGG候補でなくとも、実力さえあれば、
どこまでも高みには行ける。しかし、それがEGG候補達には気に食わない。
 現状、EGG候補達の特別意識が、じわじわと騎士団を蝕んでいる、と言っても過言ではないのだ。
 そして、今代のEGG選びにおいて、その問題が一気に噴出した。
 先程も述べたが、神殿に集められたEGG候補は、あくまでもEGGになる可能性がある人物全て
を網羅しているわけではない。EGG候補になりたくないために神殿には入らなかった者達もいる。
神殿に入らなかった者達は、思い思いに只人として生活し、子孫を残す。こうした子孫達は神殿にや
ってくることもあれば、自らをEGG候補であるという自覚がないままに暮らすことだってある。
 後者を、『取りこぼし』と呼ぶのだが、普通はその髪の色ですぐに分かる。だが、稀に一見すると
銀とは判じられない髪の色の者がいて、その場合は親が何も言わなければ、本人も分からぬままに齢
を重ねていく。
 今代のEGGは、その『取りこぼし』だ。 
 EGGの選定は、まるで分からない。神殿にはその他に大勢の候補がいたというのに、EGGは彼
らを無視し、『取りこぼし』を選んだ。
 まあ、それ自体は別に問題はない。髪の色は深い灰に近い銀であったが、確かに言われてみれば銀
髪だ。規格外であったのは、そのものが既に成人過ぎた男であったことだ。EGGは、普通は年若い
女か、子供に宿る。
 むろん、他のEGG候補達は、皆が成人前だ。
 が、EGGは三十路手前の男を選んだ。
 事態は紛糾した。だが、それも大きな問題ではない。
 一番の問題は、先程話した騎士団内にある、EGG候補とそうでない者達の確執にある。
 今代のEGGは騎士だったのだ。神殿に入った正式なEGG候補ではなく、『取りこぼし』で、三
十路前の騎士の男がEGGに選ばれた。
 事態は紛糾どころではない。混乱だ。
 ほとんどのEGG候補が、これは何かの間違いだ、と騒いだ。選ばれた騎士が、何かやらかしてE
GGを己の心臓に取り込んだ、とまで叫ぶ者もいた。悪いことに、EGG候補達が悉くどんぐりであ
ったなら良かっただろうが、一人、紛れもなく選ばれるならこの者だ、という若者がいた。その若者
を担ぎ出して反乱を起こそうとする連中もいた。
 しかし、EGGが選んだ事実は覆せない。
 選ばれた騎士の男でさえ、状況を受け入れられず、EGGの判断を拒否しようとしたが、できるわ
けがない。
 何よりも、男にはSEEDがすぐに現れた。
 ふむ、これがフルドと他の惑星との決定的な違いだ。フルドには、SEEDとなるべき人種が存在
するのだ。
 他の惑星ならば、SEEDはEGGの判定に合えば、いかなる人種であろうともSEEDになる。
 しかしフルドではそうではない。
 SEEDは、ある特定の人種でなければ、なることができない。
 その人種を『フォロド』という。フルドの元となった言葉であるかもしれないし、もしかしたらフ
ロルにも関係している言葉であるかもしれない。この特殊な人種は、特に変わった見た目をしている
わけではないが、どこか達観しており、言葉も通じぬわけではないが、どこか上滑りしているような
印象がある。積極的に物事を進めぬこの人種は、唯一EGGについてのみ、感情を示す。
 彼らは、数多くのEGG候補から、自らの主を定めるのだ。どのようにして選ぶのかは分からない。
それこそ、EGGの判定と同じだ。
 一人のEGG候補に対して一人のフォロド。EGGとSEEDの前段階だ。フォロドの従わぬ者は、
例え銀髪であってもEGG候補ではない。ただし、例えフォロドを従えても、EGGになれるわけで
もない。
 今代のEGGは、当然のことながらフォロドを従えていなかった。自らをEGG候補とも認識して
いなかったからな。フォロドと関わる機会もなかった。これが従えぬままであったなら、他のEGG
候補達の言うように、何かの間違いだと思えただろう。
 だが、男がフォロド達と対面した瞬間に、一人のフォロドが男の前に跪いたのだから、もはや疑う
余地もなかった。
 今代のEGGは決定した。
 騎士団の中に、内紛を生み出して。




 EGG:アイク・ライヒース
 年齢:29歳
 フルドの騎士団の副団長。
 深い灰色に近い色をした銀髪であったため、本人も含め誰もEGGの候補であったとは全く思って
いなかった。
 若くして副団長になったが、伝令、斥候、それらを取り纏める隊長とを今まで務めてきており、完
全な叩き上げ。副団長になってからは、EGG候補だった者達とそうでない者達との間を取り持った
り、人員配置などの采配を振るう。
 EGG候補の取り扱いに手を焼いていたこともあり、彼らに対する心情は良いものではない。その
こともあってか、EGGになって非常に困惑、迷惑している。
 本来ならEGGなれる年齢ではないため、EGGとしては規格外。守られるよりも前線で戦う事が
性に合っているという点でもEGGとしてはかなり外れている。
 同じく成人になってからEGGになった、地球のEGGとは話が合う。




 SEED:カイ
 年齢:25歳(外見年齢)
 フォロドの男性。
 赤毛の癖のある髪が特徴。一般的なフォロドと同様に、達観した態度と、意味は通じるがどこか浮
世離れした言葉を吐く。
 EGGであるアイクを主とし、アイクの傍に侍ることを絶対としている。
 アイク以外の者には従わず、アイクのみと心を通わせる。
 ただし、時にはアイクの言葉にもはっきりと拒否を示すことがあるため、アイクからは何らかの確
実な意思を持っていると思われている。