z-Ori-gnf.jpg(3471 byte)    古影



 カルザ。
 知的生命体が住まうには、至って平凡なこの星は、しかし対外帝王機関が初めて設立された星とし
て、名を知られているだろう。
 初期段階でフロル人に発見され、そしてその時既に知的生命体がいた為、当時の記録もある程度は
残っている。この惑星の人々は、フロル人から直接白金卵を与えられ、外帝王の脅威を聞かされたの
だ。

 ――きゃー!アルちゃーん!素敵なお声!

 うぉい!勝手に入ってくんな!つーか、これ正式な記録なんだから、おかしな声を吹き込むな!と
いうか、気持ち悪い声を出すな!

 ――ひっどーい、俺はこんなにもアルを応援してるのにっ、もがっふがっ!

 お前ちょっと黙っとけ!
 ………おほん。
 聞き苦しい点をお詫びする。
 カルザ人はフロル人から直接EGGを与えられ、外帝王の脅威について聞かされた人々だ。彼らは
宇宙警備隊――今の宇宙銀河防衛機構の前身となる組織を立ち上げ、外帝王、及びそれ以外の宇宙の
安寧を乱す存在の取り締まりを進めた。
 宇宙警邏隊が発足した当時は、カルザには大勢のフロル人も住んでいた。宇宙警邏隊の半分以上は
フロル人が務めていたこともあってだろう。
 故郷を失ったばかりのフロル人は、カルザを新しい拠点として、そこから宇宙へと卵をばらまきに
行ったんだ。
 フロル人がカルザを拠点としたのは、カルザには既に高度な文明を持つ知的生命体がいた事が一番
の大きな理由だろう。フロル人はそれまでも卵を様々な惑星に産み付けていたが、その惑星にはまだ
知的生命体は芽生えておらず、フロル人は依然として彼らだけで外帝王に立ち向かっている状態だっ
た。
 おそらく、彼らは、共に戦える同志を捜していたのだろう。
 そして、ようやく見つけたのは、カルザだった。
 むろん、当時の記録を読み返すに、カルザ人はすぐさまフロル人の発言を信用したわけではないよ
うだ。カルザ人にしてみても、フロル人は初めて見る自分達以外の知的生命体だ。
 歓待したい気持ちはあったらだろうが、フロル人が友好的であるとは限らない。なので、接触時に
はかなり慎重を期し、最初の数か月間は書簡でのやり取りだったようだ。

 ――書簡って言うよりメールね。書簡って、アルちゃんってば古い。

 やかましいわ!
 お前は出てくんなって言っただろうが!
 えーと、とにかく、フロル人とカルザ人は、こういった書簡でのやり取りの後、次第に接触を深め
ていった。
 けれども、フロル人がカルザに常駐していたのは、一世紀ほどのことだ。フロル人はある程度の時
間が過ぎると、宇宙警邏隊をほぼカルザに移行し、再び宇宙の彼方へと飛び立っていった。
 現在、カルザにはフロル人は一人としていない。
 宇宙警邏隊――今の宇宙銀河防衛機構においては、数名のフロル人がいるようだが、ほぼ機密扱い
なので、俺達が彼らに会う事はないだろう。
 そもそも、この宇宙空間において、フロル人はもうほとんどいないのではないか。俺は、そう思っ
ている。いるとすれば、先に述べた宇宙銀河防衛機構の数名と、別惑星の数名、その程度ではないだ
ろうか。
 ほとんどの惑星にいるのは、フロル人の血を引き継いだ、銀の髪の混血だ。生粋のフロル人を見る
事はないだろう。
 実は、カルザには生粋フロル人の写真が残っている。
 しかし、これがフロル人の真の姿であるかは、分からない。
 何せ、写真に残っているフロル人の姿は、俺達の姿と大差ないからだ。もしかしたら、フロル人と
いうのは、その惑星の生命体に合わせて姿を変える事ができるのかもしれない。でなければ、その惑
星の知的生命体と交配して、子孫を残すなんて事はできないだろうからな。

 ――いやん、交配だなんて。アルちゃんたら、だ、い、た、ん!

 もうお前本当に黙れ!
 あー!最初から録り直しだ録り直し!誰かこいつを物置かどこかに閉じ込めてくれ!その間に、も
う一度、録音するから!
 え、何?録り直しするだけの容量がない?
 あー!もー!
 ルディ!てめぇの所為だぞ、どうすんだこの状況!俺達の惑星の記録が、お前の所為でとんでもな
い事に!

 ――えー、いーじゃん、別にー。誰もこんな堅苦しい記録開かねぇよー。

 あほー!そういう問題じゃないだろうが!というかこの記録の何処が堅苦しいんだ!お前のしょう
もない台詞の所為で、俺らはただのアホ丸出しだろうが!おらおら!




 EGG:ルドルフ・フリド
 年齢:72歳。
 出身惑星上、宇宙銀河防衛機構との繋がりが深いEGGであり、自らもその一翼を担っている。
 EGGとしては古参であるが、本人はその気が薄いのか、最新の流行にやたらと詳しい。また、非
常に軽いノリで話す為、宇宙銀河防衛機構の一部のスタッフからは反感を買う事もある。
 ただし、当の本人は、誰かからの反感には興味がなく、自分のやりたいようにやっている模様。
 EGGとなったのは十四歳の頃で、祖父であった先代から受け継いだ。
 カルザにおいてEGGは世襲制であり、ルドルフもまた、自分の血統の中から次代のEGGを選ぶ
予定である。ただ、近年、ルドルフが高齢である事も踏まえ、一族の誰がEGGとするか、EGGの
利権を狙った暗躍があるのも事実である。
 尤も、ルドルフはこうした暗躍を馬鹿にしており、これに加担した人物は追放する方針を取ってい
る。



 SEED:セオドリック・ナシフ
 年齢:73歳。
 元はルドルフの喧嘩仲間。我慢が嫌いなルドルフの代わりに、様々な雑用をこなす。
 非常に粗野な性格ではあるが、前述したようにルドルフの代わりに宇宙銀河防衛機構の一員として、
またEGGのSEEDとしての仕事を真面目にこなす一面も持っている。
 ルドルフの自由さに手を焼きながらも、しかし一方でルドルフについては誰よりも信頼している。