z-Ori-gnde.jpg(6101 byte) 海王



 ヌンキ。
 第十一アノーヴル銀河ウェルショ系第五惑星のことをそう呼びます。
 この惑星の特筆すべき点は、なんといってもその表面を覆う海でしょう。ヌンキの地表の90%以上
は、海に覆われているのです。
 残りの地表も一割が氷河や人が住めぬような岩礁であり、人が住まうことができる陸地は、ごく僅
かです。大昔には埋め立てによって陸地を増やそうという計画もあったようですが、埋め立てるには
埋め立てに必要な土が必要であり、結局その土を調達できずに頓挫したといいます。
 現在のヌンキでは埋め立てによる土地の拡大は行われておらず、海に浮舟と呼ばれる、文字通り、
海に浮かぶ巨大な施設を建設し、土地の確保を行っています。
 ただし、周囲が海である以上、海が荒れることによる被害というものが必ず付き物で、毎年、高潮
や津波といった災害による被害は後を絶ちません。こうした被害が最も大きいのは浮舟であり、次に
小さな島々です。
 こうした災害を人々は当然のことながら忌避し、被害の大きい浮舟や島から脱出しようと考えてい
ます。ですが、すべての人が浮舟や島から出られるわけもありません。
 モーラ大陸。これは、ヌンキの唯一の大陸です。この大陸の内陸へ向かえば、海からの災害という
ものを被ることがなくなります。
 しかし、モーラ大陸は一つしかなく、ヌンキの全人口がそこに収まるはずもありません。
 結果、地位の高い者、富を持つ者が大陸内部に住み、持たざる者達は海へ海へと追いやられていく
ことになるのです。
 ヌンキ人は、皆が海に適応した形態を持っています。手足には鰭が残り、身体のそこかしこに鱗が
ある。
 しかしそれでも、海より陸上での生活のほうが好ましい形態であることに変わりはありません。ヌ
ンキ人が海を自在に泳いでいたのは、遥か過去のことなのですから。
 しかし、それでも人口の大半が、海に限りなく近い場所で生活しており、年に幾度となく発生する
災害で命を落としています。これらへの対応策は、各国家で異なりますが、実質何も成されていない
に等しい。
 海に近づくほど貧困の増すヌンキにおいて、海は母なるものではなく、唐突に猛り狂う怪物に近い
のです。
 ただし、ここ数百年の間は、海からの害というのはかなり落ち着いていました。
 海王――EGGが降臨されたからです。
 海王、というのはヌンキにおけるEGGの呼称です。EGGは代々、海王の名を継ぐこととなるの
です。
 EGGがどのようにして、海を治めているのかは、分かりません。
 ただ、EGGが海へ向かうことで、海は治まるのだ、ということだけが分かっています。
 しかし、皮肉なことに、EGGの居住は、モーラ大陸の内陸部――小高い丘の上に立つ城なのです。
EGGが海と接することをまるで拒むかのようなその居城は、EGGを巡るありとあらゆる利権の存
在を示しています。
 無数に点在する島国が絡む、ありとあらゆる利権――それらからEGGを守るために、そのような
居城となったのかもしれませんが。
 ですが、それでも年に数回は、EGGは海に向かい、海を治めるのです。
 悲劇は、その時に起こりました。
 先代のEGGは高齢ではありましたが、海を治めるために定例通りに海へ向かっていました。その
最中、お亡くなりになられたのです。
 いいえ、暗殺などではありません。老衰です。
 ヌンキは喪に服し、そして先代のご遺体は、モーラの居城へとお帰りになられる手筈が整えられま
した。そして本来ならば、先代の葬儀が終わると同時に、新しいEGGの選定がなされる予定でした。
 そう、悲劇はここで起こったのです。
 先代のご遺体が居城へとお帰りになされる際、激しい地震がモーラを襲いました。そして、圧倒的
な、津波が。
 先代は海を治めては逝かれませんでした。その隙を突くように、海は牙を剥いたのです。
 これによる被害は、ここ数百年のうちで――EGGが降臨してからのうちで、最も大きなものとな
りました。いくつかの島国は、再建不能なほど壊滅した、といっても過言ではないでしょう。そして
更なる追い打ちをかける事実として、先代のご遺体もまた、海に攫われてしまったのです。
 EGGは、宿主の心臓に宿ります。
 先代は死亡したとはいえ、まだEGGはその心臓から離れてはいなかった。即ち、EGGもまた、
海に攫われてしまったのです。
 こうして、ヌンキは二十年近くの間、EGG不在のまま時が経ちました。
 EGGの宿主が不在なのではなく、EGGそのものがないのです。人々は海を浚い、EGGを探し
ましたが、見つからなかった。ヌンキはただただ、治められぬ海の牙に怯えて暮らすしかなかった。
 島々は荒廃し、モーラ大陸には難民達が押し寄せ、治安は悪化の一途を辿る一方でした。
 外帝王の浸食があったなら、ヌンキは立ちどころに滅亡していたことでしょう。
 それを防ぐために、宇宙倫理機構の方々がお目見えになったとき、ようやく、EGGは見つかりま
した。
 地球よりやってきたEGGが、視察と称してモーラ大陸の沿岸部を歩いている時に。
 荒廃した浜辺で、地球からの使者は、EGGを見つけました。銀の髪の青年を、一人。
 EGGはEGGを見極めることができます。どれほど同じような顔立ちが並んでいようとも、EG
Gは自らと運命を同じくした仲間を見つけることができるのです。地球からの使者は、ヌンキのEG
Gを見つけました。
 それは偶然だったでしょうが、他の誰にもできなかったでしょう。ヌンキの新しきEGGは、自ら
がEGGであることさえ、理解していなかったのですから。
 新しきEGGは、親を失い一人で生き抜いてきた青年でした。生きる苦しみは知っている。けれど
も、大陸内部の渦巻く利権争いは知らない。
 彼が、どのようにしてEGGの務めを果たすのか、それは誰も知りえません。





 EGG:ハヤ・フビラ
 年齢:21歳。
 津波に飲まれた先代の遺体から流出したEGGに、なんらかの拍子に触れてしまった青年。EGG
に触れたのは幼いころであるらしく、本人もその記憶がない。両親は先代死亡後の津波によって死亡。
赤ん坊である彼だけが残された。
 施設で暮らしていたが、成人後は沿岸部で働き始める。
 沿岸部はEGG亡き後はスラム街と化していたため、EGGを探す者たちもほとんど訪れず、ハヤ
は誰からも見つけられずに、細々と暮らしていた。
 沿岸部で暮らしている際、内陸に住む裕福な青年と知り合うも、結局は沿岸部に戻る。そこを、視
察と称してうろついていた地球のEGGに見つけられる。
 地球のEGGは、EGGどうしの繋がりを見極めるEGG特有の力によって、すぐに彼がEGGで
あることを知り話しかけるが、その時は自分を男娼と勘違いした男だと思われて逃げられてしまう。
その後、誤解を解いてEGGについて告げるが、しばらくの間はヌンキの政府陣や宇宙倫理機構には
話さずにいた。
 これは、ハヤがEGGであることを受け入れられず混乱しており、彼がEGGについて納得した段
階になって正式に宇宙倫理機構に話をした。




 SEED:フォルト・エンデ
 年齢:22歳。
 内陸部に住む裕福な青年。代々軍人を輩出しており、自らも部隊長を務めている。
 スラム地区の治安状況確認の名目で沿岸部にやってきた時に、ハヤを見つけ、沿岸部にいる間、彼
と交友を持っていた。ただし、この間、ハヤがEGGであることには気が付いていなかった。
 内陸に戻るときにハヤも一緒に連れて帰るつもりだったが、ハヤがこれを拒否。そのまま離別する
こととなる。
 交友を持っていた間、数回にわたりハヤと性交渉をしており、自分でも気づかないままSEEDと
なっていた。