z-Ori-gin-1.jpg(6303 byte)     森の妖精



 アンク・アル・バナト。
 太陽系の隣の銀河に存在する惑星の名前である。
 水と緑豊かなこの星は、六つの衛星を持ち、一つの恒星の周りを224日間かけて一周する。
 気候の変動は比較的穏やかで、砂漠地帯や寒冷地帯でもない限り、年間の気温変化は30度以内にお
さまる。
 生物にとって非常に過ごしやすい惑星であるが、一点だけ他の星にない特徴があるとすれば、陸地
がほぼ平地であることだろうか。故に、潮の満ち引きよる影響が激しく、海岸線は満ち潮の時は完全
に水没する。
 陸上で生きる生物、植物は海岸線沿いを避けて、内陸で発達、進化を遂げている。事実、内陸では
深い森が多数存在している。
 一方で、生活圏が限られているため、知的生命体の間では居住区を巡って、幾度とない争いが繰り
広げられてきた。
 特に、近代まで続き、最近ようやく和平が結ばれた、ウオフ・ナフ共和国とドルメ合衆国の争いが
有名である。
 アンク・アル・バナトには三つの大陸があるのだが、ウオフ・ナフ共和国のある南の大陸に、東の
大陸に存在しているドルメ合衆国が自国民を入植させようとしたことが、そして入植者がウオフ・ナ
フ人を殺害したことが、争いの発端である。
 ウオフ・ナフ共和国は数百年の歴史を持つ国家であり、その歴史の中で『EGG』に接触した。三
代目大統領カウェン・オンフは、自国内に有している最古の原生林パジェヌスを視察中、銀髪の乙女
と出会った。銀髪の乙女は、近い将来に虚空より禍々しき者――『外帝王』が現れるであろう事を告
げた。大統領は乙女を連れて帰り、丁重にもてなした。
 そして数十年後、乙女の告げた通り『外帝王』は虚空よりやってきた。そしてこれと同時期に、ド
ルメ合衆国が海に侵食されぬ土地を求めて、他国への侵略を開始。
 外帝王との戦いが激化する中、ドルメ合衆国はウオフ・ナフ共和国への入植を開始。その際に、入
植者ダキーラ・ヴォンがウオフ・ナフ共和国の国民を刺殺するという事件が起こる。
 ウオフ・ナフの国民はこれに激怒。
 かくして、ウオフ・ナフ共和国とドルメ合衆国、そして外帝王を含む三者の争いが勃発した。
 ところで、ここで一つの噂がある。安定した土地を求めて他国への侵略を開始したドルメ合衆国だ
が、実はその内政に関わる者達は、既に外帝王に感染し、支配されていたのではないかというのだ。
 何故このような噂が囁かれているのかと言えば、戦争の発端となった殺人事件――この被害者は、
銀髪の乙女――即ち『EGG』の弟であったからだ。
 アンク・アル・バナトの『EGG』とその家族は、森深くに住んでいた。『EGG』たる銀の乙女
は大統領に見出されて以降、大統領府の近くに住んでいたが、彼女の家族は引き続き森で暮らしてい
た。原生林の深くにまで、わざわざ入植者が入り込んで、殺人を犯すだろうか。意図的に、銀の乙女
の家族を狙ったのではないか、そしてそのような事をして特をするのは外帝王に他ならない。
 もう一つ。
 つい先頃、ウオフ・ナフ共和国とドルメ合衆国は和平を結んだ。ドルメ合衆国の戦争指揮を取って
いたゴライエ・ダグ大統領が死亡したのだ。この死亡の際、大統領の近くにいたのは他の惑星よりや
って来た『EGG』だった。
 激化する争いの最中、銀の乙女は死亡し、世代交代を行っていた。現代の『EGG』に選ばれたの
は乙女の玄孫。森の中に住まう妖精のような少女。
 少女はこの争いが外帝王に侵食されている事を悟り、他の惑星の『EGG』に救援を求め、宇宙へ
出た。
 少女が選んだ惑星は、地球。
 少女の要請に応じた地球の『EGG』は、アンク・アル・バナトへ向かい、ドルメ合衆国のゴライ
エ大統領に面会した。そしてその時、彼は、大統領に『EGG』の浄化を施していた、と目撃者は語
っている。
 浄化を施していた、という事はゴライエ大統領は、外帝王に感染していたのではないか。そして手
遅れであったから、死亡していたのではないか。
 そう、噂されている。
 いずれにせよ、地球の救援により、外帝王はアンク・アル・バナトから撤退。ウオフ・ナフ共和国
とドルメ合衆国は和平を結び、争いは終結した。
 この時、『EGG』である少女の『SEED』と、幼馴染が死亡した事は、あまり知られていない。




『EGG』 フィエル・アンク。
 年齢:16歳。
 初めて人の前に現れた『EGG』である銀の乙女の玄孫にあたる。歴代の『EGG』と同様、『E
GG』となるまでは、古き森パジェヌスで家族と共に暮らしていた。
 姉が一人いるが、『EGG』の継承をフィエルと争い、その際に死亡している。
『EGG』を継承後、姉の恋人と性交渉に及び、彼を『SEED』とするも、生来の引っ込み思案な
性格の為、ほぼ『SEED』の言いなりのようになってしまっていた。

「あいつの事が好きだったのか?」
「分からない。ただ、彼はとても美しくて、憧れていたわ。」

 地球の『EGG』からの問いかけに、彼女はこのように答えている。
 そんな彼女を『SEED』から介抱しようとした幼馴染は、元々彼女に好意を寄せていたが、残念
ながらその想いは、美しい『SEED』を前にして実らなかった。それでも少女を救おうと、ドルメ
合衆国に寝返り、『SEED』を襲う。
 この際に、地球の『EGG』の仲間を傷付けようとしたことで、『SEED』と幼馴染は、地球の
『EGG』に倒されたところを外帝王に乗っ取られ、二人が外帝王に乗っ取られた事を知った人々に
射殺される。
 この件はフィエルにとっては大きな衝撃となったが、それでも地球の『EGG』の助けを借りて、
ドルメ合衆国の大統領を斃す事に成功した。
 これらの件からも分かるように、フィエル自身は『EGG』としての意志は強くなく、周囲の意見
に流されがちな面がある。
 これは後日分かったことなのだが、フィエルの姉の恋人にして、彼女の『SEED』である男は、
典型的な『SEED』になって権力を欲しいままにしようとする男だった。この男は、姉の死に対し
て罪悪感を持つフィエルに取り入り――むしろ姉よりも意志の弱いフィエルのほうが好都合だったの
かもしれない――『EGG』の力を自分の物にしようとしていたようだ。
 フィエルの周囲にいる者達も、ほとんどが保身や戦争の事を考えてフィエルを動かそうとする者ば
かりで、彼女の『EGG』としての成長を促す者はいなかった。いたとしても、フィエル自身にそれ
を聞き入れるだけの余裕があったかは疑問だ。
 幸いにして、戦争が終わり、外帝王が一時的に撤退した事で、彼女にも幾分余裕ができた。また、
地球の『EGG』の振る舞いに、多少感化されたところがあったようだ。自ら戦おうとする意志を、
微かにではあるが見せ始めた。
 フィエルは一人目の『SEED』を失ったが、すぐに二人目の『SEED』を見出す事が出来た。
 彼女の姉の親友であり、彼女を実の妹のように可愛がってくれていた女性である。




『SEED』 アイネス・ネフト。
 25歳。
『EGG』フィエルの二人目の『SEED』である。
 もとはフィエルの姉の親友であり、彼女とフィエルが『EGG』を争った時は姉の応援をしていた。
 しかし、フィエルが姉に殺されかけた時はその身を挺して庇う。
 大統領府の護衛官であり、『EGG』となったフィエルの身近にいる存在ともなったが、フィエル
は姉の元恋人に夢中になっており、アイネスの言葉には耳も貸さなかった。
 フィエルが他の惑星の『EGG』の手を借りに行く、と告げた時は、他の惑星を自分達の争いに巻
き込むのか、と咎めた。
 地球人が、自分達の身代わりに外帝王に差し出されるという案を聞いた時は、命令に反して地球人
を助けに向かい、逃がそうとするなど義侠心に溢れた人物。
 戦争が終わった後に、フィエルに心臓を刺し貫かれ『SEED』となる。
 得意武器は槍。
 フィエルから与えられた加護は『信任の涙』。