z-Ori-gnaa.jpg(6013 byte) 夜の女帝



 ベネトナシュ。
 第203銀河オウゥルト系第3惑星の事を、わたくし達は、そう呼びます。
 我等がベネトナシュは、八つの衛星を持ち、それら衛星が毎日一つずつ欠け、そして全てが消えた
後、また毎日一つずつ増えていくさまを見るのです。
 ベネトナシュの特筆すべき点は、何よりも昼というものがない事でしょうか。概念として、人々が
が集うする時間帯の事を昼という事は分かるのですが、ベネトナシュには明確に『昼』と呼べる時間
がないのです。
 ベネトナシュは常に夜が支配する惑星なのです。
 それは恐らく、ベネトナシュが八つの衛星を持つ事に関係するのでしょう。ベネトナシュはオウゥ
ルトの周りを回っている惑星です。オウゥルトは恒星であり、紛れもなく光り輝く存在です。しかし、
その光はベネトナシュには届かない。
 決して、ベネトナシュとオウゥルトの距離が遠いわけではありません。ベネトナシュの周りを回る
八つの衛星のうち必ず一つの衛星の公転と、オウゥルトを回るベネトナシュの自転とがぴったり重な
り、衛星がオウゥルトの光を遮ってしまうのです。
 つまり、オウゥルトは常に蝕の状態にあるのです。従って、ベネトナシュに届くのはオウゥルトの
微かな零れ日しかなく、ベネトナシュは常に夜に支配されている状態となっているのです。
 しかし、これを他の惑星の人々に言うと少なからず驚かれることがあるのですが、ベネトナシュは
夜に支配されていてもさほど困る事はありません。
 確かに気温は他の恒星を持つ惑星と比べると低いのでしょうが、冬場でもなければ凍り付く事はあ
りませんし、わたくし達もそれに慣れています。それに、他の惑星の人々と比べると強い光は眩し過
ぎますが、しかし別に全く見えぬというわけではありません。ベネトナシュは闇夜というわけではな
いのです。八つの衛星は確かにわたくし達からオウゥルトの光を奪いましたが、それらがオウゥルト
の光を反射した光は、届くのです。なので、視力が全くいらないというわけでもないのです。
 夜が支配する、ということでベネトナシュは過酷な生活環境だろうと思われる他の惑星の方は大勢
いらっしゃいます。
 なるほど、わたくし達の祖先は、そうであったかもしれません、ベネトナシュにも当然肉食獣が多
数生きています。けれどもそれは他の惑星でも同じことでしょう。
 このように言うと、他の惑星の方々は、食べ物に困るだろう、というのです。光がなければ植物は
育たない、と。
 生憎ですが、その理論はベネトナシュの植物には当て嵌まりません。一度、ベネトナシュを訪れる
と皆様眼を疑われるのですが、ベネトナシュの陸地の大半は、深い森に覆われているのです。
 ベネトナシュの木々は強固です。鈍らな刃物では傷一つ付けることができないでしょう。そしてほ
とんどが短期間で太い幹を持ち、高く枝はを茂らせる。ベネトナシュの暗さは、木々が天を多い星々
の輝きさえ隠してしまっているから、というのもあるかもしれません。
 こうした強靭な森は、わたくし達ベネトナシュにとっては何よりの城塞です。ご存知ですか?ベネ
トナシュの宇宙船は、じつは木で出来ているのですよ。
 何故このような森が出来上がったのか――ベネトナシュの木々は強固であるのか、は未だ分かって
いません。様々な学説がありますが、やはり常に夜である、という事に何らかの影響を受けているの
でしょう。
 ベネトナシュの国は、もちろん森の中に存在しています。二百を超える大小様々な国が、森の中に
ひっそりと治まっています。国ですから、当然の事ながら先進国、後発国とありますが、その中でも
強国であるのがヒシュラート帝国です。ヒシュラートは過去に多数の国家を吸収、合併して強大にな
った国であり、未だそれを恨みに思う人々もいると聞きます。
 ですが、それでもヒシュラートがその強大さを保っていられるのは、単に皇帝エリシューア二世に
よるところが――いえ、エリシューア二世も含め、歴代皇帝の恩恵に肖るところが大きいでしょう。
 ヒシュラートの代々皇帝は、EGGなのです。
 それがヒシュラート建国からそうであったのかは分かりません。少なくともヒシュラート建国の礎
を作ったハリシエ・アンドリウはEGGではなかったでしょう。彼は、このされた肖像画を視る限り
赤髪でしたから。
 銀髪の皇帝が現れたのは、文献や当時の絵を見ると今から十代ほど前の皇帝からでしょうか。そこ
からは、延々と銀髪の高低が描かれ続けています。
 そして現在の皇帝エリシューア二世に至るまで。
 エリシューア二世皇帝陛下は、御年三十二歳になる女性であられます。ヒシュラートの森の要塞、
エントリルル城に居を構えていらっしゃいます。
 才知に長けた美しい女性である皇帝陛下は、しかし驕り高ぶった方ではない。権力を傘に着て威張
るといった無粋な真似を嫌う方です。
 そのような気高い性格に、いつもご自分を傷付けられていらっしゃる。
 その最たる悲劇が、SEEDの結婚ではないでしょうか?
 エリシューア二世皇帝陛下にも、当然ながらSEEDである存在を持っていらっしゃいます。それ
は、身寄りのない哀れな、しかし剣の腕に長けた青年でした。エリシューア二世皇帝陛下は、青年を
哀れに思い、兵士として召し抱えました。そして青年が誰よりも強い兵士となると、SEEDとなる
事を打診されたのです。
 勘違いなさってはいけません。皇帝陛下は強制はされませんでした。案として出されたのです。何
かと引き換えに、という破廉恥な真似はされなかった。いいえ、むしろ、あの頃は彼のほうがSEE
Dになりたがっていた。
 だから、青年は陛下の案を承りました。
 そうして青年はSEEDとなりました。それで、しばらくは全てが平和だったのです。一人の少女
が、下働きとして城に入ってくるまでは。
 下働きの少女と、青年は、忽ちのうちに恋に落ちました。エリシューア二世皇帝陛下の元において
身分差というものはありません。下働きと近衛兵であっても結婚する事には何一つとして障害はあり
ません。
 ですが、青年はSEEDです。
 SEEDがどのようなものか、ご存知でしょう。EGGの為に生き、EGGが死ねばその生涯も終
わる。全てはEGGを守る為に存在するのです。
 これまで、SEEDがEGG以外の存在を、家族とした事があったでしょうか?少なくとも、わた
くしは存じ上げない。
 ですが、皇帝陛下は反対しませんでした。SEEDが家庭を持つ事に。そうしてSEEDは少女と
結婚し、家庭を持ちました。
 しかし、わたくしは思うのです。彼は、EGG以外に大切なものができました。そんな彼が、この
先、本当にSEEDとしてEGGを守る事ができるのだろうか、と。





 EGG:エリシューア二世
 年齢:三十二歳
 ヒシュラート帝国の皇帝にしてEGG。
 才知に長けた美貌の女性であり、国民の多くから慕われている。ヒシュラートの森の要塞であるエ
ントリルル城に居を構え、そこで施政を引き、外宇宙からの使者とのやり取りを行っている。
 実力主義であり、彼女の前には出自や人種は無価値。身分制度自体は帝国にはあるものの、ほとん
どが形骸化している。したがって貴族と庶民の婚姻はままある事であり、身分違いの恋は帝国内では
もはや時代遅れの考えである。
 彼女自身、自らが召し上げた身寄りのない兵士――後にSEEDとなる青年に恋をしているが、そ
れは誰にも気づかれる事なく、青年が下働きの少女と恋に落ちた事で終わりを告げた。
 この時のやるとりは、地球のEGGがいる時に行われており、地球のEGGには彼女が誰に恋をし
ているか明白であった。
 婚礼の夜、地球のEGGはエリシューア二世の自室に呼び出され、二人で何かを話している。
 なお、この星のEGGとSEEDの関係に、地球のEGGは何か思うところがあったようだ。




 SEED:アンシア・サリファ
 年齢:二十六歳
 十歳の頃に火事にて家族を失い、天涯孤独になった際にエリシューア二世に召し抱えられた青年。
当初は一般兵として召し抱えられたが、秀でた剣の腕によって近衛兵まで上り詰め、その実力が認め
られてSEEDとなる。
 SEEDとなったのは、エリシューア二世からの頼みというよりも、エリシューア二世がSEED
となるべき人材を捜しているというのを聞きつけたアンシアが、エリシューア二世に立候補したから
である。
 しかし、SEEDとなった後に下働きの少女と恋に落ちる。アンシアはSEEDである事を理由に
彼女と結ばれるつもりはなかったが、エリシューアに結婚する事を勧められ、婚礼を上げる。
 ただし、EGG以外を家族しとしたEEDは例がほとんどなく、今後まともにSEEDとしての務
めを果たせるのかと懐疑の眼を向けられている。