z-Ori-gnd.jpg(5365 byte)    氷の女王



 ミアプラキドゥス。
 太陽から程遠く、地表は常にマイナス三千度の外気温に曝された氷の惑星です。
 人々の大半は地下深くに『コロニー』と呼ばれる居住空間を造り、そこで社会生活を行っています。
マイナス三千度の地表に対し、コロニー内部は、コロニーの壁に埋め込まれた保温材料によって、一
定の気温が保たれています。この保温材料は温度を一定に保つだけではなく、地下水の染み出しや地
盤の緩みなどを支える役割も果たしているため、定期的にひび割れ等の劣化がないか、確認作業が行
われます。
 もしも、劣化が確認された場合、保温材料は速やかに取り換えられるのですが、この保温材料の原
料が取れるのは、極寒の地表です。
 マイナス三千度の世界。
 ミアプラキドゥス人の祖先は、生命悉くが凍り付く世界から、保温材料である『コトトルク』と呼
ばれる 物質を発見しました。



 ミアプラキドゥスの歴史は、そのほとんどが凍てつく世界との戦いでした。
 ミアプラキドゥスには、春夏秋冬の概念はありません。常に、凍れる時代なのです。生命が謳歌で
きる惑星ではありません。
 しかし不思議なもので、そのような世界であっても生命とは誕生できるのです。深い深い地面の底
で、ミアプラキドゥスの生命は誕生しました。常に地面の中で暮らす彼らには、地表という言葉は持
たないはずでした。
 けれども、知的生命体が一度現れたなら。知的生命体のほとんどがそうであるように、彼らは己の
好奇心と、己の境遇を満たす為に、世界を渡り歩きました。
 その旅路のほとんどが、最初は地面の中で行われました。まずは地下にできた穴の中を這い進み、
そこで人々は肩を寄せ合って暖を取り、心地よい場所を探しました。これが、初期のコロニーです。
 やがて、自ら地面を掘り進み、もっと大勢の人が集まって暮らせる場所を造ろうとしました。
 人々は、地下で社会形成を作り上げていきました。
 しかしこの当時は、まだ『コトトルク』はなく、人々は寒さの為、長くは生きる事ができなかった
といいます。また、子供の死亡率も非常に高く、子供が五人生まれれば、そのうち三人は、死んでし
まうという確率でした。
 当然、人々はどうにかして己の境遇を、更により良いものにしようと、様々なものを作りました。
暖房器具や保温設備などは、真っ先に整えられました。
 ですがそれらを使い続けるには膨大な費用がかかり、その恩恵に預かるのは一部の富裕層に限られ
ました。また、地下で暮らす彼らには常に地盤沈下や地下水による湿潤の危険が付き纏います。これ
ら外部からの圧力によって、潰れたコロニーは幾つも存在しました。
 溶岩が流れ込んでコロニーの住人が全滅した『アルルキアの悲劇』は、今なお、語り継がれる災害
です。
 こうした事も踏まえて、より安価な保温設備、そしてコロニー外壁を強固とする素材が求められて
いました。
 人々は、これらをクリアする素材を求め、地下を掘り進めます。掘り進めるにあたって、当然の事
ながら『アルルキアの悲劇』と同様の出来事が、採掘部隊に襲い掛かり、犠牲者が出る事もありまし
た。
 その最中、『ラヌアカーンの大地震』と呼ばれる地震が、ミアプラキドゥスを襲いました。この地
震により、幾つかのコロニーが潰れたと言われていますが、その被害の実態は未だに不明です。いず
れにせよ、多くの犠牲者が出た事は確かであり、そして更なる悲劇の幕開けであったと言えます。
 この『ラヌアカーンの大地震』の原因は、隕石の衝突でした。
 そして、その隕石に乗っていたものこそ『外帝王』。宇宙全ての敵でした。

 

 この時から、ミアプラキドゥスは激戦区になりました。これまで、ミアプラキドゥスの人々はコロ
ニーの奪い合いなどで争いを行う事はありましたが、それ以上に寒さや地下住居故の災害と戦わねば
ならなかったため、大規模な戦争というものをした事がなかったのです。
 故に、武器も少なく、戦い方を知る者も多くはいません。
 尤も、全てに寄生する外帝王相手に、普通の戦い方はあまり意味を成さなかったのですが。
 寒さと外帝王に襲われて、ミアプラキドゥスの人々は見る間に疲弊していきました。人口の三分の
一が最初の一年で失われ、次の一年では残りの人口の半分が息絶えました。
 おそらく、このままいけばミアプラキドゥスは壊滅し、惑星ごと外帝王に寄生されていたでしょう。
 ですが、そうはならなかった。
 三年目の終わりの事です。
 それは、破滅が目前に迫った時の事でした。
 人々は数えられるほどしか残っていないコロニーに身を寄せ合い、己の死と向き合っていました。
そのコロニーの一つは、採掘の最先端――もう少しで、地表に出られるのではないか、と言うほどに
掘り進められた採掘現場がありました。地表の近くですから、そこはとても寒く、普通ならば入れぬ
場所です。しかし、そこに向かうしかないほど、人々は外帝王に追い詰められていた。
 けれども、おかしい。もう少しで地表に辿り着く場所であるにも関わらず、その場所は、確かに寒
いけれども、人が歩けるほどの気力を持てるほどの、温度だったのです。
 それは、偶然の、僥倖でした。
 その場所こそ、後の『コトトルク』の採掘場所となる場所でした。
 そして。
『コトトルク』に覆われるようにして、白金卵――『EGG』が存在していました。
 しかし、『EGG』に選ばれるのは、銀髪の女子供です。『EGG』が目の前に存在していようと
も、選ばれる者がいなければ意味がない。
 だから、僥倖、だったのです。
 その採掘場には、銀髪の子供がいました。子供の家族は、地下を掘り進める一族だったのです。



 こうして、ミアプラキドゥスは『EGG』を得ました。
 そして、外帝王を退け、一度は滅亡に突き進んだ道を引き返し、繁栄の道を模索し始めたのです。





『EGG』 エリシエンヌ・コトトルク。
 年齢:62歳。
 地下採掘の一族であり、初めて『EGG』に触れた子供の子孫である。
『EGG』となったのは10歳の頃であり、それから50年近く、ミアプラキドゥスに外帝王の防壁とな
る氷の嵐を生み出してきた。
 保温材料であるコトトルクの名は、彼女の一族に敬意を表して付けられたものである。
 年齢は62歳だが、外見は25歳くらいの頃から変化しておらず、婀娜っぽい妖艶な女性のままである。
 面倒見の良い性格で、他の惑星の新しい『EGG』に、色々と物を教えたりしている。また、長ら
く『EGG』として生きてきた事もあり、権力争いからの身を護るコツも知っている。
 つい最近『EGG』となった地球の『EGG』には、かなりの興味を持っており、年長者らしく口
を出す事もしばしば。
 数年前に『SEED』である夫を亡くしており、その際に己の年齢も考慮し、二人目の『SEED』
は持つつもりはなかった。
 しかし、夫の甥であるロノリアが余命数年の病であり、ロノリアの延命希望もあって、ダメ元で心
臓を貫いたところ、『SEED』となった。
 エリシエンヌ自身の戦闘力は大きなものではないが、彼女が生み出す氷の嵐は外帝王さえも凍てつ
かせる力を持つ。
 なお、亡くなった夫との間には二人の子供がいるが、彼らとはほとんど会っていない。彼女が亡く
なった時、彼らの子供が次代の『EGG』となるのだろう。




『SEED』 ロノリア・ウルス。
 年齢:27歳。
 エリシエンヌの夫方の甥。
 幼少の頃から病弱で、少し動いては寝たきりという生活を送っていたが、数年前に余命数ヶ月の宣
告をされた際、エリシエンヌに『SEED』になりたいと告げた。
『SEED』となれば、大抵の病は克服できるため、延命措置の為、懇願した。
 エリシエンヌは夫を亡くして以降、己の年齢を考慮し『SEED』は持たないと決めていたが、ロ
ノリアから、それでも数十年は生きる事が出来ると言われ、ダメ元で彼の心臓を貫いたところ、『S
EED』となる事が出来た。
『SEED』となって以降は、エリシエンヌを守る為に剣術に励んでいる。
 非常に温厚で丁寧な性格だが、エリシエンヌに『SEED』を懇願したことからも、少しばかり頑
固なところがある。
 また、エリシエンヌと同じく自分よりも後に『SEED』となった者には、穏やかな口調で忠告を
したりしている。