z-Ori-gnbn.jpg(7714 byte) 双璧



 アユト・アル・ジャワザ。
 九十八銀河系ユルルア系第八惑星のことを指す。
 この惑星については、特筆すべき事項はない。極めて温暖で生命体にとっては非常に過ごしやすい
惑星である、とだけ言っておこう。惑星そのものの特性は、おそらく生命体に適している、としか言
いようがない。
 ただし、この惑星の知的生命体の歴史は血に彩られている。
 この惑星には知的生命体は二種類いた。いた、というのは既に片方の知的生命体は絶滅させられた
からだ。もう一方の知的生命体によって。
 絶滅した側の知的生命体を、我々はオルク、と呼んでいた。そしてもう一方の知的生命体――即ち
我々のことは、リオンヌという。
 さて、オルクとリオンヌの関係だが、実を言えば歴史的に見ればオルクのほうがリオンヌを支配し
ていた時間のほうが長い。我々リオンヌがこの史上に台頭し始めたのは、かれこれ二百年ほど前だ。
 今は既に存在しえぬオルクは、非常に硬い筋肉で覆われた巨躯の持ち主であった。リオンヌとは体
格に二倍近くの差がある。その体格にものを言わせて、オルクはリオンヌを力で支配してきた。
 奴隷として死の淵まで働かせ続け、自らの褥に引きずり込んでは犯し捨て、自らが死ぬ際には死の
国に侍れと言い、数百人のリオンヌを道連れにした。
 いや、それだけではない。
 オルクはリオンヌを食料とみなしていたのだ。
 我々リオンヌは、食われる側であったのだ。オルクは我々を奴隷であり食料とみなしており、故に
リオンヌはオルクの腹を満たすために、一度に数人の子供を産むことを余儀なくされた。
 今でこそ、リオンヌのその特性は失われつつあるが、それでも双子、三つ子が生まれることはざら
だ。
 さて、そんなオルクが何故リオンヌによって絶滅させられたのか、ということだが、ここには外帝
王が噛んでいる。
 二百年ほど前、外帝王が、アユト・アル・ジャワザに襲来した。外帝王襲来により、アユト・アル・
ジャワザの生命体は壊滅的な打撃を受けた。それはオルクも例外ではない。オルクの好戦的な性質も
災いし、オルクは衰退の一歩を辿った。
 我々リオンヌは、そんなオルクを追い詰めて最後の一人も残さずに殺しつくしただけだ。
 では、ここでリオンヌは外帝王の影響を受けなかったのか、という疑問が出るだろう。むろん、リ
オンヌも外帝王に感染し、死しても操られた哀れな者は出た。しかし、オルクによって無理に数人の 
子供を生み出し、家畜として殖やされた我々は、オルクよりも遥かに人口が多かった。故に犠牲が出
ても、ある程度の埋め合わせはできた。
 そして何よりも、我々リオンヌのもとにEGGは降臨したのだ。
 EGGがいつ頃、我々のもとにあったのかは分からない。しかし先程も述べたようにリオンヌは一
度に複数の子供を産む。従って、EGGになるべき存在が潰えぬままに、その遺伝子を残すことに成
功していた。
 事実、今でも我々のEGG候補生は、他の惑星よりも多い。
 EGGを手にしていた我らは、オルクを滅ぼすとすぐに外帝王と戦った。オルクに支配されている
からといって、戦えぬわけではない。むしろ、オルクの道楽につき合わされて戦う事を強要される事
もあった。
 だから、別に外帝王と戦う事に対して躊躇いなどなかった。
 こうして、リオンヌはオルクを滅ぼし、外帝王を退け、ようやくアユト・アル・ジャワザの歴史の
上に台頭することができたのだ。
 オルク絶滅に一役買ったEGGは、世代を越えても尊敬されるべき存在として、アユト・アル・ジャ
ワザでは特別な地位にいる。EGGには、如何なる税収も課せられず、何もせずとも一生涯暮らせる
と保障されているのだ。
 しかし、先に述べたように、未だにリオンヌはオルク支配下の悪習であった、一度に複数の子を産
むという性質を消せずにいる。
 母体への負担に加え、そこにはEGG選出の際に大きな弊害を生み出すこととなる。
 まったく同じ母体から生まれた、齢も背格好も同じである存在の中の一つが、EGGとして選ばれ
恩恵を受けるのに対し、良い感情を抱けるだろうか。
 事実、短いリオンヌの歴史上の表舞台で、幾度となくEGGは死してきたが、そのうちの幾つかに
はEGGの兄弟による暗殺が含まれている。
 度重なるEGG暗殺に、我々は一つの案を講じた。
 それは、SEEDをEGGの兄弟に勤めさせることだ。SEEDはEGGが死ねば自らも死ぬ。そ
の位置に、EGGを殺したがっている兄弟を添えれば、幾分かは暗殺に対応できるだろう。我らはそ
う考えた。
 そしてその考えは、多少なりとも効果があった。
 EGGの暗殺はなくなった。
 尤も、それによって、兄弟間の憎悪が消えたとは、とてもではないが言い切れないが。




 EGG:ヒシャト・ルルオーシュ
 年齢:十九歳。
 アユト・アル・ジャワザのリオンヌ族であり、八人兄弟の長兄である。彼には双子の姉がおり、残
りの兄弟はそれぞれが三つ子である。
 EGG選定の際には八人全員で臨み、結果、彼がEGGとなった。
 しかしそのことが原因で同じ年齢である双子の姉に憎まれている。
 ヒシャト本人はEGGに選ばれても選ばれなくともどちらでも良かったが、結果としてEGGとな
ってしまい、姉に憎まれることとなったため、自らの人生には深い諦観を持っている。
 姉からの憎悪による暗殺を防ぐために、定例通りに姉をSEEDとするが、その方法は性行為によ
るものであり、そのことがより一層、ヒシャトを傷つける原因となっている。なお、アユト・アル・
ジャワザのSEED選定は、基本的に性行為である。
 また、この選定時にSEEDとなる兄弟がEGGを殺さぬよう、これらの行為は全て見張りがいる
状態で行われる。どちらかの抵抗があった場合は、この見張り達によって押さえつけられて行為が進
められる。



 SEED:ハダリ・ルルオーシュ
 年齢:十九歳。
 EGGであるヒシャトの姉。EGGに選ばれなかった「成りそこない」である。EGGになれば様
々な恩恵を得ることができる事や、兄弟は必ずSEEDとなり人生を捧げねばならぬ故、EGGとな
った双子の弟ヒシャトを激しく憎んでいる。
 SEED選定時は押さえつけられて性行為に至ることはなかったが、ほぼ一方的にハダリがヒシャ
トを犯すような状態であったらしい。
 なお、ハダリがヒシャトに暴行を加えるのは日常的で、ヒシャトは毎夜、ハダリに凌辱されている。
 ヒシャトを殺すとハダリも死ぬため、死ぬほどの暴行を加えることはないが、それでも危険人物と
して周囲からは監視されている。