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星の子 |
ミンタカ。
太陽の周りを楕円を描く、まるで彗星のような軌道を持つ惑星だ。その為、太陽に近づく夏季と、
太陽から遠ざかる冬季の寒暖の差が激しい惑星でもある。
けれども、ミンタカを語る上では、惑星軌道など些末事に等しい。ミンタカは彗星のような軌道
を持つという事よりも、外帝王に破壊された星、として何よりも有名だからだ。
先程も述べたように、ミンタカは夏季と冬季の寒暖の差が激しい土地だ。しかし、ミンタカ人はそ
れら外気の影響を受けにくい、紫色の表皮を持っている。この表皮によって、ミンタカ人は太陽光線
の激しい夏季も、声さえ凍るような冬季も、外での活動を可能にしている。
そしてその表皮は、外帝王さえも受け付けない。
こう言ってしまうと、ミンタカ人は外帝王に対して圧倒的な優位にあると思われてしまうだろう。
そして、何故、外帝王によって破壊されてしまったのか、と。それは当時のミンタカ人も、思ってい
た事だと思う。外帝王の侵食を跳ね退ける自分達が、外帝王に負けるはずがない、と。
だが、その慢心が、勝敗の全てを決してしまったのだろう。
ミンタカ人の皮膚は、確かに外帝王を受け付けない。
だが、それだけだ。
それ以外の点においては、ミンタカ人はごくごく一般の知的生命体だった。
知的生命体は、大きく分けて四つに大別される。一般的人型生命体、非人型生命体、非言語型生命
体、集合型生命体。
ミンタカ人は、皮膚の強度を除けば、ごく一般の人型生命体だった。非人型生命体のように何か突
出した強度を持つわけでもなく、非言語型生命体のように特別な意思疎通をするわけでもない。また、
集合型生命体のように、自己の意識と他の意識が混ざり合っているわけでもない。
簡単に言ってしまえば、皮膚が強いだけで、それ以外は他の惑星生命体と大差ない。だから、外帝
王の侵食を受け付けなかったところで、圧倒的な武力を以て襲われてしまえば、他の惑星と同様の戦
いをしなくてはならなかった。
だが、外帝王の侵食を受けない、という一点に驕り高ぶった我々ミンタカ人は、その一点に拘り続
け、玉砕した。文字通り、惑星ごと、粉々に砕け散った。
他に何か、敗因の要素があったのではないか、と問われれば、正直思いつかない。
ミンタカには、古くからEGGがいた。
EGGがいつ頃からミンタカに現れたのか、それは最後の王朝ファヌンの初期にまで遡る。ファヌ
ン王朝の初代国王ファヌン一世が、夏季の砂漠で、一人の乙女に一杯の水を所望した。この乙女が、
EGGであったと言われている。
ファヌン一世は乙女を娶り、それから代々、ファヌン王朝の王はEGGを妻、或いは夫とするしき
たりとなっていた。そして、ファヌンの王はEGGのSEEDとなる。そういう、しきたりだ。
ミンタカ最後のEGG、シエラ・アルドゥクもまた、ファヌン王朝最後の王イーサン・ファヌンに
嫁ぐ予定だった。
此処で、イーサン・ファヌンについて説明しておこう。先程も言った通り、ファヌン王朝最後の王
だった。若干二十五歳で王の座を引き継いだ。若き王、という事で政治や様々な面で不安視する者も
いたが、イーサンはそれを跳ねのけ、王となってから半年後には、民衆に圧倒的な支持を得るように
なっていた。
文武両道、才色兼備。それが、イーサンに民衆が与えた称号だった。
そんなイーサンの妻となるべくだったのが、EGGであるシエラ。歴代の王は皆、EGGを伴侶と
してきたが、その子供がEGGとなる事はない。あくまで、EGGは外部から、という体裁を保った
わけだね。そこには色々な利権が絡んでいたのだろうけれど、それによる大きな問題は起こった事は
なかったようだから、割愛する。
とにかく、シエラは王族ではない。とはいえん、王族の血は引いているけれども、EGGを輩出す
る一族は、EGG本人以外は王族にはなれない。そういうふうにしている。シエラは、先代EGGの
弟の孫にあたる。
イーサンにとっても、当然の事ながら、そこまで遠くはない――ただし近くもない親戚にあたる。
シエラがEGGとなった時点で、シエラはイーサンの婚約者となった。それは、代々王家のしきた
りだ。拒む事はイーサンにもシエラにもできない。
尤も、イーサンはシエラの事を気に入っていたけれどもね。シエラを妻とする事を、心底から喜ん
でいた。
シエラは、EGGには当然の如く美しく、優しかった。そして王家内にいては持ちえない、ごく普
通の家庭的要素を持っていた。掃除をしたり、料理をしたり、そういうところが、イーサンにはとて
も新鮮だったのだろう。
尤も、シエラがイーサンの事をどう思っていたのかは、分からない。シエラはイーサンの婚約者と
して育てられてきて、彼女自身がそれを当然のこととして受け入れていたから、『他の誰か』が現れ
たらどうなるか、なんて誰にも分からなかった。
いずれにせよ、このまま何事もなければ、イーサンはシエラを妻として迎え入れ、そしてSEED
となっていた。
そのはずだった。
外帝王が、ミンタカを、侵略するまでは。
シエラが花嫁となる半年前の事だった。それは冬季の始まる頃だった。突如として空が割れ、禍々
しい黒色の、二つに引き裂かれた宇宙船が生えてきた。
最初は、事故で墜落した宇宙船だと、思っていた。けれども、墜落した割には、それはひたすらに
ゆっくりと地面へと降り立った。
その時、シエラが呟いた。「外帝王だ」と。
宣戦布告なんてものはなかった。ただ、ぞわぞわと、外帝王は星を侵食し始めた。草も、土も、悉
くが外帝王に呑まれていく。けれどもミンタカ人はそれをおいそれと受け入れはしなかった。我々は
武器を取り、外帝王に戦いを挑んだ。幸いにしてミンタカ人の皮膚は外帝王を寄せ付けない。決着は
すぐにでも着く、皆がそう思っていた。
だが、外帝王は仲間を呼んだ。外帝王ではない。外帝王に屈した星々の奴隷だった。その数は圧倒
的だった。仮にそれが尽きたとしても、その身体は外帝王に支配され、死してなお戦う。唯一それに
対抗するのはEGGによって転換される宇宙エネルギーだったけれども、我々のEGGは、戦う事に
さほど慣れてはいない。
それでも、シエラは頑張ってくれた。倒れるその直前まで、我等に宇宙エネルギーを供給し続けて
きた。
そのおかげで、一度は外帝王を退ける事に成功した。
それで、気を抜いていたのがいけなかったのだろうね。
外帝王は、時を待たず、再び襲ってきた。その時の奴らの狙いは、ミンタカを殲滅する事ではなく、
シエラただ一人だった。
外帝王が操るミサイルは、過たずシエラに直撃した。シエラの身体は、どれだけ捜しても骨の一片
さえ残らなかった。
この事が、イーサンの心を折ってしまった。今まで果敢に外帝王と戦ってきたイーサンは、シエラ
を失った事で、あっという間に戦う気力を失った。ミンタカは一気に外帝王に侵食され、最終的に何
もかもを外帝王に絞りつくされ、灰と化して崩れ去った。
生き残った人々は、宇宙にちりぢりとなり、そしてイーサンは廃人のような状態で、けれども全て
を憎みながら宇宙を漂流している。
………………。
先程、シエラの身体は、骨一つ残らなかった、と言ったね。
……………。
それは、ある意味、当然のことだった。
EGGには、EGGの意志に関わらず、偶発的にある事象を、ごく稀に引き起こしてしまう事があ
る。EGGが生命の危機に瀕している時に発生しやすくなるらしいんだけれど。
時空に割れ目を入れる。
EGG達は、己の意図せざるところで起こる現象を、そう、称している。
時空に割れ目を入れ、時を超えてしまう。
そうそう簡単に、引き起こせることではないのだけれども。外帝王に襲われた時、シエラの中には
己の生命を守る為に、別の次元へと向かおうとする何かしらが働いたのではないだろうか。そしてそ
れに、別のEGGが答えたとしたら………?
ミンタカの残骸を、我々は少し前に見つけた。地球人達と共に残骸を調査している時に、時空の割
れ目が発生した。
我々は、それは共に調査に向かっていた地球のEGGに何か危険が迫り、それ故に時空の割れ目を
引き起こしたのだと、そう勝手に思っていた――彼は、我々よりも遥かに強いのだから、そんな事は
まあ、ないのにね。
時空の割れ目に消えてしまった彼の痕跡を辿っているうちに、彼は、帰ってきた。
ミサイルで粉々になったはずの、シエラを連れて。
これが、正しい事なのか、我々には分からない。我々は、シエラの帰還に喜ぶが、シエラと彼女の
帰還を手助けした地球のEGGの中には、微かな後悔がある。彼らの中には、未来と過去を変えてし
まったという罪悪感が渦巻いているようだ。
我々が見ているシエラは、過去の人物だ。
それは、シエラが一番よく分かっている。だから彼女は、イーサンと再び出会ってもイーサンをS
EEDとはしないし、その他誰かをSEEDとしようとは、
――何を言うか!シエラのSEEDはこの私だ!
っ、ちょっ!
――何度でも言うぞー!私がシエラのSEEDだ!
ちょっと、何勝手に割り込んでるのさ!あっち行ってよ、兄さん!
――黙れ!ミンタカについての記録を録るというから黙って聞いていれば、途中までは良かったも
のの!何をシエラのSEEDはいない的な事を言っているのだ!
事実じゃないか!っていうかマイクを奪おうとしないで!
あー!もう!
義姉さーん!シエラ義姉さーん!兄さんがまた暴走し始めてるー!とーめーてー!
ガタッ!バコッ!スババババ!
………ツー、ツー、ツー。
『EGG』 シエラ・アルドゥク。
年齢:25歳 (外帝王に殺されたと思われていた時の年齢)
ミンタカの王に代々嫁いできたEGGの一族。EGGとなった時から、既にイーサンの婚約者とし
て定められており、当人もその当時は当然と事と思って受け入れていた。
しかし、外帝王のミンタカ侵略の際に、ミサイルで狙撃されて死亡。
したかに思われていたが、時空の割れ目によって当時に吹き飛ばされてきた地球のEGGにより、
死亡を阻止され、そのまま現在へとやって来た。
現在において自分が死者である事を知ってか、物事に対して何処か達観したふうを見せる。
また、結婚する前に死に別れた事になっていたイーサンに対しても、今後SEEDとする素振りを
見せない。
一方、自分を現在に連れてきてしまった地球のEGGに対しては、同じEGGとして、また過去と
未来を変えた共犯者として親しみを見せており、自分と同じく、色々とイレギュラーな彼の相談相手
となっている。
地球のEGGに対する彼女の感情について、同じEGGとしての親しみなのか、それとも情に近い
のかは分からない。イーサンの妹であるリーザに指摘されても、はぐらかしている。しかし、いずれ
にせよ、シエラは現在の誰かと結ばれるつもりはない。
彼女は過去の人間であり、いつ、あのミサイルの間際に帰ってしまうか分からないからだ。
『SEED』 不在
シエラのSEEDは、彼女とイーサンが無事に婚姻を結んでいれば、イーサンが鳴る予定であった。
しかしその前に外帝王の襲撃を受け、シエラは死亡(本当は現在に飛ばされただけ)。
故にシエラにはSEEDはいない。