z-Ori-gncq.jpg(6682 byte) 郷愁の風



 ザヴィジャヴァ。
 第三銀河系ジスザーヴァ系第四惑星のことを、ザヴィジャヴァと呼びます。液体からなる海と、固
形の陸地を持ち、海と陸どちらにも多様な生物種が棲んでいます。海は極部には氷河が生まれ、陸に
は森、草原、砂漠が存在しており、どのような気候である、と一概に言い切ることはできません。
 人は柔らかな皮膚を持ち、二足歩行をし、陸地の中に自分達の文明を作り上げて生きてきました。
 文明の発達による自然破壊も行われてきましたが、それは今はここでは語りますまい。それは、今
ここにある記録には関係のないことですから。
 今回の記録で残すべきことは、ザヴィジャヴァに残されたEGGに関することです。
 EGGについても、ここでは語る必要はありませんね。遥か昔にフロル人が、外帝王の対抗手段と
して残した、白銀の卵。
 EGGを認識したほとんどの惑星において、EGGは神話的で伝説的な扱いを受け、そして脈々と
それを引き継ぎ、EGGを崇めています。
 ザヴィジャヴァにも、遥か昔からEGGに関しての歴史は記録されていました。
 ただし、それが他の惑星と異なるのは、他の惑星においてはEGGが神話であるのに対し、ザヴィ
ジャヴァにおいてEGGは、歴史の中の記録の一端にすぎません。
 いえ、EGGを軽視しているのではなく、EGGがあまりにも生活に密着していたからでしょう。
 
 ザヴィジャヴァは、かつて、フロルが最も集った惑星である、と言われています。
 故郷を失ったフロル人は、宇宙に散り散りとなって、外帝王を倒す手段である白金卵を惑星に産み
付けていきました。
 ザヴィジャヴァは、そんなフロル達が初期に訪れた惑星であり、そしてフロル達が故郷に似ている
として、しばらくの間住まった惑星でもあるのです。
 フロル達の数人は、ザヴィジャヴァに知的生命体が生まれ、彼らが文明を持ちフロル人と意思疎通
が出来るようになるまで、そこに滞在したといいます。
 故に、ザヴィジャヴァの歴史の記録は、フロル人その人が残したものさえあるほどです。そして、
ザヴィジャヴァにはフロル人との混血が非常に多いのも特徴です。
 他の惑星において、フロル人は一人か二人がその惑星に留まり、白金卵の管理と自らの血をその惑
星の生命体に注ぐことをしてきました。ですがザヴィジャヴァでは、そうした行為を行ったフロル人
が百名ほどいたと思われます。
 フロル人の血の濃い我らにとって、EGGはお伽噺でも伝説でもなく、ただただ祖先の記録の一端
なのです。
 ザヴィジャヴァでは、EGGは如何なる地位も持ちません。
 むろん、外帝王との戦いには必須であることを考えると、それなりの見返りがあるべきだとは思い
ますが、それは他のザヴィジャヴァ人がEGGを守ることで贖われています。外帝王の前には、EG
Gであろうと、EGGでなかろうと、危険は同じなのです。
 故に、EGGは特別な地位にはいない。
 また、ザヴィジャヴァにおいてEGGは世襲されません。
 これは、フロル人の混血が多いザヴィジャヴァならではのことなのかもしれませんが、特定の家系
に権力を与えぬようにするため、EGGが亡くなった後、余程のことがなければ――そう、他の誰も
EGGが選ばぬということがなければ――次代のEGGは、別の家系から選ばれるようになっていま
す。
 次のEGGを自らの家系にしたいが故に、他の候補を暗殺する――そういったことを懸念されるか
もしれませんが、生憎と暗殺しきれるほど、フロルの混血の数は少なくはないのです。ですので、そ
うした安易な行動にはでられないのです。

 そもそも、ザヴィジャヴァは非常に平和な惑星です。
 それも、フロル人が長らくいて、我らを制御していたからかもしれませんね。ザヴィジャヴァでは
戦争らしい戦争というものをしたことがないのです。
 実を言えば、外帝王の侵略も受けたことはありません。我々がEGGと外帝王のことを明確に知っ
ているのは、ひとえにフロル人からの知識が残されていたからに過ぎないのです。なので、我々は暗
殺はおろか、戦う事ができないのです。
 戦い方を知らない、と言えばよいのでしょうか。
 EGGはEGGとして、多少の戦い方は知っていますが、実践をしたことはないでしょう。SEE
Dも同じことです。
 我々は、ただただ、フロル人の加護の元にあり、今まで生きながらえてきたにすぎないのです。
 こうした状況を憂う者は近年多く、このままではいつか外帝王が侵攻してきたときに、我々はただ
蹂躙されるだけに終わるのではないかと懸念されています。例えEGGがあったとしても、使い方を
知っていても、実際に使いこなせるのとは、また別なのです。
 そうした思いは、EGGとSEEDの中では特に深くなっているようです。
 そう、最近、地球からきたEGGを見てからは。
 ザヴィジャヴァ人の中には、戦いを極端に嫌うものもいます。戦わずに逃げていればよいのだ、と
いう考えの者や、戦うくらいなら支配されたほうが良い、と思う者。
 けれども、EGGの考え方が変わりつつある今となっては、そうした考えは時代遅れなのでしょう。





 EGG:ミシャエル・オートリーフ
 年齢:21歳。
 ザヴィジャヴァの草原の民の末裔。祖父母は未だに遊牧民的な暮らしをしており、機械的な生活を
しようとはしていない。
 父方も母方もフロルの血を引いており、一族の大半が銀髪である。
 先代の砂漠の民であったEGGから、EGGを引き継いだ。
 しかし平和なザヴィジャヴァではEGGであることは、さほどの誇りでも価値あるものでもない為、
ミシャエル自身もEGGであることに重きを置いていない。
 だが、半年に一度行われる、宇宙倫理機構主催のEGG会合において、外帝王からの襲撃を受けた
際、何もできないまま宇宙船に閉じ込められ、SEEDと離れ離れになってしまう。
 その際は、その場にいた別のEGG達によって助けられ、事なきを得たが、常に足手まといであっ
た自分の状態にショックを受け、戦い方を覚えるべきではないか、と焦燥を覚える。
 なお、他のEGGも実を言えばさほど強くはなく、ミシャエルを守りながら戦える状態ではなかっ
た。唯一地球のEGGのみが戦闘に慣れていたため、彼がミシャエルを守りながら戦い抜くことがで
きた。
 そのため、ミシャエルの焦燥はミシャエルに限ったことではなく、EGG全体に言えることである。




 SEED:ギリア・コートラル
 年齢:21歳。
 ミシャエルの幼馴染の青年。ミシャエルと同じく草原の民である。SEEDとなっているが、戦う
力はまるでなく、馬や羊、牛の扱いが得意で、剣や銃などは肉食獣を追い払う時に使う程度。
 なので、前述の外帝王襲撃の際は、EGGと離れ離れとなった挙句、何の役にも立たないまま、隅
に隠れている事しかできなかった。
 平和なザヴィジャヴァのことしか知らず、それでよいと育てられてきたため、無差別に食い尽くす
外帝王を目の当たりにして、ミシャエルと同じくらいに衝撃を受けている。
 未だ力はないが、決して愚かではなく、戦わないことを最良としているザヴィジャヴァの考えに、
疑問を持ち始めている。