z-Ori-gnbd.jpg(6191 byte)    暴君



 エル・ナス。
 八十二番目の銀河のオルデキア系惑星である。恒星オルデキアに九番目に近い惑星である。
 エル・ナスの特筆すべき点は、エル・ナスにある全ての国家、或いは民族、部族において、共通し
た神を認識しているところにある。
 如何に人種と国家、そして宗教が違えど、彼らが信じる神は全てが同じなのである。
 宗教が異なるのに仰ぐ神が同じ、というのはない事もないだろうが、エル・ナスにおいてはそれが
『全て』に当て嵌まる。
 ありとあらゆる宗教、伝説、全てにおいて頂点に立つのは等しく同じ神だ。
 その神の名は『エル』。
 エル・ナスとは『神の世界』を示す言葉だ。
 全ての人々の頭上に君臨する『エル』が坐す惑星。それがエル・ナスだ。
 全ての民族の神話や伝承を紐解けば、逸話は異なれど、必ず『エル』の名が出てくる。その姿につ
いては、当然の事ながら地方、民俗によって異なる。
 ある神話では弓を携えた若者であるが、別の民族の伝承では薬草を編み込んだ領巾を纏った女性で
あったりもする。そして、一つの民族の伝承の中でも、まるで姿が異なる場合もある。『エル』の姿
は、一つとして同じではない。
 しかし、唯一共通する部分がある。
 それは、神の色。
 如何なる宗教、伝説、神話において、例え性別年齢体型が異なっていても、髪の色が銀色である事
だけは、そこだけはまるで不可侵であるかのように、共通しているのだ。
 この話を聞いたら、察しが付くだろう。
『エル』というのは、EGGの事だと。
 おそらく、エル・ナスにおいて、EGGは遥か古代より存在していたのだろう。いくつかの伝承に
おいて、死者が蘇り人々を襲ったという記述があるのをみるに、外帝王も同時期にエル・ナスに進行
しようと考えたと思われる。これをEGGである『エル』が退けたのならば、EGGは信仰の対象と
なってもおかしくはない。
 過去の伝承を読み解くと、死者や無機物が動き、人を襲うというのはエル・ナス各地で発生してい
る。外帝王の進行は、かなり大規模なものだったのだろう。
 最初の『エル』―――EGGがいつ現れたのかは、分からない。しかし銀色の髪を持つ『エル』が
各地の伝説に残り、全ての人々の神として君臨していることを考えると、EGGは外帝王の進行を止
める為、各地を転々としたのだろう。
 世代交代を繰り返しながら、外帝王を撃退するまで、延々と。故に『エル』の姿は、場所、次代に
よって異なるのだ。
 現在のエル・ナスは外帝王の侵食は受けていない。つまり、歴代『エル』は文字通り彼らの人生を
懸けて、外帝王の侵食を食い止め、撃ち果たしたのだ。
 彼らは、『エル』は、EGGは、偉大だった。
 その偉大さ故に、彼らは神としてあらゆる人々に崇められている。
 彼らの言葉は絶対であり、反発する術など何処にもない。
 これが『神の言葉』として留まるのならば、良かった。宗教上の絶対としてあれど、姿のない伝説
だけのものであるならば、問題はあるにせよ、反発の余地があっただろう。
 しかし、EGGは伝説上の存在ではなく、紛れもなく実在する。そして、当然、今もエル・ナスに
存在している。
 歴代『エル』――EGGは偉大だった。
 しかし、偉大である者が、慈悲深いとは限らない。EGGは神ではなく、人でもあるのだ。何処か
で人道に悖る行為を取る事もある。
 外帝王を退けた後、『エル』は神として君臨した。
 その君臨が、絶対的な君主以上の強制へと変化するのに、どれだけの時間がかかったのかは分から
ない。
 ただ、今現在に限って言えば、『エル』の一言で、人の生死――いや、国の存亡が変わると言って
何一つとして間違いはないだろう。
 現『エル』のダヴィエラ・ザンゼトルは、正にその強制的な『エル』を体現している。
 君主としては非常に優秀で、無辜の民には平等だ。しかし、罪人に対しては恐ろしいほどに残酷だ。
ダヴィエラの支配において、罪とは即刻死に繋がる。
 特に、大罪人達についての処遇は、非道としか言えぬ部分がある。
 ダヴィエラは、処刑でさえ手ぬるいと彼が判じた罪人を、『SEED』にするのだ。
 SEEDとして、外帝王との戦いの最前線に一人で送り出す。これが、ダヴィエラの考えた死すら
手ぬるいと判じられた大罪人の処遇である。
 このようにダヴィエラはSEEDを罪人より選び出し、SEEDが死ぬとすぐに新しい罪人をSE
EDとし、外帝王との戦いに送り込んでいる。この為、ダヴィエラのSEEDの数は、他のどのEG
Gよりも多い。
 現在のダヴィエラのSEEDは、三十二人目である。





 EGG:ダヴィエラ・ザンゼトル。
 年齢 167歳。
 エル・ナスに君臨する『エル』――神である。文字通り、神としてエル・ナス全世界を支配してい
る。現在の全ての法律はダヴィエラが書き、全ての条約には彼の承認が必要であり、全ての裁きは彼
が定める。
 絶対君主であり、彼に諫言、進言することはできても、最終的に全てを決めるのは彼である。
 しかし、このような君主にありがちな凡愚ではなく、政に対しては非常に優れた手腕を発揮してい
る事から、ダヴィエラを弑そうという勢力はない。
 彼が全てを決定すると言っても、実際には各国家に対しては自治を認めていること、また、民族や
人種による差別、逆差別を毛嫌いしており、これによる如何なる犯罪、暴動も許さぬ事が、人々から
の支持を受けている。
 刑罰は非常に厳しく定めているが、軽微であり、且つ常習ではない場合の刑は非常に軽い。特に困
窮ややむを得ぬ事情がある場合は、支援体制も定めている。
 ただし、重犯罪者に対しては非常に厳しく、殺人、強姦、誘拐などの場合は、未遂であったとして
も原則死刑である。
 特に常習性のある者に対しては、SEEDとして駒と扱い、徹底的に尊厳を踏み躙った挙句、外帝
王と戦わせるといった刑を下している。
 それ故に、ダヴィエラは他のEGGよりもSEEDを何代も変えており、現在のSEEDは三十二
人目である。
 こうした刑の重さに反対する意見もあるが、一般民からの支持は多く、反対勢力が根付かない原因
ともなっている。



 SEED:キィネ・ダダ
 年齢:96歳。
 かつて、中年女性だけを首を掻き切る事で殺害した連続殺人犯である。キィネが殺害した被害者の
人数は四十八人にも及び、いずれも女性で、頸動脈を斬られていた。なお、被害者に対して強姦等の
性的行為は行っていない。
 キィネは幼い頃、母親と伯母達に性的虐待を受けており、それが犯行動機であると考えられている
が、被害者はキィネには無関係で、更に子供への虐待行為のない無辜の民であったため、これによる
情状酌量は一切なされなかった。
 その後、ダヴィエラにSEEDとして死ぬよう刑を言い渡される。それに対してキィネは反論せず
に受諾。以降、SEEDとして外帝王との戦いを続けている。