z-Ori-gnas.jpg(7601 byte)    魔女



 アドハラ。
 トルティーン銀河のアルシュ系第八惑星のことを、アドハラと我等は呼んでおる。外宇宙からは、
長らく人が住んでいるとは思われていなかったが故に、外宇宙からの存在と接触したのも、つい数百
年前のことだ。
 長らく人が住んでいないと思われておったのには理由がある。
 アドハラは宇宙から見れば白い雲が常に突風によって渦巻き、その雲をどうにか探査ロボが突き破
っても荒涼たる荒野ばかりが見えるからだろう。
 実際に、アドハラはその惑星の大半を、乾いた砂と切り立った岩が剥き出しの渓谷で形作っておる。
海があるが故に雲は発達するが、渓谷から生み出される突風であちこちに流され、渦巻き、何か月か
に一度の雨――しかも大洪水を齎すのだ。
 このように生きるには不適切な星であるから、長らく生命体がいると思われていなかったのも無理
はない。しかし、強風と砂と洪水――これを除けば気候は温暖で、生命が生きるには決して不十分で
はないとも言える。
 おそらく、フロルもそう考えたのであろうな。アドハラには古くから白銀の卵に関しての伝承が残
っておる。
 そして、もしかしたら白金卵があった事で――そしてそれに、まだ未発達な生命が触れた事で、過
酷な条件でも生き延びる事が出来る生命体が出来上がったのかもしれぬ。
 ただし、過酷といってもアドハラの全てが、荒涼たる世界というわけではない。アドハラには、何
も嵐の海と砂嵐で眼も開けられぬ渓谷しかないというわけではないのだ。
 洪水と風によって肥沃な大地というものが、長い長い年月を積み重ねて出来上がっていく事がある。
岩肌しか見えぬ渓谷の只中に、ぽかりと風の止む場所があるのだが、そこに洪水で押し流された土が
堆積し、そこだけ切り取ったかのように緑が育まれた。
 我々アドハラ人は、それを『ラグーン』と呼んでいるがね。
 そのラグーンに、初めて人を住まわせたのが、銀髪の人――即ちEGGだと言われている。実際は
どうかは分からんがね。しかし、初期生命体の中でEGGに選ばれたものが他の生命体よりも知能を
有し、進化し、そして他の後発生命体達を導いたとしても、何もおかしくはないと、儂は思うのだが
ね。
 まあ、それだとEGGと我等アドハラ人が別種であるかのようになってしまうから、そこを深く掘
り下げはせんよ。それに、アドハラ人に限らず、そもそもEGGを宿した生命体が他の生命体と同じ
と言えるか、という論争を生み出してしまうからね。
 EGGとは、それだけ、宿した人間を大きく変えてしまうのだよ。
 さて、アドハラのEGGについてに話を戻そう。
 アドハラのEGGは先に述べたように、ラグーンに我等の祖先を導いた存在と伝えられておる。故
にアドハラのEGGは深い尊敬の念を持って、アドハラ人からは見つめられておる。
 ただし、いつごろからそう決まったのかは定かではないが、EGGは尊敬を集めはするが、そこに
とりたての地位は与えられん。――むろん、EGGとしての務めがある故に、それを円滑に行う為の
権利は与えられるが、基本的に彼女らはEGGになったとしても普通に学校に通い、自分達で結婚相
手を選んで結婚し、そして普通に働いて一生を終える。彼女らには一般人と全く同じ生活が保証され
ておる。
 ただし、彼女らにはEGGの務めとして、風祭りの儀はしてもらわねばならん。風祭りというのは
言葉通りの意味で、渓谷を行き来する突風が、ラグーンに被害を齎さぬようにという鎮めの儀式だ。
これをやる、やらぬでその年の風の向きが大きく変わる。おそらく、アドハラのEGGには風を制御
する力があるのであろうな。
 毎年、彼女らEGGは、巫女として風祭りの儀を行い、風の調整するのだ。
 ふむ。気がついただろうが、アドハラのEGGは巫女――即ち女性がなるものだ。儂が先程から、
EGGのことを彼女と言っているのは、そういう意味だ。アドハラではEGGは代々女性がなるもの
であり、それが破られた事は一度もない。
 EGGの家系から男児が産まれる事は、むろんあるが、男児がEGGに選ばれるといったことは、
儂も含めて、終ぞない。





 EGG:コシュカ・ミリートゥ
 年齢:十三歳。
 つい最近、先代EGGである大叔母の崩御のおりに、EGGになったばかりの少女。
 まだ十三歳という年齢もあって、EGGとしての自覚はほとんどないが、代々EGGとして風祭り
を行ってきた家系であるだけに、風祭りの巫女としての責務は重々承知している。
 とはいえ、まだ幼く、またアドハラのEGGであっても特別な地位に担ぎ出される事もないため、
言動は一般的な少女と同じである。風祭りの巫女である以外は、他の人々も普通の少女として接して
いる。
 とはいえEGGである故に、EGGとなったおりにEGGの成り立ちや外帝王についての知識も一
通りは与えられているため、いつかは外帝王と戦い星を守らねばならない事は理解している。
 ただし、今のところアドハラに外帝王が飛来したことは伝承上もないため、専ら学校に通い、友人
達との日々を過ごす毎日である。
 SEEDの選択についても知識として知ってはいるが、特別に誰かを選ぼうというつもりは全くな
く、結果として彼女の祖父がSEEDの役割を担っている。




 SEED:ウォスロ・ミリートゥ
 年齢:七十二歳。
 現EGGの実の祖父であり、そして先代EGGの弟であった。故に彼自身も銀の髪を持つEGG候
補の一人ではあるが、代々女性がEGGになるアドハラでは、彼がEGGとなる可能性は非常に低く、
実際にEGGとなることはなかった。
 姉である先代EGGは家族を持たなかったため――他にも候補はいたが――結果的に彼の孫である
コシュカがEGGに選ばれる。
 孫娘の事は信頼しているが、一方で彼女が幼い事も理解しており、またアドハラが外帝王にこれま
で侵略を受けてこなかった事から、コシュカにEGGとしての自覚が薄いことも分かっている。
 そのため、コシュカの教育係が必要と感じ、SEEDとなる儀式を受ける。
 ウォスロは既に老人であるが、しかし未だに矍鑠とし、長年の野良仕事と猟で鍛えた身体は大剣を
振るうことにも何の問題もない。また、ウォスロとしては自分が死ぬ頃にはコシュカも良い大人にな 
っており、分別も十分であり、相応しいSEEDを見つけるだろうと考えている。