z-Ori-gncy.jpg(21810 byte)    聖奴



 ウィゼン。
 第915銀河系の果てに位置する惑星である。
 この星について語る時に、星独自の環境や生態を語る必要はない。この星の最大の特徴は、そこに
住む人々の圧倒的な弱肉強食の理念にあるからだ。
 ウィゼン人において、最も重視されるのは個の持つ力だ。
 それは、財力や知力といった力ではない。
 武力。
 しかも、武勇ではなく、圧倒的なほどの暴力を指し示す。
 ウィゼンにおいて、最も尊ばれるのは、暴力によって相手を薙ぎ倒す者だ。そこには欠片の慈悲も
情けも介入しない。相手の何もかもを奪い尽くす暴力だけが、全てを支配する。
 彼らには、王というものは存在しない。
 いや、便宜上、人々の長として立つ者はいるが、それは完全に暴力で全てをねじ伏せた者の事だ。
彼は、ただただ力を持って、自分よりも弱き者を気ままに踏み躙る権利を与えられている。
 しかし、それでは王という存在は成り立たない。
 かの、好きな時に暴力を振るう輩を頂点とする組織をつくる為に、その輩を良い気分にさせる胡麻
擦り共が、寄り集まっている。それが、ウィゼンという惑星で社会というものをようやく形成させる
に至っているのだ。
 ウィゼンには二百近くの国が存在しているが、その国々は当然の事ながら、長い間小競り合いを繰
り広げていた。
 暴力を持つ者が暴力を持つ者をねじ伏せようとする。
 そんな戦いばかりだった。
 だが、ウィゼンの中にも、暴力を好まぬ者達は大勢いる。それらのほとんどは、人種性別関係なく、
弱者として虐げられるべき者として、暴力者達に何もかもを奪われていた。虐げられるべき者達は、
そのほとんどが自らの境遇を当然のものとして受け入れていたが、自らだけでも守ろうとしして、暴
力者を組織の中に捻じ込もうとしたのが、胡麻擦り共だ。
 戦いばかりの日々では、いつかウィゼンは外帝王関係なく滅びるだろう。
 それを回避する為に、胡麻擦り共は寄り集まり、暴力を持て余す者を、まずはその国々で一人ずつ
選びぬいた。
 選びぬく方法は簡単だ。
 殺し合わせるだけで良い。
 暴力が全てである者達は、奪う為に殺し合いに参加し、そして生き残った者が、その国の王となっ
た。
 そして、次は王達が殺し合い、頂点に立った者がウィゼンという惑星を支配する。
 そういうシステムになった。
 数年に一度、各国内では国を挙げての殺し合いが開催され、王が決められる。そして王はウィゼン
の支配者と殺し合う。
 むろん、年に一度を待たずとも、ウィゼンの支配者には誰もが決闘を挑む事が出来たし、負ければ
殺され、勝てば新たな支配者となる。
 こうして、胡麻擦り共は実質ウィゼンを支配し、安寧を手に入れた。
 しかし、虐げられるべき者達は、国の頂点となった王や、ウィゼンの支配者に、懸賞品として、財
産はおろか身体も吸い上げられる存在となった。虐げられるべき存在である事に、何一つとして変化
はなかった。
 もしも、この状況が延々と続いたなら、胡麻擦り共の考えたシステムは、いつしか暴力者達に飽き
られ、世界は再び戦乱の中に戻っていただろう。
 それを食い止めたのが外帝王というのは、どういった皮肉だろうか。
 外帝王という新たな敵は、暴力者達の本能を満たすには恰好の標的だった。外帝王はあらゆる存在
に寄生する最悪の敵だったが、暴力者達は自らの同胞が外帝王に寄生されても、欠片たりとも憐憫の
情を見せずに、それらを屠りつくした。
 暴力者達には、同胞の概念も、親類関係が成せる情も絆も、言葉の羅列でしかないからな。
 外帝王にとっては想定外であったかもしれないが、同時に何とも戦いやすい相手でもあっただろう。
外帝王にとっては仮初の身体となる――しかも屈強な――死体が、幾つも手に入ったのだから。
 そう。
 遅かれ早かれ、ウィゼンは滅びる運命だった。
 暴力者による戦乱によってか、あるいは外帝王の侵略によってか、ウィゼンは滅びるべきだった。
 しかし。
 そう、しかし。
 ウィゼンがこれまでも生き長らえてきたように、再び生き長らえる術は現れた。
 白金卵の、降臨だ。
 奪う事が全である暴力者達は、一方で奪われる事は極度に嫌う。外帝王に自らを奪われる事は、暴
力者達にとっては死後続く屈辱だった。それを回避する術があるとなれば、当然のことながら、暴力
者はそれを自らの手中に収めようとするだろう。
 そして、暴力者達を外帝王と戦わせて自らは安全な檻の中に逃げ込んでいる胡麻擦り共は、その存
在を迷うことなく暴力者に差し出すだろう。
 悲劇的な事に、白金卵の宿主となったのは、虐げられるべき者の中でも最下層にいた孤児だった。
 EGGとなった孤児はすぐさま胡麻擦り共に捕えられ、EGGを褒賞とした殺し合いがすぐさま開
催された。そしてEGGは、ウィゼンの支配者の所有物となって、支配者に延々と尽くすだけの存在
と成り果てた。
 はっきり言っておく。
 ウィゼンのEGGは、ひたすらに奴隷だ。支配者の交替がある度に凌辱され、強制的に支配者をS
EEDとせねばならない。そして、その後は支配者が望むままに身体を差し出し、支配者の戦いに貢
献する。
 胡麻擦り共は、EGGを聖なるものとして扱い、EGGとなる可能性のある者達を『聖堂』と呼ば
れる場所に閉じ込め、彼らを教育――いや、洗脳する。彼ら自身は聖なる存在であると信じさせ、そ
して世界の安寧の為に、支配者の為に尽くすべきであると教え込ませる。
 彼らの大半は孤児で、虐げられるべき者達で、故に胡麻擦り共から逃げる手立ても持たない。
 そして、彼らの大半は、EGGと判じられる前に、支配者によって犯されている。EGGが彼らの
中から一人選ばれたとしても、彼らの処遇は変わらない。EGGが何らかのアクシデントで死んだ時
の為の代わりとして、彼らは『聖堂』に閉じ込められる。
 EGGとして選ばれた者は、SEEDである支配者が死んだとしても自由にはならない。新たな支
配者が現れ、彼を犯し尽くすだけだ。EGGのほとんどは閨から出てこないという。支配者に凌辱さ
れ、彼らは閨から出る事すら叶わない。
 このような非人道的扱いを受けているEGGに、宇宙銀河防衛機構は何一つとして手立てを講じて
こなかった。ウィゼンの文化には口を出さないと言って、放置し続けた。
 それどころか、私は知ってしまった。宇宙銀河防衛機構の連中が、あの胡麻擦り共に現状システム
を維持する為の支援を行っている事を。
 どうやら、宇宙銀河防衛機構とは、外帝王と戦う事さえできれば、EGGそのものの人権などは、
どうでも良いと考えている組織のようだ。
 この音声を聞いている者がいれば、どうか、我等を助けてほしい。我等の境遇と、そして宇宙銀河
防衛機構の闇を………。

 ――不正通信を行っている者を発見しました。

 しまった!此処も奴らに見つかったのか!
 皆、退避準備を!

 ――そんな暇あるわけねぇだろうが!

 オズルミルド?!何故此処に?!

 ――ああん?ここは俺の星だ。俺が何処にいようと俺の勝手だろうが。

 くそ!皆、兎に角逃げ…………!?

 ――逃げられねぇって言ってるだろうが!この、俺の手からよぉ!安心しな。殺さずに全員犯して
 二度とこんなこと考えられねぇ身体にしてやるさぁ!

 誰か、どうか……!

 ブツッ!ツー、ツー、ツー、ツー。





 EGG:ロスエルシア
 年齢:18歳
 ウィゼンのEGG候補を集めた『聖堂』の中に入れられた少年。ひ弱で『聖堂』の中でも最も下位
に属しており、常に凌辱の対象だったが、14歳の時に先代のEGGが死に、その後、新たなEGGに
選ばれる。
 EGGに選ばれたその時は、先代のEGG死亡の影響で、SEEDであるウィゼンの支配者もいな
かった。
 そのため、しばらくの間はSEED不在の状態であった。
 しかしその後、すぐに新しい支配者としてオズルミルドが立ち、ロスエルシアはオズルミルドに凌
辱され、オズルミルドをSEEDとする。
 ただし、これらの自らを取り巻く環境と行為について、ロスエルシアは何一つとして疑いを抱いて
いない。
 地球人の眼から見ると異様である光景を、地球人達に度々おかしなことだと指摘されるも、ロスエ
ルシアには何も響かない。それは彼にはそれ以外の境遇が分からないからだ。
 唯一彼が反応したのは、地球のEGGから『お前は自分では何も考えれないんだな』と言われた時
である。
 その台詞に反応したのか、はたまた同じEGGという事で反応したのかは、不明である。




 SEED:オズルミルド
 年齢:39歳
 先代EGG死亡時に、SEEDであるウィゼル支配者も死亡。それを受けて、ウィゼルでは慣例通
りに、各国で殺し合いが行われ、引き続き各国の頂点の者達の殺し合いが行われた。
 オズルミルドは、全員を殺し尽くし、頂点に立った男である。
 金や女を奪い尽くすが、それよりも何よりも相手を屈服させる事に喜びを見出す男であり、外帝王
をもいつかは踏み躙る事を夢見ている。
 EGGであるロスエルシアについては、自分の所有物であると認識しており、自分の好きなように
して良いと考えている。一方、自分以外の者達が、自分の許可なくロスエルシアを凌辱する事は好ま
ず、ロスエルシアがオズルミルドをSEEDに迎える以前に、ロスエルシアを凌辱した高官や兵士は
全員殺されている。
 ウィゼンにおいては暴力の頂点に立っているが、ロスエルシアへの態度を地球人に咎められた時、
咎めた地球人を殺しかける。その際には地球のEGGに、『霧になる』一歩手前まで追い詰められ、
死ぬ事への恐怖を味わっている。