別当に抱えあげられようとしている水守は、特に抵抗しているわけではないが、何せ巨大であるの
で抱え上げるのも一苦労である。リショウも、むにを抱えているので分かる。
 脇の下に手を差し込まれて持ち上げられた水守は、円らな眼でリショウとむにを見ている。その水
守の視線の向きに気が付いたのか、別当も顔を上げてリショウを見た。水守を抱えた男二人が、屋敷
の玄関先で見つめ合う。
 しばらく、凝然とした沈黙が落ちた。
 それを破ったのは、むにの、きぃ、という鳴き声である。たまよりも幾分か野太い声であった。
 我に返った人間達は、互いに挨拶する。流石に水守を抱え上げた状態では失礼に当たるので、苦労
して持ち上げた水守は床に降ろして。
 リショウは軽く礼をして、
「この度はお招きいただき光栄にございます。私は原庵医師の元で世話になっているリショウと申す
者……。」
「あ、ああ、硬い挨拶はせんでも良い。第一、昼間会ったであろうに。それに大体の事はナチハより
聞いておる。」
 ぱたぱたと手を振りながら居住まいを正した別当は、こちらはこちらで一礼する。
「それよりも、私のほうも挨拶が遅れた。私は瀬津郷の別当を任されているスイトと申す。今年より
この地に配属された。若輩故至らぬところもあるだろうが、宜しく頼み申す。」
 堅苦しい挨拶はいらないと言った別当本人が、非常に堅苦しい台詞を吐いていく。礼も、リショウ
のしたそれよりも遥かに丁寧だ。
 硬い別当の様子に、リショウは苦笑すればいいのかどうすれば良いのか分からない。困惑するリシ
ョウを他所に、別当は更に言葉を紡いでいく。
「また、此度はこちらの招きに応じて頂き有り難く存じる。突然の招きを不快に思われたかもしれな
いが……。」
 きぃ。
 長々と語り出しそうな別当の言葉を遮るように、人間の脚元で、水守が鳴く。鳴いたのはむにだ。
一声鳴くと、むにはのそのそと歩き始める。それを合図に、別当の脚元にいた水守も動き始める。く
るりと後ろを向いて――その時に別当の脚を尻尾ではたき――むにと連れだって、勝手に屋敷の奥に
進み始める。
「あ!待て!」
 これに反抗したのは別当だ。水守に屋敷内を勝手にうろつかれるのは我慢ならないのか、のしのし
進んでいく巨大水守達を止めようと、手を伸ばすがリショウを放置するわけにもいかなかったのか、
手を背後に彷徨させながら身体はリショウのほうを向いているという奇妙な体勢になっている。
 しかしこの場合、非は別当にはない。むしろリショウのほうである。
「申し訳ない。こちらの水守が勝手に押し入った。」
「いや、それは良いのだ。」
 額に手を当てながら、今にも溜め息を吐きそうな要するで別当は答える。だが、水守の行動を咎め
ている時ではないと思い至ったのか、一つ首を振ると、改めてリショウに向き直った。
「見苦しいところを見せた。奥の座敷に席を設けている。どうか、このまま奥へ。」
 予想はしていたが、このまま食事の席に向かう事になるようだ。原庵には瀬津郷の事を知る良い機
会だと言われ、リショウも確かにそうだとは思っている。しかし一方で、昼間の商船について――と
いうか、主にテオドロとかいう異国人が、リショウが礼を断った事を別当に告げ口している場合、少
々面倒臭い。
 別当は異国の商船を、別当の仕事として当然の事ながら手厚く保護している。ましてあの商船は東
の都、ひいては帝への献上品を積んでいたのだ。普通ならば商人一人一人の愚痴までは細かくは聞か
ないだろうが、今回ばかりはいつも以上に手厚い保護――それこそ一人一人の愚痴を聞き入れるくら
いに――をする事だろう。
 それを考えると、少しばかり気が乗らないが、しかしむにが奥に行ってしまった以上、リショウも
屋敷に上がるしかない。
 仕方ない、と思いながら別当の後をついていくうちに、ふと妙な事に気が付いた。
 自分を案内しているのは別当である。しかし、別当自ら客人を案内したりするだろうか。いくら無
礼な水守を追いかけてきて、そのついでとはいえ。
 視線だけで辺りを見回せば、屋敷の中はしんと静まり返っている。リショウを原庵の診療所から屋
敷まで案内した若者の姿は既に何処にもない。ただ、遠くのほうで辛うじて誰かが動く気配が聞こえ
るだけだ。
 リショウが別当の後姿に、疲れ切った影を見て取った時、ふいに別当が振り返った。
「こちらだ。」
 するりと別当の手が襖を開き、リショウを中へと招き入れる。
 通された部屋は広々としており、部屋の真ん中には黒い漆塗りの卓が一つ置かれており、壁には高
価そうな掛軸が垂れ下がっている。しかし、それらが置かれてあっても十分に広い。庭に面している
障子も全て開け放たれているから余計に広く――そして寒々しく感じた。
 別当に紫色の柔らかい座布団を進められ、リショウはそこに座る。その横には、既にむにが鎮座し
ていた。むにの向かいには、この屋敷の水守が座っている。
 自分達よりも先に部屋の中に治まっている水守に、別当は顔を顰めたが、しかし何も言わなかった。
 人間達も部屋の中に治まった頃、それを見計らったかのように女中達が次々とやって来て、料理を
卓の上に乗せていく。
 季節の野菜の酢の物やら、木の実を入れた炊き込みご飯、鳥の焼き物に鯛のつくねを浮かべた吸い
物やら、普段リショウが食べる物からは格段に値段が高いであろう料理である。そしてそれと同じ物
が、水守の前にも並べられていく。
 最後、朱塗りの盃に並々と酒が注がれる。当然の事ながら、それらもやはり水守の前に置かれる。
 二匹の丸っこい巨大なトカゲの前に置かれた人間と同じ料理に、別当が苦い表情を浮かべているの
を他所に、女中達はつんと澄ました表情を崩さず、座敷から出ていった。
 寒々しいその様子に、リショウは合点がいった。
 先程からリショウの前に現れる、案内役や女中は、別当のそもそもの家人ではないのだ。この屋敷
に勤めている事に間違いはないだろうが、別当がこちらに配属される時に連れて
きた家人ではない。
 おそらく、瀬津郷に住む――もしかしたらずっとこの屋敷を任されてきた者達なのかもしれない。
だから水守に対しても軽くあしらいもしないし、料理もきちんとしたものを出す。これは、瀬津郷の
外から来る者にとっては一見奇異に見える事だろう。
 何せ、水守は確かに瀬津郷の者にとってはヒルコ大神の化身ではあるが、他所から来た者にとって
は、白いトカゲにしか見えないのだから。
 その、他所から来た者として、瀬津郷の者からはやや疎んじられているらしい別当は、随分と苦労
しているようだ。水守に振り回されているところからも、良く伺える。
「この、水守は?」
 席に着いて、開口一番これは無礼かな、とリショウは思ったが、別当は気にしなかったようである。
苦い顔を崩しもせず、この屋敷に住み着いているものらしい、と答えた。
 どうやら、うね、と周囲から呼ばれているこの水守は、別当スイトの先代、更にはその前からずっ
とこの屋敷に住み着いているらしい。原庵の診療所に住み着くむにと同じである。
「奇怪な生類がいるという事は、此処に来る前から聞いていて知っておった。それにこの屋敷に来る
前に訪れた、宮様方の住む社にも、たくさんいたからな。うねを見ても左程驚きはしなかったが。」
 スイトが別当の屋敷に辿り着いた時、うねは庭の柳の下で、とぐろを巻いて尻尾の上に顎を乗せ、
スイトを円らな眼で見ていたという。
「確かに奇妙だが、醜悪な姿をしているわけでもない。それに私は、生類が嫌いなわけではない。昔
は犬も猫も飼っていた。だから、うねを邪険するつもりは全くない。」
 だが、それでは駄目だったのだ。
 リショウの心の声と、スイトの言葉が重なる。
 水守は犬猫ではないのだ。犬猫よりも強かに人々の間に潜り込み、犬猫よりも遥かに聡く人々の声
を聴く。犬猫のように『飼える』ものではない。
 失礼、とはっとしたようにスイトが別当の顔に戻る。
「いや、このような話を聞かせる為に呼んだわけではないのだ。今の話は忘れて頂きたい」
 確かに、今日会ったばかりの者に、しかも食事の席でいきなり愚痴と思しき言葉を吐き出すのはな
いだろう。
 しかし、リショウは若い別当殿の苦労を見て取って、軽く盃を掲げて、いいや、と答えた。
「水守が難儀な性格をしている事は、ままある事。だが、この郷ではなかなかそれについて話す事は
出来ないだろう。俺はこの地の者ではないから、精々吐き出せば良い。」
 少々偉そうだったかな、とリショウは思ったが、しかし相手が役人であるからといって、不必要に
頭を下げるような性格もしていない。そもそも、いきなり呼び出されたのはこちらである。非礼はど
ちらかといえば、別当側にある。まあ、むにが勝手に屋敷に入り込んだのは、リショウの非だが。
 けれども、別当スイトは、リショウの言葉遣いなどは気にせず、リショウの話す内容にあからさま
に安堵したような――気の抜けた表情を浮かべた。
 どうやら、この若い別当は生真面目さから愚痴一つ零せずにいたらしい。スイトの生真面目さだけ
ではなく、この屋敷に住まっている瀬津郷の住人達の耳に届くとややこしい事になるという事も噛ん
でいるのかもしれないが。
 リショウは、ちらりと閉ざされた襖に視線を向ける。流石に、客人との会話を盗み聞きするほどの
不躾な輩はいないようだ。襖の向こうからは、誰の気配もしない。
 盃に注がれた酒を、ずずっと啜っているうねを見下ろしながら、スイトは溜め息を吐く。
「別にうねの性格が難儀だと思ったことはない。うねは犬や猫に比べれば随分と大人しい。鳴き声が
うるさいわけでもないし、悪戯をするわけでもない。」
「へえ。」
 鳴き声がうるさくない事には同意するが、大人しいとか悪戯をしない、という点には同意しかねる。
何度も水守に飛び掛かられたり、尻尾で叩かれたりしたリショウにとっては、水守はそうそう大人し
い生類ではない。リショウが知っている水守が、偶々、そういう正確なだけかもしれないが。
「とはいえ、やはり生き物だ。仕事の邪魔をしたりはしないが、私が客人と会ったり、仕事をしてい
たりすると、今のように部屋に入ってきたり、客人の前に姿を現したりするのだ。それはいけない。
こちらの威厳や相手への礼節にも関わる。」
「はあ。」
 水守を張り付けて仕事に向かっているリショウには、さほど重大であるとは思えないことである。
というか、瀬津郷に住む人間は、水守を張り付けていても特に気にしないだろう。
 そう思っていると、やはりそうだったのか、別当の愚痴は瀬津郷の人間に向けてに移行していく。
「そう思って私はうねを躾けようとするのだが、それをすると家人達は快く思わんのだ。」
「家人達は、この郷の出身者なのか?」
「そうだ。この家を代々世話する者達で、私の家人ではない。宮家に属する者達だ。」
 私の家人も勿論いるが、と少々拗ねたような口調になったスイトに、リショウは己の考えが正しか
った事を悟る。
 やはりそうだったのだ。この家の家人の立ち位置は、宮家に属するという者達のほうが圧倒的に強
いのだろう。彼らはスイトの家人に口出させぬように振る舞っているに違いない。
「彼らは、うねのする事には口を出さない。うねをまるで人間と同等に扱っている。食べる物も、何
もかも。いやもしかしたら人間以上に扱っているのかもしれん。」
 むろん水守がこの郷にてなんと言われているかは知っている、とスイトは言う。
「しかし、だからといって今の扱いは異常である気がする。」
 スイトの言葉に、ちら、とうねが眼をそちらに向ける。円らな眼からは何を考えているのか読み取
れないが、しかし、少なくともスイトを不愉快に思っているという節はない。水守は、嫌いな者には
近寄りもしない。そう、聞いている。
 ぼす、とリショウの膝に、むにが顎を乗せてこちらを見上げている。むにの盃は空だ。催促されて
いると理解したリショウは、その盃に酒を注いでやる。その様子を、スイトが何やら物言いたげに見
ている。
「郷に入れば郷に従え、と言うだろう。それはこの国の言葉だが、似たような言葉は大陸の西の果て
にもある。何処に行っても、その国のやり方にはある程度従ったほうが良い。そういう事だ。」
 若い別当の視線をいなしながら、うねの盃にも酒を注いでやる。うねは、やはり円らな眼でリショ
ウを見つめた。
 スイトは、リショウの言葉を反芻しているようだったが、ふと大陸の言葉で思い出したのか、そう
いえばと声を出した。
「テオドロ殿が、そちらに伺っただろう。」
 テオドロの名が出た途端、今度はリショウが苦虫を噛み潰したような表情をした。あの異人は、や
はり別当に泣きついたのだ。
 頷くリショウに、スイトは続ける。
「私の元にもやって来られて、そちらに礼をしに伺ったが、追い返されたと困惑しておられたぞ。」
 追い返したとは酷い言い草だ。礼として手渡された物を、受け取れぬと言っただけではないか。
「受け取る謂れもない物を受け取る事は出来ない。」
 リショウが言うと、スイトは首を傾げた。
「船を見つけたのだから、礼をするには十分だと思うが。」
「逆に言うなら、見つけただけだ。船を海に戻したわけでもないし、別当殿のように彼らに親身にな
ったわけでもない。」
「私は、それが仕事だ。それに瀬津郷の者達は彼らから礼など貰おうとは思わないだろう。彼らは宮
家の客人なのだからな。」
「そうなのか?」
「今代の宮のはとこに当たる方の客人だ。だから私も、万全を期して対応しているのだが。」
 都に献上品を送る商人だと聞いていたが、宮家の客人でもあったというのは初耳だった。しかし、
そのわりには漁師やナチハの、テオドロ達に対する態度は好意的なものではなかった。
 そう言えば、スイトも思い当たる節があったのか、首を傾げた。
「確かに……。テオドロ殿達が宮家の客人である事は、検非違使は皆知っているはず。しかし、妙に
気乗りしないふうではあったな。」
「思い当たる事はないのか?」
「さて……私も実を言えば、そこまで宮家の事情には詳しくはない。むろん、宮家の方々がどのよう
な方であるかは知識として知っているが。」
 余所者には分からぬ、宮家内での事情とやらが渦巻いているのかもしれない。
「そういえば、船は海に戻せたのか?」
 問うと、別当は溜め息を吐いて頷いた。
「どうにか、商人達が自力で戻した。随分とぼろぼろになってしまっていて、修理が必要だと思うの
だが、それも自分達ですると言い張って、随分と漁師達に呆れられていた。」
 船の技術が盗まれるのが嫌だ、と言っていたが、その言葉のおかげでますます心証が悪くなってし
まったらしい。
 難儀なことだ、と別当は力なく笑った。
 随分と参っているらしいスイトの笑みに、リショウは黙って酒を啜る。なんだろうか、妙な感じが
する。スイトの言葉に、ではない。異国からやって来た商人達の近辺についてが、だ。宮家の客人で
ある以上、滅多なことはないとは思うのだが、どうも、きな臭い。
「その、テオドロを客人にしている宮家の……今の宮様のはとこっていうのは、どういう方なんだ?」
 良くは知らない、と言っても、多少の知識はあるだろう。少なくとも、リショウよりかは。
 すると、スイトは首を傾げ、眉間に皺を寄せながら答えた。
「ううむ。今の宮様の先代の従弟の長男なのだが。私も一度お目にかかったことがあるだけで、どの
ような人柄であるかは知らん。ただ、妾腹であるらしく、苦労はされたらしい。」
 権力者が、跡継ぎのために妾を囲うのは良くある事だ。しかし、はとこまで血が分かたれたのなら、
妾腹など必要もない気がするが。
「はとこであっても、宮家として扱われるんだな。」
「男ならば市井に降りぬ限り、女ならば嫁がぬ限りは、宮家の血を引く限りは宮家のままだ。辿れぬ
ほど遠くにいかぬ限りは。」
 つまり、リショウほど遠く離れてしまえば、宮家とは言われないわけだ。いや、そもそも血を辿る
ことができないから、宮家の者であるという証明ができない。
 ふと、思いついて問う。
「……市井に降りた宮家の者が、再び宮家に戻るということは、あるのか?」
 スイトが、首を今度は別の方向に傾ける。
「さて……。」
 良くは知らない、と答える別当に、そうだったな、と頷く。赴任したばかりで慣れぬ事ばかりのス
イトには、過去の宮家の事までは分かるまい。
 リツセなら、知っているのだろうか。
 心の裡に思い描いた人物に聞けばよいのかもしれないが、しかしそれをするのは気が退けた。市井
に降りて、曲がりなりにも普通に生きているリツセに、宮家のことを問い質すには、リショウはそれ
ほどまで長い時間を共有していない。
 互いの中に、同じ血を見出していても、それでも共有を躊躇う部分というのは存在する。
「そういえば。リショウ殿は、宮家から市井に降りた者と親しいのだったな。」
 スイトの口から、正にリツセのことを指す言葉が出てきた。表情には出さなかったが、リショウは
内心ぎくりとする。別に、やましいところは何もないのだが。
 スイトはそんなリショウの心裡には気づかず、手酌で空になった盃に酒を注ぎながら言う。
「私の眼から見れば、あれは危険だと思うのだがな。」
 何、と思わず険を眉間に込めそうになったリショウに、スイトは続ける。
「市井に降りた宮様の弟はお亡くなりになって、嫁御と息女が健在なのだろう?ならば、それを使っ
て宮家に何かしようと考える輩がいてもおかしくないはず。」
「ああ………。」
 それは、リショウも度々感じた懸念だ。市井に降りても、リツセは宮家の姫なのだ。町人達の中に
混じって生きてはいるが、どれだけリツセが普通に暮らしても、周囲の眼差しは決して町人と同じも
のを見る眼にはならないだろう。
 ましてリツセの宮家の血は濃い。
 妾腹のはとこよりも。人の波の中にいるから猶更。
 思いついて、ぞっとした。妾腹のはとことやらの中に、何か宮家に含むものがあったとしたら。そ
の眼差しが、宮家から脱しながらもその威光の下にいるリツセを見たとしたら。
 ナチハ達が、宮家のはとこの客人であるテオドロに冷たいのは、その辺りの事情があるのではない
か。
 思わず歯噛みしそうになったリショウの膝に、もふ、と柔らかい物が当たる。むにだ。
 円らな眼で見上げる水守に、リショウは小さく溜め息を吐き、お蔭で噛み締めかけていた歯が解け
た。
 ぽむ、とむにの頭を撫でながら、いずれにせよ、と思う。いずれにせよ、宮家のはとことやらにつ
いては気を付けておかねばなるまい。

 明日にでも、そのはとこについて調べてみよう。宮家の内情ならば、ワタヒコあたりを突けば何か
分かるかもしれない。少なくとも、瀬津郷の人々の眼から見た、宮家のはとこの存在意義は、分かる
だろう。
 リショウは、ひっそりと頷いた。
 しかし、その決意は、少しばかり遅すぎたのだ。